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隣の席のマドンナ

ジュリエット・キャピュレットも真っ青

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 しかしながら、もしかしたらそんな隣の席のマドンナと少しは会話できるような、最初で最後のチャンスが灯枇あけびにも巡って来た。

それは理科の日照記録実験である。灯枇あけび達3―9の生徒達は、たしか給食で出たゼリーか何かの空容器を利用して、その空容器を校庭の片隅にひっくり返して置き、射している日光の位置を定期的に油性ペンで記録するという実験を一度、授業の一環でやらされたのだ。

これは隣の席同士、もしくは適当に好きな相手と2人ペアを組んで行う事になっていた。それで灯枇あけびは隣の席のマドンナから直々に、「どうする? 野々下さん一緒にやる?」とのお言葉を頂戴した。

――え? マジで良いのか? おれの事を嫌いじゃないのか?

 マドンナの発言には驚きつつも、当然の事ながら、灯枇あけびの本心としては全くもって悪い気はしなかった。隣の席のマドンナはいつもと変わらず、灯枇あけびとは親しい間柄では無いため、ぶっきらぼうな感じだったが、あの優等生ぶるのが大のお得意の、小学生のうちに転校して行ったナスビとは違って、きっと真面目で律儀な性格なのだろう。

「ねぇ灯枇あけびちゃん、一緒にやろ~」

だがここで邪魔者が現れた。灯枇あけび的には小学校4年生以来、クラスが別れた事で清々せいせいしていた妃鞠である。この妃鞠とは、ヒヲス中学校の3―9になって、再びクラスメイトとなっていた。妃鞠の出現により、マドンナの提案は宙に浮いて、結局実験は親しい者同士やる方が良いだろうという事になってしまい、隣の席のマドンナは親しい女子達の元へ行ってしまった。

それで灯枇あけびは、ああやはりマドンナからは嫌われているのだなと勘違いをしてしまい、でもまあ妃鞠が同じクラスでまだ良かったと安堵した。が、それは誤りだった。


 何故なら中学校を卒業後、おそらくは高校入学前の暇な期間中に、遊ぶ約束をしたか何かで妃鞠と会った灯枇あけびは、その妃鞠から、驚愕の事実を知らされる。

それは、卒業式が終わった際に、特に女子達は親しい友人同士誘い合って、お互いの卒業アルバ厶の自由欄ページに「ズッ友だょ♡」だの何だのと、何かしらのメッセージを書き残し合う風習があり、その際の妃鞠にあったエピソードだった。


ちなみに、この自伝的小説・「タイマヲマイタ」を読んでいれば分かると思うが、その成り行き的な主人公・「野々下 灯枇あけび」は、とにかく友人関係にある者が少なく、3―9内には妃鞠ぐらいしか居なかった。

だから妃鞠に言われてお互いのアルバムに何かしら書いた他は、おそらくクラスのレアキャラ扱いか何かの需要で別の女子にも頼まれ、一人二人に宛てて書いた以外、実は灯枇あけびは卒業式終了直後に、バレれば先生からの呼出し説教を食らいかねないトラブルを引き起こしていた事もあって、早々に大嫌いなヒヲス中学校を立ち去っていた。


なので灯枇あけびは母親から、「もう帰るの?」と、問われながらもスタスタと先を急ぎ、一目散に自宅へと逃げ去る為、早々に中学校を後にしたが、妃鞠はというと、以前に学校は友達に会えるから好きだと摩訶不思議な発言をしていただけの事はあり、少なくとも灯枇あけびよりは長くヒヲス中学校に留まっていたようだ。

 だから妃鞠は、あの灯枇あけびとは元隣の席のマドンナから、驚愕の事実を告げられたらしい。

なんと元隣の席のマドンナは、灯枇あけびと仲良くしたかったらしい。だから日照実験の時も、隣の席同士である灯枇あけびと、本気で一緒に実験をするつもりで声を掛けたらしいのだ。

つまりは隣の席のマドンナもまた、灯枇あけびと同じく友人関係の新規開拓に恐怖を抱いてしまうタイプで、その上、慣れ親しんだ友人達以外との接し方が上手くいかず、一見ぶっきらぼうに見えてしまうような、不器用な人物でもあったのだ。



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