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第五章 聞いてない!って言いたいのに
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「よくわかるな、まあさん」
「俺、去年も谷本と同じ委員会だったんだよ。あいつ、自分からいろいろやりたがる割にはいいかげんな仕事しかできなくて、結局かなり委員会の中がひっかきまわされて俺もすごい迷惑したんだ。だからきっと、今回もそうなんだろうな、と」
「へえ。そうだったんか。ごめんな、相葉さん、きついこと言って」
私は、ぶんぶんと首を振る。
あれ?
勝屋さんの肩にあった黒いの、見えなくなってる? あ、小さくなったんだ。よく見れば、勝屋さんの顔、さっきより穏やかになってる。
「プリント、ありがとな。谷本のことは、委員長にもよく言っておく」
そう言って、日比野さんたちは帰っていった。私は、その背中を見送る。勝屋さんのもやは肩より下まで小さくなっている。けど、笑っていた日比野さんの背中にも、黒いもやは張りついていた。
あ、そうか。日比野さん、瑠奈ちゃんに怒っているんだ。
怒ったりするとあれは大きくなるし、逆にその怒りが収まれば小さくなるってことかな。悲しみやねたみだけじゃなくて、怒っていてもあれはでてくるんだ。
でも、そういうのがわかっちゃうのって、人の心をのぞいているみたいで落ち着かない。これ、また見えなくなることってないのかな。
そもそも、なんでそんなものが私に見えるんだろう。天使だった萌ちゃんと一緒にいたから?
とりあえず、人には言えないなあ。
私は、昇降口に放り出してきたランドセルを取りに校舎へと戻ることにした。
「相葉」
ところが、帰ろうとしたところで中尾先生に声をかけられた。
「はい」
「あれ、どうなってる? 明日の資料」
「あの、各班長には、明日の委員会で班の発表ができるようにお願いしてあります」
「そうじゃなくて、明日の委員会につかうアンケートの集計。出来上がったら目を通すから俺んとこ持って来いって言っておいただろ。まだ来てないぞ」
「それは、谷本さんが担当なので彼女に聞いてみないと……」
「谷本? さっき帰りがけに会ったんで聞いたら、『相葉さんにお願いしてあります』って言ってたぞ?」
「え?!」
瑠奈ちゃん、さっきはプリントのことしか言ってなかったよね。アンケートもなの?!
「どういうことだ? まだまとめてないのか?」
ぎろりと迫力のある顔でにらまれると、きゅう、と胸が苦しくなる。私は何も答えることができずにうつむいた。
「委員会は、明日だぞ。何やってんだ、副委員長」
確かに、その資料は副委員長に任された仕事だった。だから、たとえ一人でやると瑠奈ちゃんが言ったからって、それを確かめなかったのは私の落ち度だ。
「……すみません」
声と足が震える。
「明日までに必ず用意しとけよ」
そう言って中尾先生は、校舎へと戻っていった。
「はい……」
情けない声で返事をすると、私はのろのろとまた上履きに履き替えた。
とりあえず、アンケートがどうなっているのかだけでも見てこよう。
先生の言ってた資料は、先月全校生徒から集めたアンケートの集計のことだ。明日は、その結果をもとに話し合いをする予定なので、その集計結果がないと話し合い自体ができなくなる。
瑠奈ちゃん……きっと集計はやってあるよね。中尾先生に言ったのは、プリントのことなんだよね。
「俺、去年も谷本と同じ委員会だったんだよ。あいつ、自分からいろいろやりたがる割にはいいかげんな仕事しかできなくて、結局かなり委員会の中がひっかきまわされて俺もすごい迷惑したんだ。だからきっと、今回もそうなんだろうな、と」
「へえ。そうだったんか。ごめんな、相葉さん、きついこと言って」
私は、ぶんぶんと首を振る。
あれ?
勝屋さんの肩にあった黒いの、見えなくなってる? あ、小さくなったんだ。よく見れば、勝屋さんの顔、さっきより穏やかになってる。
「プリント、ありがとな。谷本のことは、委員長にもよく言っておく」
そう言って、日比野さんたちは帰っていった。私は、その背中を見送る。勝屋さんのもやは肩より下まで小さくなっている。けど、笑っていた日比野さんの背中にも、黒いもやは張りついていた。
あ、そうか。日比野さん、瑠奈ちゃんに怒っているんだ。
怒ったりするとあれは大きくなるし、逆にその怒りが収まれば小さくなるってことかな。悲しみやねたみだけじゃなくて、怒っていてもあれはでてくるんだ。
でも、そういうのがわかっちゃうのって、人の心をのぞいているみたいで落ち着かない。これ、また見えなくなることってないのかな。
そもそも、なんでそんなものが私に見えるんだろう。天使だった萌ちゃんと一緒にいたから?
とりあえず、人には言えないなあ。
私は、昇降口に放り出してきたランドセルを取りに校舎へと戻ることにした。
「相葉」
ところが、帰ろうとしたところで中尾先生に声をかけられた。
「はい」
「あれ、どうなってる? 明日の資料」
「あの、各班長には、明日の委員会で班の発表ができるようにお願いしてあります」
「そうじゃなくて、明日の委員会につかうアンケートの集計。出来上がったら目を通すから俺んとこ持って来いって言っておいただろ。まだ来てないぞ」
「それは、谷本さんが担当なので彼女に聞いてみないと……」
「谷本? さっき帰りがけに会ったんで聞いたら、『相葉さんにお願いしてあります』って言ってたぞ?」
「え?!」
瑠奈ちゃん、さっきはプリントのことしか言ってなかったよね。アンケートもなの?!
「どういうことだ? まだまとめてないのか?」
ぎろりと迫力のある顔でにらまれると、きゅう、と胸が苦しくなる。私は何も答えることができずにうつむいた。
「委員会は、明日だぞ。何やってんだ、副委員長」
確かに、その資料は副委員長に任された仕事だった。だから、たとえ一人でやると瑠奈ちゃんが言ったからって、それを確かめなかったのは私の落ち度だ。
「……すみません」
声と足が震える。
「明日までに必ず用意しとけよ」
そう言って中尾先生は、校舎へと戻っていった。
「はい……」
情けない声で返事をすると、私はのろのろとまた上履きに履き替えた。
とりあえず、アンケートがどうなっているのかだけでも見てこよう。
先生の言ってた資料は、先月全校生徒から集めたアンケートの集計のことだ。明日は、その結果をもとに話し合いをする予定なので、その集計結果がないと話し合い自体ができなくなる。
瑠奈ちゃん……きっと集計はやってあるよね。中尾先生に言ったのは、プリントのことなんだよね。
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