5 / 20
足下から鳥が立つ
しおりを挟む
わたくしは仔鹿の手首を取って、その動脈の匂いを嗅いだ。暖かい体温と共に脈打つそこからは、ほのかに漂う生命の香りがした。
「嗚呼っ先輩、こんなのどうせ気紛れですよね。でも本当の本当ですか、お相手がわたくしなんかで本当に宜しいんですか」
震えるその唇目掛けてやや強引に、でも触れる際は優しく、しっとりと口づけを交わした。袴キュロットのチャックを降ろし、着ている上衣との間に指を差し入れ、衣服の中に手を入れてから直接肌に触れると、仔鹿は一瞬身体を跳ねさせたが、そのまま全てを委ねてくれた。邪魔なシスターが駆け付けるまでは。
「貴方達、そこで何をしているのっ。今すぐ離れなさい、すぐにっ」
✳
花嫁学校と名高い玫瑰女学院に通う娘の醜聞が届いた時、母は泣いた。父は怒鳴り、責任の所在をもう一人の生徒に負わせようと試みたが、肝心の娘が学校全体の前で謝罪した後では、もう取り返しがつかなかった。こうしてわたくしは潔く退学処分を受け入れ、卒業間近の学校を去ることにした。
屋敷の中は以前より更に冷え切って、父は成るべく早く親不孝者の娘を追い出す為、手当たり次第に社交の場へ連れ出した。しかし壁の花を決め込む娘は何の成果も求めようとせず、父は苛立ちのあまり帰りの車内で娘の白粉まみれの頬を張ると、途中で車を止めさせ別宅の愛人の元へ向かうのが常だった。母は母で泣き暮らす毎日を送り、現状を招いた責任を全て娘に帰すると、己が身の不幸を嘆いて罵り、それにも飽きると酒に溺れた。そんな折に、大伯母から1本の電話が入った。
「アリネです。何の御用でしょうか」
「貴方、縁談を探しているのでしょう。良いお話があるの」
「嗚呼っ先輩、こんなのどうせ気紛れですよね。でも本当の本当ですか、お相手がわたくしなんかで本当に宜しいんですか」
震えるその唇目掛けてやや強引に、でも触れる際は優しく、しっとりと口づけを交わした。袴キュロットのチャックを降ろし、着ている上衣との間に指を差し入れ、衣服の中に手を入れてから直接肌に触れると、仔鹿は一瞬身体を跳ねさせたが、そのまま全てを委ねてくれた。邪魔なシスターが駆け付けるまでは。
「貴方達、そこで何をしているのっ。今すぐ離れなさい、すぐにっ」
✳
花嫁学校と名高い玫瑰女学院に通う娘の醜聞が届いた時、母は泣いた。父は怒鳴り、責任の所在をもう一人の生徒に負わせようと試みたが、肝心の娘が学校全体の前で謝罪した後では、もう取り返しがつかなかった。こうしてわたくしは潔く退学処分を受け入れ、卒業間近の学校を去ることにした。
屋敷の中は以前より更に冷え切って、父は成るべく早く親不孝者の娘を追い出す為、手当たり次第に社交の場へ連れ出した。しかし壁の花を決め込む娘は何の成果も求めようとせず、父は苛立ちのあまり帰りの車内で娘の白粉まみれの頬を張ると、途中で車を止めさせ別宅の愛人の元へ向かうのが常だった。母は母で泣き暮らす毎日を送り、現状を招いた責任を全て娘に帰すると、己が身の不幸を嘆いて罵り、それにも飽きると酒に溺れた。そんな折に、大伯母から1本の電話が入った。
「アリネです。何の御用でしょうか」
「貴方、縁談を探しているのでしょう。良いお話があるの」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ボッチによるクラスの姫討伐作戦
イカタコ
ライト文芸
本田拓人は、転校した学校へ登校した初日に謎のクラスメイト・五十鈴明日香に呼び出される。
「私がクラスの頂点に立つための協力をしてほしい」
明日香が敵視していた豊田姫乃は、クラス内カーストトップの女子で、誰も彼女に逆らうことができない状況となっていた。
転校してきたばかりの拓人にとって、そんな提案を呑めるわけもなく断ろうとするものの、明日香による主人公の知られたくない秘密を暴露すると脅され、仕方なく協力することとなる。
明日香と行動を共にすることになった拓人を見た姫乃は、自分側に取り込もうとするも拓人に断られ、敵視するようになる。
2人の間で板挟みになる拓人は、果たして平穏な学校生活を送ることができるのだろうか?
そして、明日香の目的は遂げられるのだろうか。
ボッチによるクラスの姫討伐作戦が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
oldies ~僕たちの時間[とき]
菊
ライト文芸
「オマエ、すっげえつまんなそーにピアノ弾くのな」
…それをヤツに言われた時から。
僕の中で、何かが変わっていったのかもしれない――。
竹内俊彦、中学生。
“ヤツら”と出逢い、本当の“音楽”というものを知る。
[当作品は、少し懐かしい時代(1980~90年代頃?)を背景とした青春モノとなっております。現代にはそぐわない表現などもあると思われますので、苦手な方はご注意ください。]
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
空の蒼 海の碧 山の翠
佐倉 蘭
ライト文芸
アガイティーラ(ティーラ)は、南島で漁師の家に生まれた今年十五歳になる若者。
幼い頃、両親を亡くしたティーラは、その後網元の親方に引き取られ、今では島で一目置かれる漁師に成長した。
この島では十五歳になる若者が海の向こうの北島まで遠泳するという昔ながらの風習があり、今年はいよいよティーラたちの番だ。
その遠泳に、島の裏側の浜で生まれ育った別の網元の跡取り息子・クガニイルも参加することになり…
※毎日午後8時に更新します。
演じる家族
ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。
大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。
だが、彼女は甦った。
未来の双子の姉、春子として。
未来には、おばあちゃんがいない。
それが永野家の、ルールだ。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる