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典口 承 まだつづく

決して乗っかる訳では無い

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 野々下 灯枇あけびが小学校6年生から通い始めた学習塾・さくら塾では、塾生達は中学校に進学すると、それまでとは違い学校制服の着用が義務付けられた。

 そのルールに対して、灯枇あけびや長年の塾生達は不満たらたらだったが、そういう決まりなのだからしょうがない。ただし部活動が長引いた際は、学校指定の激ダサ体操服や、部活ジャージの着用も認められていたので、灯枇あけびも何度か水泳部のアリーナジャージで授業を受けた。ある時など、たまたま塾のチラシ写真を撮影する際にもアリーナジャージだったため、灯枇あけびはまんまとチラシに写らずに済んで喜んだ。


さくら塾では他にも、ガムが固く禁じられ、もしさくら塾の先生にガムを噛んでいる現場を見られると、その噛んでいるガムをきちんと始末させられ、噛んでいた者は塾のカウンター横で、床に正座させられるという罰則があった。その理由は、もしガムを吐き捨てたら教室の床が汚くなるからである。とまあ、他にも色々と特色のある塾だったのだが、それはまた今度書くとして、今回は灯枇あけび同塾おなじゅくの、典口のりぐち しょう君について書く事にしよう。


 典口のりぐち君もまた、一度知らずにガムを噛んで、罰としてカウンター横で他の男子数名共々、仲良く正座させられていた。この典口のりぐち君は、中学生になってからさくら塾へ入って来た、見た目も清々しいハンドボール部員の好人物である。しかしながら良くも悪くも、思ったままの事をそのまま口に出してしまう正直者で、人を選んでからかう様な悪癖もあった。

 典口のりぐち君は、灯枇あけびと同じBクラスに振り分けられており、やはり同じくBクラスの保元やすもとという人物が地黒である為、今話題のボビー・オロゴンになぞらえて、「ナイジェリア、ナイジェリア」と、からかうのだ。

保元やすもとは「もー、止めてよ」と言うのだが、典口のりぐち君は保元やすもとを面白がって、全く止めようとはしない。最低な事だが、それを間近で見聞きしている灯枇あけびも、保元やすもとに悪いし、典口のりぐち君の問題発言は、ナイジェリアに対する差別発言と受け止められかねない、大変に危ういものだと考えていながら、どうしても笑いがこらえきれずに笑ってしまう。

 これはやはり箸が転がっても面白可笑しい年頃だったのと、灯枇あけびはただでさえ元々笑い上戸なのに、さくら塾の先生達による面白可笑しい塾生いじりを見聴きした事で、更に笑いの沸点が低くなっていたからだ。その為に、ちょっとした事ですぐ笑ってしまい、笑いを上手くこらえることも、まだ出来ない未熟者だったからである。


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