はんぶんこ天使

いずみ

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第六章 大きくなりすぎた心の闇は

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「私のために怒ってくれてありがとう。でも、多分今の莉子さんは、私がけがした足よりも、もっと痛い思いをしていると思う。だから、今度は私たちが謝りに行こう?」
「うん……」
 恵さんは、ぽろぽろと涙を流した。それを見て、私は気づく。

 恵さんの背中にあった黒いもやが、半分以下の大きさになってる。恵さん、自分が悪かったことを気づいてくれたんだ。
 先生とさっちゃんが、恵さんの心に光を差したんだね。

 ぐしぐしと涙をぬぐいながら、恵さんが私を振り返った。
「ごめんね、美優さん。お父さんがいないとか、バカにするつもりじゃなかったの」
「うん、わかっている。でも、明日莉子ちゃんに、ちゃんと謝ってね」
 私は、先生を振り向いた。

「私、莉子ちゃんのとこにいってきます」
「お願いね、美優さん」
 先生は、いつもの優しい顔に戻ってにっこりと笑った。

 そういえば。先生は恵さんに話をしている間、一度もその背中にあの黒いもやを出すことはなかった。
 先生はものすごく怒っていたけど、黒いもやにあやつられて怒ったんじゃないんだ。本当に、莉子ちゃんや恵さんのことを考えて、自分の怒りをちゃんとセーブして必要な思いだけをみんなに伝えてくれた。もし私が本当に怒っていたら、あんな風に言えるかな。きっと、まだ無理だろうな。
 沢田先生って、すごいな。

「はい」
 私は大きく頷くと、莉子ちゃんのあとを追った。
 教室を出る直前、莉子ちゃんの黒いもやが天井まで届くほど大きくなったのを見た。あれほどのもやは、宮崎さんと同じか……もしかしたら、それ以上。
 今は、どうなってるんだろう。

 嫌な予感にどきどきしながら、私は階段を駆け下りた。

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