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第二章 雪けぶる町
世に発するは彼の声
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ジョアンことシャハル=イェノイェにとって、母レラムや姉妹同然のセウロラを残して来た、うまれ故郷のスミドで大事件とは、心中全く穏やかでない。
よもやまた、あの時、父トビラスを殺害したのと同じ様な、手作り感満載で非常に粗悪な作りの地雷を利用した、大量殺傷事件でも起こったのだろうか?
そういえば、あの後誰か捕まったという話も聞いていない。であれば今もまだ、少なくとも一人の殺人鬼がどこかで野放しになっているはずだ。
メスキータ弁護士に問い質したところ、幸いそれに関しては杞憂だった。しかし尚悪いとも言えた。
シャハルをあの生き地獄から連れ出した救いの手、ハンムルーシフことルシフが、その地獄の鬼ハンムラビ・ヨウゼンの暗殺を企て、失敗したというのだ。
しかもその後の法廷で完全黙秘を決め込んだルシフは、
彼が治めていたウキン太守国の経済規模にそぐわない公共工事を行っていたこと、
高度な異国の鉱物学・薬学的文献資料の数々を有していたこと、
小規模な実験施設もアビス邸地下に建設され、頻繁に使われた形跡があったこと、
などから、無断外交や敵対する近隣諸外国との強固な繋がりを疑われ、
実際にスミド太守であるハンムラビ暗殺に成功した場合、満を持してスミドを乗っ取るつもりであったことから、内乱罪で銃殺刑の可能性があるのだという。
世界開発機構所属の弁護士、ルペン・メスキータから告げられたこれらの内容に、シャハルは唖然とした。
「流石にヤバ過ぎる。何してんのあの人……気持ちは分かるけど。とにかくこのまま黙ってたら殺される。どうにかしてルシフを助けないと」
「よく言ったシャハル、その言葉を待ってたよ。実は君の次なるホームステイ先も、その為に選んだと言っていい」
やがてインターネット上の動画投稿サイトに、1本の動画がアップロードされた。
――何が正しく、何が間違っているのか?
『I abhor you! 〈テメェなんか大っ嫌いだ!〉』これは、あの時僕が言えなかった心の叫びです。
この動画を見ているあなた方は知らないはずです。
今、世界の片隅で、何が行われようとしているのか。
自らの声で主張しなければ、やがて人は、生きる権利すら奪われてしまいます。声無き声を聴き取れる人間は、まだあまり多くは無いのです。
僕はある国の亡命者です。
旧王国時代を経て連邦制へと移行し、出来たばかりのまだ新しいその国は、各地方の政治や文化、経済活動を、ほとんど封建領主達がまかなっています。
彼等は父祖の代から受け継いだ土地と住民を愛し、次の世代へと繋げる努力をしています。
しかし、かつて彼等の調停者として君臨していた王室が国外追放されてからというもの、その権力は、時に暴走を始めました。
例えば、チャイルド・マレスターです。
スミド太守ハンムラビ・ヨウゼンは、その代表的な人物です。僕は彼に嫌だと言えませんでした。
家族に何をされるか分からなかったからです。
言っても何もされなかったかも知れませんが、
少なくとも当時の僕は、怖くて恐くて堪りませんでした。
僕だけじゃありません。彼は言いました。
僕の父も、ハンムルーシフも通った道だと。
ただ父は既に亡くなり、真相を確かめる術はありません。
ですがハンムルーシフはまだ生きています。
僕はハンムルーシフによって、国の外へ逃がして貰いました。
ハンムルーシフは国に残り、その手段はともかくとして、過去を乗り越えようと努力しました。今はそれで裁判を受けていますが、自供を拒み、不利な証拠ばかり揃っています。このままではハンムルーシフは、銃殺刑になるかも知れません。
だがこの場合、何が正しく、何が間違っているのでしょうか?
