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第三章 悪魔になんかならないで!
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「美優ちゃん、早くこっちへ……」
「そうよ。たくさんたくさん、がまんして……がんばって…………」
風の音にまぎれて、絞り出すような声が聞こえてきた。
振りむくと、宮崎さんがぶつぶつと何か言っている。
「なのに、地元の仕事さえ、もう取れなくなってきて……私がなれたんだから、自分だってモデルになれる? ふざけないでよ、私がどれだけ苦労したと思っているの? モデルでいるために、どれだけのものをがまんしたと思っているの? けがしないように、遊びにいくのだって断った。太っちゃいけないから、お菓子だってろくに食べられない。なのに、ちょっと地元の雑誌に載ったからって、モデルなんてカンタンだって人の事見下して……」
「宮崎さん……」
よく見ると、あたりに吹き荒れている風は、宮崎さんを中心に出てきているようだった。けれど、最初に比べたら少しだけ、その勢いが弱まっているような気がする。
その風の中で、かき消されそうな小さな声が聞こえた。
「子供の頃は可愛いってみんな言ってくれたじゃない。なのに、次々に新しい子ばっかり使って……私よ……可愛いって言われたのは……私なのよ……」
ねたみ。
萌ちゃんの話を思い出した。
「萌ちゃん、もしかして宮崎さんの闇は、ねたみから来ているの?」
「おそらく、そうね」
萌ちゃんは、宮崎さんから目を離さずにうなずいた。
「だからきっと、きれいなロングヘアは、宮崎さんのねたみの象徴だったんだと思うわ。その子がほめられるのは、自分にないものを持っているからだ、って思いこんでしまったのよ」
「そんな! そんなこと思わなくたって、宮崎さんは」
「あの髪……きれいな黒髪を持っていたら……私だって、まだ……きっと……」
萌ちゃんの言った通りのことをつぶやく宮崎さんの目からは、相変わらずぽろぽろと涙がこぼれている。
その涙を見たら、またずきんと胸が痛くなった。
そうだよね。そんな思いを胸に抱えてたら、きっと苦しかったよね。それでも、雑誌の撮影やモデルの仕事、がんばっていたんだよね。
「でも、宮崎さんはきれいだわ」
強い風の中で言った萌ちゃんに、宮崎さんが赤い目を向ける。
「うるさい! あんたみたいなブスにはわからないわよ!」
「ブ……」
言われた萌ちゃんの表情は変わらなかったけど、ちょっとだけほっぺが硬くなったように見えた。
萌ちゃんは、一度大きく深呼吸をすると、また宮崎さんに向かう。
「そうね。私は、きれいと言われるような顔は、持っていないわ。そんな風に、私が欲しくても持てないものを宮崎さんはいっぱい持っているのよ。私は宮崎さんがうらやましい」
「うらやま……しい? 私が?」
「ええ。できることなら、私だって宮崎さんみたいにきれいになりたい。宮崎さんがうらやむその子たちだって、本当は、宮崎さんのこと同じようにうらやんでいるかもしれないわ」
「そんなはずない! きっと私のこと、裏ではばかにして笑ってるんだ! なによ、みんなして……」
風が、いっそう強くなった。吹き荒れる風に、体が持っていかれそうになる。
「おとと……」
「美優ちゃん!」
転びそうになった私を、萌ちゃんが支えてくれる。けれどその分、また飛んできたムチを、萌ちゃんは腕に受けてしまった。
「!」
「萌ちゃん!」
萌ちゃんは、腕を押さえて顔をしかめた。それを見て、宮崎さんが甲高い声で笑う。
「私のことばかにした罰よ! 苦しめばいい! 私みたいに、もっと苦しめば……」
「ほ、本当だよ!」
萌ちゃんにしがみつきながら、私は宮崎さんに向かって言った。
「私も、宮崎さんみたいにきれいになりたいって、すごく思うよ。素敵だなあってうらやましいよ! 嘘なんかじゃないから、そんな私たちの思いまで否定しないで。もっと自分をほめてあげようよ。できない自分じゃなくて、できる自分をほめてあげようよ!」
「……本当に……私が、うらやましい……の?」
「そうよ。たくさんたくさん、がまんして……がんばって…………」
風の音にまぎれて、絞り出すような声が聞こえてきた。
振りむくと、宮崎さんがぶつぶつと何か言っている。
「なのに、地元の仕事さえ、もう取れなくなってきて……私がなれたんだから、自分だってモデルになれる? ふざけないでよ、私がどれだけ苦労したと思っているの? モデルでいるために、どれだけのものをがまんしたと思っているの? けがしないように、遊びにいくのだって断った。太っちゃいけないから、お菓子だってろくに食べられない。なのに、ちょっと地元の雑誌に載ったからって、モデルなんてカンタンだって人の事見下して……」
「宮崎さん……」
よく見ると、あたりに吹き荒れている風は、宮崎さんを中心に出てきているようだった。けれど、最初に比べたら少しだけ、その勢いが弱まっているような気がする。
その風の中で、かき消されそうな小さな声が聞こえた。
「子供の頃は可愛いってみんな言ってくれたじゃない。なのに、次々に新しい子ばっかり使って……私よ……可愛いって言われたのは……私なのよ……」
ねたみ。
萌ちゃんの話を思い出した。
「萌ちゃん、もしかして宮崎さんの闇は、ねたみから来ているの?」
「おそらく、そうね」
萌ちゃんは、宮崎さんから目を離さずにうなずいた。
「だからきっと、きれいなロングヘアは、宮崎さんのねたみの象徴だったんだと思うわ。その子がほめられるのは、自分にないものを持っているからだ、って思いこんでしまったのよ」
「そんな! そんなこと思わなくたって、宮崎さんは」
「あの髪……きれいな黒髪を持っていたら……私だって、まだ……きっと……」
萌ちゃんの言った通りのことをつぶやく宮崎さんの目からは、相変わらずぽろぽろと涙がこぼれている。
その涙を見たら、またずきんと胸が痛くなった。
そうだよね。そんな思いを胸に抱えてたら、きっと苦しかったよね。それでも、雑誌の撮影やモデルの仕事、がんばっていたんだよね。
「でも、宮崎さんはきれいだわ」
強い風の中で言った萌ちゃんに、宮崎さんが赤い目を向ける。
「うるさい! あんたみたいなブスにはわからないわよ!」
「ブ……」
言われた萌ちゃんの表情は変わらなかったけど、ちょっとだけほっぺが硬くなったように見えた。
萌ちゃんは、一度大きく深呼吸をすると、また宮崎さんに向かう。
「そうね。私は、きれいと言われるような顔は、持っていないわ。そんな風に、私が欲しくても持てないものを宮崎さんはいっぱい持っているのよ。私は宮崎さんがうらやましい」
「うらやま……しい? 私が?」
「ええ。できることなら、私だって宮崎さんみたいにきれいになりたい。宮崎さんがうらやむその子たちだって、本当は、宮崎さんのこと同じようにうらやんでいるかもしれないわ」
「そんなはずない! きっと私のこと、裏ではばかにして笑ってるんだ! なによ、みんなして……」
風が、いっそう強くなった。吹き荒れる風に、体が持っていかれそうになる。
「おとと……」
「美優ちゃん!」
転びそうになった私を、萌ちゃんが支えてくれる。けれどその分、また飛んできたムチを、萌ちゃんは腕に受けてしまった。
「!」
「萌ちゃん!」
萌ちゃんは、腕を押さえて顔をしかめた。それを見て、宮崎さんが甲高い声で笑う。
「私のことばかにした罰よ! 苦しめばいい! 私みたいに、もっと苦しめば……」
「ほ、本当だよ!」
萌ちゃんにしがみつきながら、私は宮崎さんに向かって言った。
「私も、宮崎さんみたいにきれいになりたいって、すごく思うよ。素敵だなあってうらやましいよ! 嘘なんかじゃないから、そんな私たちの思いまで否定しないで。もっと自分をほめてあげようよ。できない自分じゃなくて、できる自分をほめてあげようよ!」
「……本当に……私が、うらやましい……の?」
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