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第七章 片翼の天使
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宮崎さんと同じだ。
やっぱりあの黒いもやが、莉子ちゃんにこんな力を使わせてる。
「莉子ちゃん、負けちゃだめ!」
私は、両手をぎゅっと握りしめた。
萌ちゃんはいない。どうやら、他に天使さんも来てはいないみたい。
私にできるかどうかわからないけど……他に方法がないんだもん。私がやらなきゃ。
莉子ちゃんを、助けたい。
荒れ狂う風に逆らって、なんとか莉子ちゃんに近づこうとする。飛ばされてくる細かい石か何かが私の体にぶつかる。痛みと怖さで、じわりと涙が浮いた。
私は、袖で乱暴にごしごしと涙をぬぐった。
泣かない。絶対に、泣かない!
「来るな! ばか美優!」
莉子ちゃんの目からは、涙が流れていた。あの時の宮崎さんみたいに。
まだ莉子ちゃんの心が残っているんだ。それなら、きっと大丈夫。
「莉子ちゃん、この風を起こしているのは莉子ちゃんなの!」
「……私……?」
莉子ちゃんは、まっすぐ立ちながらも風に吹かれてゆらゆらとその体を揺らしている。
「嫌だとか、淋しいって思う気持ちが、外に出てきてこんな風を起こしているの」
「何言ってんの、私、淋しくなんて……!」
「いいの! 淋しいって言っていいの!」
は、と莉子ちゃんが目をみはった。
「恵さん、莉子ちゃんに謝るって言ってくれたよ? さっちゃんは、自分のけがよりも、莉子ちゃんのことを心配してた。莉子ちゃんは、淋しくて悲しいから、うっかりとあんなことしちゃったんでしょ? 言いづらいかもしれないけど、そういう時は、ちゃんとごめんねって言って仲直りしよう。私が……私が、一緒にいるから!」
「でも……」
「泣いてもいいよ。私も一緒に泣くよ。莉子ちゃんが大好きだから、私が一緒にいるよ。だから……心の闇になんか負けないで!」
「心の……闇……」
言う莉子ちゃんの目が、だんだんぼんやりしてくる。風は、まだ強くなるばかり。
「莉子ちゃん!」
「美優……」
ぐらぐら揺れた莉子ちゃんの体は、それでも倒れない。莉子ちゃんは、何かをつかむように空に両手をのばしていた。
「莉子ちゃん! お願い……戻って」
その時、ぶん、とひときわ強い風が吹いて、私の足が浮いた。そのまま風に飛ばされる。
「きゃあああ!」
道路沿いの壁に思い切り体をうちつけられて、一瞬息がつまる。
「美優……!」
莉子ちゃんの声に起き上がると、莉子ちゃんがだらりと両手を垂らして私を見つめていた。その両目からぼたぼたと涙が流れ落ちている。
「莉子ちゃん……」
「美優……逃げて……」
ゆっくりと莉子ちゃんが、片手をあげる。人差し指を私にむけて……
ごおっ、と風がふきつけた。
また飛ばされる。またふわりと体が浮いて……
「美優!」
悲鳴のような莉子ちゃんの声が、アスファルトに打ち付けられた私の耳に響く。あまりの痛さに声も出ないまま、私はその場で体をまるめた。
「美優―――!」
そうして、またその腕があがる。
私は、めまいのする頭を持ち上げて、それでも、莉子ちゃんに笑ってみせた。これ以上、莉子ちゃんにつらい思いをさせたくない。
やっぱりあの黒いもやが、莉子ちゃんにこんな力を使わせてる。
「莉子ちゃん、負けちゃだめ!」
私は、両手をぎゅっと握りしめた。
萌ちゃんはいない。どうやら、他に天使さんも来てはいないみたい。
私にできるかどうかわからないけど……他に方法がないんだもん。私がやらなきゃ。
莉子ちゃんを、助けたい。
荒れ狂う風に逆らって、なんとか莉子ちゃんに近づこうとする。飛ばされてくる細かい石か何かが私の体にぶつかる。痛みと怖さで、じわりと涙が浮いた。
私は、袖で乱暴にごしごしと涙をぬぐった。
泣かない。絶対に、泣かない!
「来るな! ばか美優!」
莉子ちゃんの目からは、涙が流れていた。あの時の宮崎さんみたいに。
まだ莉子ちゃんの心が残っているんだ。それなら、きっと大丈夫。
「莉子ちゃん、この風を起こしているのは莉子ちゃんなの!」
「……私……?」
莉子ちゃんは、まっすぐ立ちながらも風に吹かれてゆらゆらとその体を揺らしている。
「嫌だとか、淋しいって思う気持ちが、外に出てきてこんな風を起こしているの」
「何言ってんの、私、淋しくなんて……!」
「いいの! 淋しいって言っていいの!」
は、と莉子ちゃんが目をみはった。
「恵さん、莉子ちゃんに謝るって言ってくれたよ? さっちゃんは、自分のけがよりも、莉子ちゃんのことを心配してた。莉子ちゃんは、淋しくて悲しいから、うっかりとあんなことしちゃったんでしょ? 言いづらいかもしれないけど、そういう時は、ちゃんとごめんねって言って仲直りしよう。私が……私が、一緒にいるから!」
「でも……」
「泣いてもいいよ。私も一緒に泣くよ。莉子ちゃんが大好きだから、私が一緒にいるよ。だから……心の闇になんか負けないで!」
「心の……闇……」
言う莉子ちゃんの目が、だんだんぼんやりしてくる。風は、まだ強くなるばかり。
「莉子ちゃん!」
「美優……」
ぐらぐら揺れた莉子ちゃんの体は、それでも倒れない。莉子ちゃんは、何かをつかむように空に両手をのばしていた。
「莉子ちゃん! お願い……戻って」
その時、ぶん、とひときわ強い風が吹いて、私の足が浮いた。そのまま風に飛ばされる。
「きゃあああ!」
道路沿いの壁に思い切り体をうちつけられて、一瞬息がつまる。
「美優……!」
莉子ちゃんの声に起き上がると、莉子ちゃんがだらりと両手を垂らして私を見つめていた。その両目からぼたぼたと涙が流れ落ちている。
「莉子ちゃん……」
「美優……逃げて……」
ゆっくりと莉子ちゃんが、片手をあげる。人差し指を私にむけて……
ごおっ、と風がふきつけた。
また飛ばされる。またふわりと体が浮いて……
「美優!」
悲鳴のような莉子ちゃんの声が、アスファルトに打ち付けられた私の耳に響く。あまりの痛さに声も出ないまま、私はその場で体をまるめた。
「美優―――!」
そうして、またその腕があがる。
私は、めまいのする頭を持ち上げて、それでも、莉子ちゃんに笑ってみせた。これ以上、莉子ちゃんにつらい思いをさせたくない。
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