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第五章 聞いてない!って言いたいのに
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その日の昼休み、私は花だんの確認のために裏庭へと急いでいた。
中庭の花だんは園芸委員が担当しているけれど、裏庭の方は、希望しているクラスがそれぞれ区切られた土地を使っている。
もう花も野菜もないけれど、引継ぎの時には来年の配置を決定しておかなければいけないので、そのための見取り図を作るのだ。
これも副委員長の仕事だ。だから瑠奈ちゃんにも声をかけたんだけど……
何も話してくれなかった。
私の顔を見たとたん、大きなもやを背中に作って……そのまま、無視されてしまった。
仕方ないとはいえ、やっぱり、悲しいな。また、元のように話せるようになるかな。
うつむきそうになって、私はぐいっと顔をあげる。
いけない。今は考えるのやめよう。お仕事に集中集中。
「今日中に見取り図を作って、放課後になったら楓ちゃんに見てもらって……」
気分を変えるためにわざと大きな声で確認事項を口にしながら裏庭に出ると、誰かがはしっこのほうに座っているのに気づいた。
わ、びっくりした! 聞かれちゃったかな。恥ずかし……
「あ」
そこにいたのは、安永さんだった。
うっかり私が上げてしまった声に、安永さんが振り向いた。その瞬間、安永さんの背中についていた黒いもやが、ぐわ、と大きくなる。
反射的に、目をそらしてしまった。
ひええええ、やっぱり私、何かしたのかなあ……
今更引き返すのも気まずいので、私は自分の仕事をさっさと終わらせることにする。安永さんも、黙ったままだ。
ノートを開くとえんぴつを走らせて、花だんの状況をはじから区画の様子を書き留めていく。
えーと、ここからここまでが一年一組、ここまでが二組で……
「ねえ」
しばらくしてから、安永さんが話しかけてきた。
「な、なに?」
私は緊張して振り向く。声が裏返ってしまった。
「相葉さんて、慎君のこと好き?」
「へ?」
急に出てきた名前に、私は首をかしげる。
慎君? なんで急に。
「そりゃ、好きだよ。慎君、優しいしいい人だよね。そういえば前に私がけがをしたとき、ほら、安永さんもいたよね。えさやり当番代わってくれた…」
「違うわよ」
なんだか座った目をした安永さんが、いらいらと私の話をさえぎった。その感情に動かされているのか、背中の黒いもやもゆらゆらと左右に揺れる。
まるでそれは、もやが笑っているみたいで、なんだか怖い。
「特別に好きか、って聞いているの。つきあいたいと思う?」
「つき……ええっ?! だって私たち、まだ小学生だよ?!」
つきあうとか好きとかって、もっと大人になってからの話でしょ?
私は、ぶんぶんと首を振った。振って……気づいた。
「もしかして安永さん、慎君のこと、そういう風に好きなの?」
口を閉じた安永さんは、ぷい、と横を向いてしまった。ほんのりとその頬が赤くなっている。
うわあ、かわいい!
