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第五章 聞いてない!って言いたいのに
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次の日。
読書感想文も無事提出して一日が終わり、帰ろうとした時だった。
「あ、いたいた」
私がランドセルを背負ったところで、教室の入り口から瑠奈ちゃんがひょっこりと顔を出した。
「美優ちゃん、ちょっといい?」
「どうしたの、瑠奈ちゃん」
瑠奈ちゃんは、私と同じ園芸委員の副委員長だ。ああ、そういえば、明日使う委員会資料の確認しようと思ってて、萌ちゃんのさわぎですっかり忘れてた。
「これ、お願いできないかな」
瑠奈ちゃんは、手に持っていた紙の束を、ずい、と私に向かって差し出した。受け取って読んでみると、それは明日の委員会の資料だった。
「私の分?」
あれ? それにしては、なんか多いな。
「お願い、各班長に配っておいて」
拝むような手をして、瑠奈ちゃんは私を上目遣いに見上げる。
「配ってって……まだこれ、渡してなかったの?!」
私はおどろいて瑠奈ちゃんの顔を見返した。
このプリントは、事前にそれぞれの班長に渡して、各班の意見を用意しておいてもらうために必要だったはずだ。
『それくらいなら私一人で大丈夫だよ! 班長さーん、私が持っていきますね』
私たち副委員長に任せられた仕事だったけど、先週の委員会の時に瑠奈ちゃんがそう言っていたのでお願いしたんだ。
なのに、なんでこれがまだここにあるの?!
あっけにとられる私に、瑠奈ちゃんはえへへと笑った。
「ちょっと忙しくてさあ……思ったより時間かかっちゃって。ようやくできたんだけど、私、今日バレエのレッスンがあってすぐ帰んなきゃいけないのよ」
「ええっ! だって、もうみんな帰っちゃったかも……」
「いる人だけでいいから。ね、お願い! じゃ、よろしく」
「あ、ちょっと、瑠奈ちゃん!」
笑顔のまま瑠奈ちゃんは私に手を振って、すごい速さで行ってしまった。残された私は呆然として立ちすくむ。
「美優? なにそれ」
教室から出てきた莉子ちゃんが、私の持っていたプリントに目をおとす。
「莉子ちゃん、私、これ配ってから帰る」
これ、今日中に渡しちゃわなきゃいけないプリントだもん。
「園芸委員会の? 手伝おうか?」
「ううん、説明しながらの方がいいから、私が直接渡すわ。先帰ってて」
そう言うと、私はあわててろうかを走り出した。
本当は先週、あまり話したことがない班長さんもいるから、それぞれに渡しに行くの、嫌だなって思ったんだ。だから瑠奈ちゃんがやってくれるって聞いてほっとしてた。
だからって仕事を丸投げしちゃった私も悪いけど……
ちょっと泣きそうになった。
☆
渡されたプリントは、全部で四部。ええと、まずは……これ一組じゃない! 瑠奈ちゃん、同じクラスなら渡しといてくれたらよかったのに!
急いで一組に向かう。
牧田さん……顔は知っているけど、話したことないや。声かけるのやだな。でも、明日の事だし……
私は、一度自分に、ふんっ! と気合を入れた。
よしっ!
「あの、牧田さん、いますか?」
幸い教室にはまだ数名の生徒が残っていて、目当ての人物もいてくれた。
「相葉さん、私? どうしたの?」
「これ、急で悪いんだけど」
牧田さんは、私から受け取った資料に目を落としてうなずいた。
「ああ、先週言ってたやつね」
「うん。それで、この部分、三番の来年度への要望項目のとこ、明日発表できるようにしておいてほしいの」
「はあ?! 明日?! 連絡こないから、もっと後かと思っていたのに」
案の定、牧田さんは不機嫌な顔になった。と、同時に、肩の向こうから黒いもやが伸びてくる。
それを見て、思わず肩をすくめてしまう。そうだよね。いきなり明日までとか言われたら、む、とするよね。
読書感想文も無事提出して一日が終わり、帰ろうとした時だった。
「あ、いたいた」
私がランドセルを背負ったところで、教室の入り口から瑠奈ちゃんがひょっこりと顔を出した。
「美優ちゃん、ちょっといい?」
「どうしたの、瑠奈ちゃん」
瑠奈ちゃんは、私と同じ園芸委員の副委員長だ。ああ、そういえば、明日使う委員会資料の確認しようと思ってて、萌ちゃんのさわぎですっかり忘れてた。
「これ、お願いできないかな」
瑠奈ちゃんは、手に持っていた紙の束を、ずい、と私に向かって差し出した。受け取って読んでみると、それは明日の委員会の資料だった。
「私の分?」
あれ? それにしては、なんか多いな。
「お願い、各班長に配っておいて」
拝むような手をして、瑠奈ちゃんは私を上目遣いに見上げる。
「配ってって……まだこれ、渡してなかったの?!」
私はおどろいて瑠奈ちゃんの顔を見返した。
このプリントは、事前にそれぞれの班長に渡して、各班の意見を用意しておいてもらうために必要だったはずだ。
『それくらいなら私一人で大丈夫だよ! 班長さーん、私が持っていきますね』
私たち副委員長に任せられた仕事だったけど、先週の委員会の時に瑠奈ちゃんがそう言っていたのでお願いしたんだ。
なのに、なんでこれがまだここにあるの?!
あっけにとられる私に、瑠奈ちゃんはえへへと笑った。
「ちょっと忙しくてさあ……思ったより時間かかっちゃって。ようやくできたんだけど、私、今日バレエのレッスンがあってすぐ帰んなきゃいけないのよ」
「ええっ! だって、もうみんな帰っちゃったかも……」
「いる人だけでいいから。ね、お願い! じゃ、よろしく」
「あ、ちょっと、瑠奈ちゃん!」
笑顔のまま瑠奈ちゃんは私に手を振って、すごい速さで行ってしまった。残された私は呆然として立ちすくむ。
「美優? なにそれ」
教室から出てきた莉子ちゃんが、私の持っていたプリントに目をおとす。
「莉子ちゃん、私、これ配ってから帰る」
これ、今日中に渡しちゃわなきゃいけないプリントだもん。
「園芸委員会の? 手伝おうか?」
「ううん、説明しながらの方がいいから、私が直接渡すわ。先帰ってて」
そう言うと、私はあわててろうかを走り出した。
本当は先週、あまり話したことがない班長さんもいるから、それぞれに渡しに行くの、嫌だなって思ったんだ。だから瑠奈ちゃんがやってくれるって聞いてほっとしてた。
だからって仕事を丸投げしちゃった私も悪いけど……
ちょっと泣きそうになった。
☆
渡されたプリントは、全部で四部。ええと、まずは……これ一組じゃない! 瑠奈ちゃん、同じクラスなら渡しといてくれたらよかったのに!
急いで一組に向かう。
牧田さん……顔は知っているけど、話したことないや。声かけるのやだな。でも、明日の事だし……
私は、一度自分に、ふんっ! と気合を入れた。
よしっ!
「あの、牧田さん、いますか?」
幸い教室にはまだ数名の生徒が残っていて、目当ての人物もいてくれた。
「相葉さん、私? どうしたの?」
「これ、急で悪いんだけど」
牧田さんは、私から受け取った資料に目を落としてうなずいた。
「ああ、先週言ってたやつね」
「うん。それで、この部分、三番の来年度への要望項目のとこ、明日発表できるようにしておいてほしいの」
「はあ?! 明日?! 連絡こないから、もっと後かと思っていたのに」
案の定、牧田さんは不機嫌な顔になった。と、同時に、肩の向こうから黒いもやが伸びてくる。
それを見て、思わず肩をすくめてしまう。そうだよね。いきなり明日までとか言われたら、む、とするよね。
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