②シャリム外伝 潜竜談

テジリ

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アリネの婚活

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 必ず一人で来るようにと言われ、わたくしはある程度着飾ってから大伯母に会いに行った。

 若い頃セーアン地方に嫁いだ大伯母は、その後紆余曲折を経て、現在は養女であるソピリヤ・ヨウゼン議員宅で暮らしていた。



 議員宿舎に到着し、ヨウゼン議員宅の1室まで通されると、その部屋にはわたくしと同じような年頃のご令嬢方が、他にも数人集められていた。
 彼女らはお見合いの想定問答集を読み耽ったり、手鏡を見ながら髪型を直したり、隣合わせたご令嬢同士ぺちゃくちゃとお喋りをしていた。勿論あり得ない事では在るのだが、わたくしはそこに仔鹿バンビの姿を探し、間違いなく居ないことを確かめるとホッとした。


「御機嫌よう、お嬢様方。今日は来てくれてありがとう。早速だけど、私から今後の流れについて説明させて貰います。ああ、姿勢は楽にして。私はお相手選びには何ら関わっていないから、そんなに気を遣っても全然意味無いからね。面接本番まで余計に疲れるだけ」


 そう言って部屋に入って来たのは、大伯母の養女であるソピリヤ・ヨウゼン議員だった。彼女から説明を受けた後、少しだけ質問の時間が設けられ、辞退者の有無も確認されたが名乗り出る酔狂者は居なかった。その後は単純な筆記試験が行われ、採点する間は適宜近場で昼食を摂るようにと、集合時間になるまで一時解散した。

 議員宿舎に戻って来ると、順々に名前が呼ばれ、1人ずつ手荷物を持って部屋を出て行った。結果がどうあれ公平を期す為に、面接内容に関する相談を防ぎたいのだろう。

 待っていると、やがてわたくしの番も来た。ノックして面接部屋に入ると、そこにはたった1人、外国人の母親譲りの美貌で名高い王位請求者、シャリム=ヴィンラフ太子がパイプ椅子に座り、簡素な折畳み机の上にある釣書をつまらなそうに眺めていた。

「初めまして。まずはお名前とご年齢を伺っても宜しいかな」

「はい。アリネ・ハルサナワと申します、齢18です」

「尊敬している方は誰ですか」

「バーダト・ジルキット少佐です」

「ご趣味やお好きな食べ物について、何か仰って下さい。本当に何でも良いので」

「発酵バターが好きです。以前チェーン店のスーパーで、たまたま目についた無塩の発酵バターを購入し、帰宅後バケットに塗って食べました。すると塩気の代わりにヨーグルト風の酸味が効いていて、無塩でもこんなに美味しいのかと驚きました」

「貴方のお話は珍しいですね。他の方ならもっと、お菓子作りがどうとか仰るのですが」

 その後も幾つか質問を受け、最後に他に意中の人が居ないかや、恋人の有無を訊かれた。

「いいえ、どちらもおりません。ですがわたくし、1つ懸案事項を抱えておりまして。実は先日、軍の入隊試験を受けたのです。現在その結果を待っている状態で、まあどうせ受かりっこ無いですし、受かっても是非、入隊では無く、もし仮に貴方様さえ宜しければ、共に人生を歩んで行きたいと考えておりますので、どうぞご安心下さいませ」

 勿論最後のは社交辞令という奴だ。だがジルキット少佐を尊敬し、軍を志すような人間など、太子妃として相応しくないのは明白だ。さあ、これで大丈夫。曲がりなりにも太子の面子を立てなければ、帰って父に何をされるか分からない。軍の入隊許可が得られれば、わたくしはあの親達から逃れ、シビル連邦政府と軍に忠誠を誓って生きていこう。軍こそがわたくしの本当の家族になるはずだ。その為にも身体を鍛えて、一所懸命頑張らないと。



 その頃別室ではシャハルとソピリヤが、面接の様子が映し出されたモニターの前で、2人の産まれたセーアン地方スミドのお国言葉で会話をしていた。

「どがんだろうか、ソピリヤ。これでったあシャリムも、落ち着いてくれらすとかとだけど……」

「大丈夫たい、シャハル。そがん心配せんでもか、今日は私が奢るけん。こがん機会もあんま無かし、折角たい。うちの書生さん達も連れて、どっかで呑みかたせんね?」

「あぁたは酒に強かもんなあ、でも僕ぁ、別に飲めん訳じゃ無かとだけど、元からあんま酒、好かんつたい? 酒ん種類の多かとこより、めし美味うまか店がか」

 産まれ故郷から遠く離れ、お国言葉など全く通じない首都ポンチェト=プリューリに居る2人にとって、何ら問題なく通じる会話は久しぶりで耳に懐かしく、あえてスミドに居る時以上に強くお国言葉を効かせて、幼馴染同士の会話を楽しんでいた。

「シャハル。ヨウゼン議員と何を話していらっしゃるんですか、わざわざお国言葉まで使って」

 それは最後の1人と面接を終えてシャハルを迎えに来たシャリムが、あからさまに嫉妬する程だった。




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