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九尾の狐~月夜~
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月が昇っている夜ー。冷たく静かな月光が並んだ二つの布団を照らした。まるでもう眠れというように。
私は風呂から上がり、庭にあるサンダルを履くと縁側に出た。心地よい月明かりを一身で感じていると後ろから聞きなれたバリトンボイスが響いた。
「そんなカッコで外に出ていると風邪をひくぞ……」
私の後に風呂に入ったはずの闇ノ堂先輩が縁側の側にある廊下の木の柱にもたれ、気だるそうな顔をこちらに向けていた。
そんな先輩は見事に白い着物を着流しており、私よりもはるかに似合っていた。その時、顔が熱くなったのは気のせいにしておこう。
「どうです? 先輩もこちらに来ませんか?」
私は廊下にいる先輩にニコリと笑って誘ってみた。だが、先輩はなんだか複雑そうな顔している。いや……だったのかな。
「……そうしたが俺の分のサンダルがないのだが?」
「えっ? あっ、そうでした! えっと……なら……」
私は急いで先輩のいる元へ走り寄り、自分が履いていたサンダルを脱ぐと縁側の廊下に立っている先輩の足元に置いた。これなら先輩がサンダルを履けるだろ……う……。
「……こ、こわいですよ。その顔……」
「俺が今どんな顔しているのか気にはなるがそれは今どうでもいい。お前……なんで自分の履いていたサンダルをわざわざ俺に渡すんだ」
元から暗い顔が夜のせいでより一層陰を濃くし、廊下に立っているためかよけい上から見られているみたいで恐かった。私はビクビクしながら先輩に言った。
「だ、だって……先輩。今お風呂から上がって来たばかりですし、足を汚すわけにはー」
「それはお前も同じだろう。お前はここで待っていろ。今お前の母親から他のサンダルを貰ってくる」
「いいです!」
「……な……に?」
先輩はお母さんの元へ行こうと私に背中を向けた途端後ろから引き止められ先輩は困った顔してこちらを見た。
「いいですよ、先輩。私は裸足の方が心地いいので」
私は直ぐにさっきの場所に戻ろうとした時、後ろから物凄い力で引っ張られと思ったら信じられない事が自分の身に起きていた。
「せ、せ、先輩? な……何してるんですか!? お、お、下ろしてください!!」
「断る」
「なっ! なに言っているんですか! 本当に下ろしてください。私、お、重たいですから!」
そう、私はサンダルを履いた先輩が裸足の私をその……お、お姫様抱っこしている。
私はあまりの恥ずかしさで先輩の腕の中でジタバタしていると頭の上から凄い近くから先輩の声が降ってきた。
「重くない。逆に軽すぎるくらいだ。だから安心しろ」
あ、安心なんてできるか!! 今にも心臓が飛び出そうなくらいうるさいのに……。先輩に伝わっているかも知れないと考えるとよけいに恥ずかしくなってきた。
「それにだいたい俺がサンダルを履けばいいんだろう? なら、サンダルを履いていないお前を抱えるのは当然だろう」
なにドヤ顔で言っているんだこの人は!! それに顔が近い!
先輩はそんなことはお構いなしにさっき私がいた場所に来た。その近くに池があるのに気がついたのかそこにある大きな石の上に私を下ろすと先輩は漆黒の空に浮かんでいる月を見ていた。やっぱりこの人風格あるな~。
じっと月明かりに照らされた先輩に見とれていると視線を感じたのか不愉快な顔をこちらに向けた。
「なんだ? 俺の顔に何かついているのか?」
「いえ……。そういう訳では……。ただ、かっこいいなぁ~って思っただけでー……」
ん? ちょっと待て。今、私なんて言った?
先輩の顔見ると驚いた顔をして、体が固まっていた。や、やっぱり変なこと言ったんだ!!
