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魂は逝去した
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わたくしは彼の部屋に入った途端、鍵を閉めて家探しした。するとまずはベッド下に、シーツで包み隠されたスーツケースを発見した。それには鍵がかかっていたが、持ってみると重く、中身が入っているのは明白だった。
他には情報媒体のパスワードでも紙切れに書いて貼っていないだろうかと考え、机下を覗いた所、そんなものは無かったが、どこか似た顔立ちの母娘と思しき外国人2人がリラックスした表情で、どこぞの遊園地で撮られたかのような写真が貼り付けられていた。後は、机の引き出しを全て引っ張り出して奥を覗くと、使い古しの封筒が1つ見付かった。中身は、明日発の海外行き航空券の片道切符だった。
✳
そして迎えた次の日の朝、シャリムは目を覚ますと相好を崩した。
「ふふっ嬉しいな~、シャハル起きて。うーんやっぱりダメ、起きないでずっと朝寝しよう」
再びベッドに潜り込んで寝落ちしようとしたシャリムだったが、間もなく寝た振りを辞めたシャハルに引っ張り出された。
「おはよう、シャリム。とても思い出深い夜だったよね。これで名実ともに太子妃を得られた訳だから、もう会いたくて堪らないだろう? それじゃ。僕とはこれでおさらばだね」
そう言って手書きの文書を差し出されたシャリムは、急いでそれに目を通した。
「は? 離縁通告って、ふざけんな誰だ受理したのは!? ダリク帝? よくも裏切りやがったな…あのクソジジイ、さっさとおっ死ね!」
シャリムは見覚えのある署名を憎々し気に見つめてから紙切れを放り出すと、すぐさま情理を尽くして伴侶の説得に当たった。
「待ってシャハル、アレは浮気じゃありません。ただの家業で、要するに事前確認作業です。それとは別に自分の愛情を確かめたかったら、手を出して下さいよ。というか出しましょう? 今すぐにでも。ねえ、貴方だってさっき自分で抜いてたんでしょう? 指から微かに匂いを感じます」
「鋭いなあ、いっそアロマテラピストにでも転職したら? そしたらまた最初から付き合おうか」
「このいけず! そんなの出来っこないって知ってるでしょ。やっぱり子供が居ないと駄目ですね、気紛れな蝶を縛り付けておくにはそれが1番だ。今度はアリネと3人で子育てしましょうよ、イズミル先輩のアル中親父は、恐らく無自覚のまま疑似一夫多妻制を敷いて失敗しましたけど、自分なら上手くやれます。必ず貴方と幸せになります。1人につき約18年、貴方の年齢からして成るべく年の離れた兄弟を2人以上設ければ、後は衰えた貴方を看取るまで介護出来ますからね」
シャハルはシャリムの虹彩を見つめてどうやら本気の発言だと悟ると、思わず口笛を吹いた。
「素晴らしい。少子高齢社会なら鑑みたいな発言だね、それなら僕はドキュメンタリー作家として生涯現役を貫いて、取材中に君の知らない土地で知らない間にたった1人で死んでやるよ。1人じゃ何もできなくなって、寝たきりで死神に走馬灯を見せつけられながら、ただただ最後の時を迎えるまで生きながらえて死んでいくよりは、その方が鮮烈というものさ。シャリム、非常に残念だけど、僕の魂はもうとっくに死んでしまったのさ。君が愛しているのは、ただ魂の抜け殻で。もうそこにはなーんにも、塵一つ欠片一つ残っていない」
そう言いながら視線はどこか遠くを見つめているシャハルに腸が煮え繰り返ってきたシャリムはマウントを取った。
「何て酷い仕打ちでしょうね、他でもない自分に向かって。それじゃ自分は何の為に産まれて来たんですか? 貴方が両親を使って自分を産んだんだ。こんな地獄にまで可愛い我が子を呼び出しておいて、いざとなったら一人だけ怖気づいて逃げるおつもりですか? よくもそんなことが出来ますね。なーんだ。やれば出来るじゃないですか、もう枯れたんじゃないかと心配してましたよ」
シャハルから腰に手を廻され、一瞬喜んだのも束の間、シャリムはそのまま容赦無く、腹をくすぐられて笑い転げて悲鳴を上げた。
「君は僕を誘拐した挙げ句、今度は破戒させる気? そうは行かない」
笑い疲れてベッドにうずくまるシャリムを放置して、シャハルは部屋を出て行った。その後回復し、いそいそと衣服を身に纏ったシャリムはシャハルの部屋まで彼を追いかけ、鍵を掛けられて開かないと悟るや否や、斧を持参して隣の部屋のベランダから乗り移り、窓の一部を破壊して土足で部屋に乗り込んだ。この凶行に、シャハルはまだ室内に残っていたアリネと共に青ざめてようやく観念した。
「シャハル。払い戻しをしますから、航空券を出して下さい」
「いや……今回は大事な仕事が。いつもそうだけど、今回は特に」
「やだなあ、貴方は仕事なんかする必要ありませんよ。ずっとここに居ればいいじゃありませんか」
他には情報媒体のパスワードでも紙切れに書いて貼っていないだろうかと考え、机下を覗いた所、そんなものは無かったが、どこか似た顔立ちの母娘と思しき外国人2人がリラックスした表情で、どこぞの遊園地で撮られたかのような写真が貼り付けられていた。後は、机の引き出しを全て引っ張り出して奥を覗くと、使い古しの封筒が1つ見付かった。中身は、明日発の海外行き航空券の片道切符だった。
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そして迎えた次の日の朝、シャリムは目を覚ますと相好を崩した。
「ふふっ嬉しいな~、シャハル起きて。うーんやっぱりダメ、起きないでずっと朝寝しよう」
再びベッドに潜り込んで寝落ちしようとしたシャリムだったが、間もなく寝た振りを辞めたシャハルに引っ張り出された。
「おはよう、シャリム。とても思い出深い夜だったよね。これで名実ともに太子妃を得られた訳だから、もう会いたくて堪らないだろう? それじゃ。僕とはこれでおさらばだね」
そう言って手書きの文書を差し出されたシャリムは、急いでそれに目を通した。
「は? 離縁通告って、ふざけんな誰だ受理したのは!? ダリク帝? よくも裏切りやがったな…あのクソジジイ、さっさとおっ死ね!」
シャリムは見覚えのある署名を憎々し気に見つめてから紙切れを放り出すと、すぐさま情理を尽くして伴侶の説得に当たった。
「待ってシャハル、アレは浮気じゃありません。ただの家業で、要するに事前確認作業です。それとは別に自分の愛情を確かめたかったら、手を出して下さいよ。というか出しましょう? 今すぐにでも。ねえ、貴方だってさっき自分で抜いてたんでしょう? 指から微かに匂いを感じます」
「鋭いなあ、いっそアロマテラピストにでも転職したら? そしたらまた最初から付き合おうか」
「このいけず! そんなの出来っこないって知ってるでしょ。やっぱり子供が居ないと駄目ですね、気紛れな蝶を縛り付けておくにはそれが1番だ。今度はアリネと3人で子育てしましょうよ、イズミル先輩のアル中親父は、恐らく無自覚のまま疑似一夫多妻制を敷いて失敗しましたけど、自分なら上手くやれます。必ず貴方と幸せになります。1人につき約18年、貴方の年齢からして成るべく年の離れた兄弟を2人以上設ければ、後は衰えた貴方を看取るまで介護出来ますからね」
シャハルはシャリムの虹彩を見つめてどうやら本気の発言だと悟ると、思わず口笛を吹いた。
「素晴らしい。少子高齢社会なら鑑みたいな発言だね、それなら僕はドキュメンタリー作家として生涯現役を貫いて、取材中に君の知らない土地で知らない間にたった1人で死んでやるよ。1人じゃ何もできなくなって、寝たきりで死神に走馬灯を見せつけられながら、ただただ最後の時を迎えるまで生きながらえて死んでいくよりは、その方が鮮烈というものさ。シャリム、非常に残念だけど、僕の魂はもうとっくに死んでしまったのさ。君が愛しているのは、ただ魂の抜け殻で。もうそこにはなーんにも、塵一つ欠片一つ残っていない」
そう言いながら視線はどこか遠くを見つめているシャハルに腸が煮え繰り返ってきたシャリムはマウントを取った。
「何て酷い仕打ちでしょうね、他でもない自分に向かって。それじゃ自分は何の為に産まれて来たんですか? 貴方が両親を使って自分を産んだんだ。こんな地獄にまで可愛い我が子を呼び出しておいて、いざとなったら一人だけ怖気づいて逃げるおつもりですか? よくもそんなことが出来ますね。なーんだ。やれば出来るじゃないですか、もう枯れたんじゃないかと心配してましたよ」
シャハルから腰に手を廻され、一瞬喜んだのも束の間、シャリムはそのまま容赦無く、腹をくすぐられて笑い転げて悲鳴を上げた。
「君は僕を誘拐した挙げ句、今度は破戒させる気? そうは行かない」
笑い疲れてベッドにうずくまるシャリムを放置して、シャハルは部屋を出て行った。その後回復し、いそいそと衣服を身に纏ったシャリムはシャハルの部屋まで彼を追いかけ、鍵を掛けられて開かないと悟るや否や、斧を持参して隣の部屋のベランダから乗り移り、窓の一部を破壊して土足で部屋に乗り込んだ。この凶行に、シャハルはまだ室内に残っていたアリネと共に青ざめてようやく観念した。
「シャハル。払い戻しをしますから、航空券を出して下さい」
「いや……今回は大事な仕事が。いつもそうだけど、今回は特に」
「やだなあ、貴方は仕事なんかする必要ありませんよ。ずっとここに居ればいいじゃありませんか」
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