僕が言えるのはこれだけです。
『I abhor you! 〈テメェなんか大っ嫌いだ!〉』これは、あの時僕が言えなかった、魂の叫びです。
よもやまた、あの時、父トビラスを殺害したのと同じ様な、手作り感満載で非常に粗悪な作りの地雷を利用した、大量殺傷事件でも起こったのだろうか?
そういえば、あの後誰か捕まったという話も聞いていない。であれば今もまだ、少なくとも一人の殺人鬼がどこかで野放しになっているはずだ。
メスキータ弁護士に問い質したところ、幸いそれに関しては杞憂だった。しかし尚悪いとも言えた。
シャハルをあの生き地獄から連れ出した救いの手、ハンムルーシフことルシフが、その地獄の鬼ハンムラビ・ヨウゼンの暗殺を企て、失敗したというのだ。
しかもその後の法廷で完全黙秘を決め込んだルシフは、
彼が治めていたウキン太守国の経済規模にそぐわない公共工事を行っていたこと、
高度な異国の鉱物学・薬学的文献資料の数々を有していたこと、
小規模な実験施設もアビス邸地下に建設され、頻繁に使われた形跡があったこと、
などから、無断外交や敵対する近隣諸外国との強固な繋がりを疑われ、
実際にスミド太守であるハンムラビ暗殺に成功した場合、満を持してスミドを乗っ取るつもりであったことから、内乱罪で銃殺刑の可能性があるのだという。
世界開発機構所属の弁護士、ルペン・メスキータから告げられたこれらの内容に、シャハルは唖然とした。
「流石にヤバ過ぎる。何してんのあの人……気持ちは分かるけど。とにかくこのまま黙ってたら殺される。どうにかしてルシフを助けないと」
「よく言ったシャハル、その言葉を待ってたよ。実は君の次なるホームステイ先も、その為に選んだと言っていい」
やがてインターネット上の動画投稿サイトに、1本の動画がアップロードされた。
――何が正しく、何が間違っているのか?
『I abhor you! 〈テメェなんか大っ嫌いだ!〉』これは、あの時僕が言えなかった心の叫びです。
この動画を見ているあなた方は知らないはずです。
今、世界の片隅で、何が行われようとしているのか。
自らの声で主張しなければ、やがて人は、生きる権利すら奪われてしまいます。声無き声を聴き取れる人間は、まだあまり多くは無いのです。
僕はある国の亡命者です。
旧王国時代を経て連邦制へと移行し、出来たばかりのまだ新しいその国は、各地方の政治や文化、経済活動を、ほとんど封建領主達がまかなっています。
彼等は父祖の代から受け継いだ土地と住民を愛し、次の世代へと繋げる努力をしています。
しかし、かつて彼等の調停者として君臨していた王室が国外追放されてからというもの、その権力は、時に暴走を始めました。
例えば、チャイルド・マレスターです。
スミド太守ハンムラビ・ヨウゼンは、その代表的な人物です。僕は彼に嫌だと言えませんでした。
家族に何をされるか分からなかったからです。
言っても何もされなかったかも知れませんが、
少なくとも当時の僕は、怖くて恐くて堪りませんでした。
僕だけじゃありません。彼は言いました。
僕の父も、ハンムルーシフも通った道だと。
ただ父は既に亡くなり、真相を確かめる術はありません。
ですがハンムルーシフはまだ生きています。
僕はハンムルーシフによって、国の外へ逃がして貰いました。
ハンムルーシフは国に残り、その手段はともかくとして、過去を乗り越えようと努力しました。今はそれで裁判を受けていますが、自供を拒み、不利な証拠ばかり揃っています。このままではハンムルーシフは、銃殺刑になるかも知れません。
だがこの場合、何が正しく、何が間違っているのでしょうか?
僕が言えるのはこれだけです。
『I abhor you! 〈テメェなんか大っ嫌いだ!〉』これは、あの時僕が言えなかった、魂の叫びです。
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