「せ、先輩! 今のは月のせいでそう見えただけで……。その……」
「……月の……せいか……」
「? は、はい」
「そうか……そろそろ部屋に戻るぞ」
そう言うと照れた顔で私の前に手を差し出した。滅多に見せないであろう顔をまた私は見てしまった。
私は差し出された手を取ると、またお姫様抱っこで廊下まで連れて行ってもらった。この変わった人が私にここまでしてくれるなんて……昨日会ったときは思いもしなかったな。そう考えていると笑いが込み上げてきた。
「なに笑っているんだ。気持ち悪い」
「ご、ごめんなさい」
廊下まで来ると私は一つ気になること言った。
「先輩。一緒の部屋で良かったんですか? 今からでも別の部屋を用意しますよ?」
「……別に同じ布団で寝るわけでもあるまい。その……稲穂が嫌なら変えるがー」
私が嫌ならか……。うーん。ま、同じ布団じゃないんだし、お兄ちゃんだと思えばいいんだ。
「私も別にいいですよ。先輩の言った通り一つの布団で寝るわけではないですし」
「そ、そうか……。なら、寝るか」
「そうですね」
この後私たちはまるで死人のように深い眠りについた。
私は風呂から上がり、庭にあるサンダルを履くと縁側に出た。心地よい月明かりを一身で感じていると後ろから聞きなれたバリトンボイスが響いた。
「そんなカッコで外に出ていると風邪をひくぞ……」
私の後に風呂に入ったはずの闇ノ堂先輩が縁側の側にある廊下の木の柱にもたれ、気だるそうな顔をこちらに向けていた。
そんな先輩は見事に白い着物を着流しており、私よりもはるかに似合っていた。その時、顔が熱くなったのは気のせいにしておこう。
「どうです? 先輩もこちらに来ませんか?」
私は廊下にいる先輩にニコリと笑って誘ってみた。だが、先輩はなんだか複雑そうな顔している。いや……だったのかな。
「……そうしたが俺の分のサンダルがないのだが?」
「えっ? あっ、そうでした! えっと……なら……」
私は急いで先輩のいる元へ走り寄り、自分が履いていたサンダルを脱ぐと縁側の廊下に立っている先輩の足元に置いた。これなら先輩がサンダルを履けるだろ……う……。
「……こ、こわいですよ。その顔……」
「俺が今どんな顔しているのか気にはなるがそれは今どうでもいい。お前……なんで自分の履いていたサンダルをわざわざ俺に渡すんだ」
元から暗い顔が夜のせいでより一層陰を濃くし、廊下に立っているためかよけい上から見られているみたいで恐かった。私はビクビクしながら先輩に言った。
「だ、だって……先輩。今お風呂から上がって来たばかりですし、足を汚すわけにはー」
「それはお前も同じだろう。お前はここで待っていろ。今お前の母親から他のサンダルを貰ってくる」
「いいです!」
「……な……に?」
先輩はお母さんの元へ行こうと私に背中を向けた途端後ろから引き止められ先輩は困った顔してこちらを見た。
「いいですよ、先輩。私は裸足の方が心地いいので」
私は直ぐにさっきの場所に戻ろうとした時、後ろから物凄い力で引っ張られと思ったら信じられない事が自分の身に起きていた。
「せ、せ、先輩? な……何してるんですか!? お、お、下ろしてください!!」
「断る」
「なっ! なに言っているんですか! 本当に下ろしてください。私、お、重たいですから!」
そう、私はサンダルを履いた先輩が裸足の私をその……お、お姫様抱っこしている。
私はあまりの恥ずかしさで先輩の腕の中でジタバタしていると頭の上から凄い近くから先輩の声が降ってきた。
「重くない。逆に軽すぎるくらいだ。だから安心しろ」
あ、安心なんてできるか!! 今にも心臓が飛び出そうなくらいうるさいのに……。先輩に伝わっているかも知れないと考えるとよけいに恥ずかしくなってきた。
「それにだいたい俺がサンダルを履けばいいんだろう? なら、サンダルを履いていないお前を抱えるのは当然だろう」
なにドヤ顔で言っているんだこの人は!! それに顔が近い!
先輩はそんなことはお構いなしにさっき私がいた場所に来た。その近くに池があるのに気がついたのかそこにある大きな石の上に私を下ろすと先輩は漆黒の空に浮かんでいる月を見ていた。やっぱりこの人風格あるな~。
じっと月明かりに照らされた先輩に見とれていると視線を感じたのか不愉快な顔をこちらに向けた。
「なんだ? 俺の顔に何かついているのか?」
「いえ……。そういう訳では……。ただ、かっこいいなぁ~って思っただけでー……」
ん? ちょっと待て。今、私なんて言った?
先輩の顔見ると驚いた顔をして、体が固まっていた。や、やっぱり変なこと言ったんだ!!
「せ、先輩! 今のは月のせいでそう見えただけで……。その……」
「……月の……せいか……」
「? は、はい」
「そうか……そろそろ部屋に戻るぞ」
そう言うと照れた顔で私の前に手を差し出した。滅多に見せないであろう顔をまた私は見てしまった。
私は差し出された手を取ると、またお姫様抱っこで廊下まで連れて行ってもらった。この変わった人が私にここまでしてくれるなんて……昨日会ったときは思いもしなかったな。そう考えていると笑いが込み上げてきた。
「なに笑っているんだ。気持ち悪い」
「ご、ごめんなさい」
廊下まで来ると私は一つ気になること言った。
「先輩。一緒の部屋で良かったんですか? 今からでも別の部屋を用意しますよ?」
「……別に同じ布団で寝るわけでもあるまい。その……稲穂が嫌なら変えるがー」
私が嫌ならか……。うーん。ま、同じ布団じゃないんだし、お兄ちゃんだと思えばいいんだ。
「私も別にいいですよ。先輩の言った通り一つの布団で寝るわけではないですし」
「そ、そうか……。なら、寝るか」
「そうですね」
この後私たちはまるで死人のように深い眠りについた。
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