そうか、それでいつも私が慎君といる時ににらまれていたんだ。安永さん、やきもち妬いていたのね。全然そんなの心配することないのに。
「私は全然そんな風に思ってないよ! それどころか、安永さんと慎君なら絶対お似合いだと思ってた!」
二人が一緒にいるところを想像しただけで、胸があったかいようなくすぐったいような感じでどきどきする。誰かを好きになるってすてきなことだもんね。
こんな気持ちが安永さんに伝わったら、きっと安永さんのあの黒いもやも小さく……
「なにがお似合いよ!」
すると、急に安永さんが、ば、と立ち上がった。その瞬間、黒いもやも一回り大きくなる。もうその頭を超すくらいに。
「何も知らないくせに、勝手なこと言わないで! そうやって私のことばかにしてるの? ふざけないでよ!」
「ば、ばかにしてなんか……」
「してるわよ! 相葉さんだって、本当は慎君のこと好きなんでしょ!? どうせ私はふられたわよ! とっくに聞いてるんでしょ、慎君から。だから、いい気味だと思って、人の事ばかにしてるんでしょ!!」
「え? あの、何が……とにかく、安永さん、おちついて……」
中庭の花だんは園芸委員が担当しているけれど、裏庭の方は、希望しているクラスがそれぞれ区切られた土地を使っている。
もう花も野菜もないけれど、引継ぎの時には来年の配置を決定しておかなければいけないので、そのための見取り図を作るのだ。
これも副委員長の仕事だ。だから瑠奈ちゃんにも声をかけたんだけど……
何も話してくれなかった。
私の顔を見たとたん、大きなもやを背中に作って……そのまま、無視されてしまった。
仕方ないとはいえ、やっぱり、悲しいな。また、元のように話せるようになるかな。
うつむきそうになって、私はぐいっと顔をあげる。
いけない。今は考えるのやめよう。お仕事に集中集中。
「今日中に見取り図を作って、放課後になったら楓ちゃんに見てもらって……」
気分を変えるためにわざと大きな声で確認事項を口にしながら裏庭に出ると、誰かがはしっこのほうに座っているのに気づいた。
わ、びっくりした! 聞かれちゃったかな。恥ずかし……
「あ」
そこにいたのは、安永さんだった。
うっかり私が上げてしまった声に、安永さんが振り向いた。その瞬間、安永さんの背中についていた黒いもやが、ぐわ、と大きくなる。
反射的に、目をそらしてしまった。
ひええええ、やっぱり私、何かしたのかなあ……
今更引き返すのも気まずいので、私は自分の仕事をさっさと終わらせることにする。安永さんも、黙ったままだ。
ノートを開くとえんぴつを走らせて、花だんの状況をはじから区画の様子を書き留めていく。
えーと、ここからここまでが一年一組、ここまでが二組で……
「ねえ」
しばらくしてから、安永さんが話しかけてきた。
「な、なに?」
私は緊張して振り向く。声が裏返ってしまった。
「相葉さんて、慎君のこと好き?」
「へ?」
急に出てきた名前に、私は首をかしげる。
慎君? なんで急に。
「そりゃ、好きだよ。慎君、優しいしいい人だよね。そういえば前に私がけがをしたとき、ほら、安永さんもいたよね。えさやり当番代わってくれた…」
「違うわよ」
なんだか座った目をした安永さんが、いらいらと私の話をさえぎった。その感情に動かされているのか、背中の黒いもやもゆらゆらと左右に揺れる。
まるでそれは、もやが笑っているみたいで、なんだか怖い。
「特別に好きか、って聞いているの。つきあいたいと思う?」
「つき……ええっ?! だって私たち、まだ小学生だよ?!」
つきあうとか好きとかって、もっと大人になってからの話でしょ?
私は、ぶんぶんと首を振った。振って……気づいた。
「もしかして安永さん、慎君のこと、そういう風に好きなの?」
口を閉じた安永さんは、ぷい、と横を向いてしまった。ほんのりとその頬が赤くなっている。
うわあ、かわいい!
そうか、それでいつも私が慎君といる時ににらまれていたんだ。安永さん、やきもち妬いていたのね。全然そんなの心配することないのに。
「私は全然そんな風に思ってないよ! それどころか、安永さんと慎君なら絶対お似合いだと思ってた!」
二人が一緒にいるところを想像しただけで、胸があったかいようなくすぐったいような感じでどきどきする。誰かを好きになるってすてきなことだもんね。
こんな気持ちが安永さんに伝わったら、きっと安永さんのあの黒いもやも小さく……
「なにがお似合いよ!」
すると、急に安永さんが、ば、と立ち上がった。その瞬間、黒いもやも一回り大きくなる。もうその頭を超すくらいに。
「何も知らないくせに、勝手なこと言わないで! そうやって私のことばかにしてるの? ふざけないでよ!」
「ば、ばかにしてなんか……」
「してるわよ! 相葉さんだって、本当は慎君のこと好きなんでしょ!? どうせ私はふられたわよ! とっくに聞いてるんでしょ、慎君から。だから、いい気味だと思って、人の事ばかにしてるんでしょ!!」
「え? あの、何が……とにかく、安永さん、おちついて……」
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