37 / 65
第二章 雪けぶる町
雪けぶる町
しおりを挟む
ザキントスは、別れた両親の故郷から名前を取ったらしい。移民として流れ着いたこの町で、彼は漁師となり、彼女は民族の味を活かして料理店を開いた。しかして彼女は漁へ出たきり帰らぬ元夫、帰って来た所で疲れ果て愛一つ囁かない元夫に嫌気が差し、一人娘の目の前で指輪を投げ付けた。その末路がこれだ。
――浮かれたバックパッカーが我が物顔で居座る家。
でも今居るこいつはまだマシな方。少なくとも、聞かれてない事は喋らない。
――君のママは最高だったよ。え?何がって?
気分は限りなくどん底のブルーだ。朝っぱらから嫌な事を思い出してしまった。
「何? 食べないの? せっかくケンが作ってくれたのに。無理なダイエットは美容に良くないんだからね、まったく、大して食べもしないのにぶくぶく太って」
遥か彼方のハイスクールまで、片道2時間運転しながら向かう。対向車も無ければ、後続車も無い。どれだけかっ飛ばそうが誰も見ていない。いっそこのままガードレールを突き破って、車ごとスクラップになってやろうか。
学校に着いた。オンボロ車を停めて駐車場を後にする。終わったら教会に行ってメトディオス修道士に会おう。
薄暗い廊下で剥がれかけたポスターに目が留まる。
――ホストファミリー募集中! 自宅で気軽に異文化交流!
留学生…良いかも知れない。ママが男を連れ込むなら、私だって異国の友人を連れ込んでやろう。
担当職員に話を聞けば、成り手が見つからずにほとほと困り果てていたらしい。
――男の子だけど、大丈夫?
あー……まあ、良いや。帰ってママに訊いてみます。私は全然、構わないんで。
「ダメに決まってるでしょう、そんなの。うちにはケンが居るの。余っている部屋なんか無いし、あ、それとも貴方が出てく?」
どうせ反対すると思った。でもその冗談は笑えない。
「おういキリアキ、注文はまだかい? ああイオニア、いつものコーヒーとヨーグルトパフェを頼むよ。おや? 何だか泣きそうな顔をしているね? 」
そっと気に掛けてくれたポチョムキン夫妻は、うちの常連で長い付き合いだ。
お給仕のついでに、留学生やホストファミリーの話を掻い摘んで説明した。
「へえ、なるほどねえ。悪くないんじゃない。うちなら部屋も余ってるし……」
――浮かれたバックパッカーが我が物顔で居座る家。
でも今居るこいつはまだマシな方。少なくとも、聞かれてない事は喋らない。
――君のママは最高だったよ。え?何がって?
気分は限りなくどん底のブルーだ。朝っぱらから嫌な事を思い出してしまった。
「何? 食べないの? せっかくケンが作ってくれたのに。無理なダイエットは美容に良くないんだからね、まったく、大して食べもしないのにぶくぶく太って」
遥か彼方のハイスクールまで、片道2時間運転しながら向かう。対向車も無ければ、後続車も無い。どれだけかっ飛ばそうが誰も見ていない。いっそこのままガードレールを突き破って、車ごとスクラップになってやろうか。
学校に着いた。オンボロ車を停めて駐車場を後にする。終わったら教会に行ってメトディオス修道士に会おう。
薄暗い廊下で剥がれかけたポスターに目が留まる。
――ホストファミリー募集中! 自宅で気軽に異文化交流!
留学生…良いかも知れない。ママが男を連れ込むなら、私だって異国の友人を連れ込んでやろう。
担当職員に話を聞けば、成り手が見つからずにほとほと困り果てていたらしい。
――男の子だけど、大丈夫?
あー……まあ、良いや。帰ってママに訊いてみます。私は全然、構わないんで。
「ダメに決まってるでしょう、そんなの。うちにはケンが居るの。余っている部屋なんか無いし、あ、それとも貴方が出てく?」
どうせ反対すると思った。でもその冗談は笑えない。
「おういキリアキ、注文はまだかい? ああイオニア、いつものコーヒーとヨーグルトパフェを頼むよ。おや? 何だか泣きそうな顔をしているね? 」
そっと気に掛けてくれたポチョムキン夫妻は、うちの常連で長い付き合いだ。
お給仕のついでに、留学生やホストファミリーの話を掻い摘んで説明した。
「へえ、なるほどねえ。悪くないんじゃない。うちなら部屋も余ってるし……」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
黒蜜先生のヤバい秘密
月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。
須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。
だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる