はんぶんこ天使

いずみ

文字の大きさ
上 下
3 / 67
第一章 今、天使って言った?

- 2 -

しおりを挟む
「美優?」
「美優ちゃん?」
 時計塔を見ながら歩いていたら、うっかりと足が絡まってしまった。

「きゃっ!」
 べたんとその場に倒れると同時に、私のランドセルから中身が車道にばらばらとあふれてしまう。

「あわわっ……!」
「まあ、大変」
「何やってんよ、ばか美優!」

 萌ちゃんと莉子ちゃんが、一緒にノートや筆箱を拾ってくれる。不機嫌そうな顔で止まってくれていた車のおじさんにぺこりと頭を下げると、私たちは急いで歩道へと走り抜けた。

「これ、入れとくわね」
 歩道のはじっこに寄ると、萌ちゃんは、私の後ろに回って拾ったものをランドセルに入れてくれた。
「もー、美優は本当にドジなんだから。朝から恥かいちゃったじゃない」
 莉子ちゃんが、持っていたノートを萌ちゃんに渡しながら口をとがらす。

「ごめん、莉子ちゃん……」
 ああもう。ランドセルのふた、ちゃんと閉めたつもりだったんだけどなあ。
 しゅん、としていると、後ろから声がかかった。

「なにやってんだよ、美優」
 振り返ると、同じクラスの颯太だった。慎くんも一緒だ。

「おはよう、美優さん。朝から災難だったね」
「おはよう、慎くん。颯太。……見てたの?」
「偶然見えちゃったんだよ。ちょうど通りがかったところだったから」
 にっこりと慎君は笑うけれど、うう、恥ずかしい……

 颯太は、あきれた顔で言った。
「ったく、その様子じゃ、今日、にわとり当番だって忘れてるだろ」
「にわとり……あっ!」
 言われて思い出した。

 うちの学校では、にわとりを三羽飼っている。五年生が順番で世話をしているんだけど、そういえば今日はうちのクラスで、私と颯太が当番だった。

「忘れてた!」
「だろうと思った。月曜の当番のヤツって、忘れやすいんだよな。そうでなくても美優はどんくせーのに」
「ど、どんくさくなんてないもん! 急がなきゃ!」
 歩き出そうとした私のランドセルを、颯太ががしりとつかんだ。

「今日はいいよ」
「え、なんで?」
「俺と慎でやっとくから、お前は、保健室」
「保健室?」
「美優さん、ひざ、すりむいてるよ。ほら、ここ」
 見れば、私の左足のひざが見事にすりむけて、血が流れていた。

「このままじゃ、スカート汚れちゃうから、少しふいとくね」
 慎くんは私の前に膝をついてしゃがみ込むと、痛くないようにそっと私の膝の血をティッシュでぬぐってくれる。

「ありがと、慎くん」
「どうしたしまして。結構、出血してるよ、これ」
「ほら、これも使え」
 颯太が持っていた自分のポケットティッシュも渡してくれた。ぐしゃぐしゃだ。

「あ、うん。ありがと」
「うわ、美優、痛くないの、それ」
 顔をしかめて莉子ちゃんが言った。

「……ちょっと、痛いかも……」
 気づいたとたんに、その傷はひりひりと痛みだしてくる。情けないのと痛いのとで、じわり、と涙が浮いてきた。

「ホントにドジだし泣き虫だな、美優は」
 颯太が、莉子ちゃんと同じことを言いながらぐしゃぐしゃと私の髪をかき回す。
「や! やめてよ、頭ぼさぼさになっちゃう!」
 あわててその手を振り払うと、意地悪く颯太が笑った。

「さっさと手当てしてもらえ、それ」
「美優ちゃん、一緒に、保健室行こう」
「ありがと、萌ちゃん。じゃあ慎くん、にわとり当番お願いしてもいい? 次の慎くんの当番の時、代わるから」
 私が慎くんを見上げた時だった。

「慎くん、おはよう」
「おはよー!」
 後ろから、二人の女子が声をかけてきた。一組の安永さんと菊池さんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

灰魔女さんといっしょ

水定ユウ
児童書・童話
 不思議なことが不思議とたくさん起こる不思議な町、龍睡町(りゅうすいちょう)。  そんな町に暮らす、真心(はあと※中学一年生)は、町外れにある立ち入り禁止の森に足を踏み入れてしまう。  そこで見つけてしまったのは、トカゲ頭の化物。襲われかけた真心だったが、突然現れた灰色髪の少女、グレイスに助けられ・・・  “マヤカシ”と呼ばれる化物に触れてしまった少女と、灰魔女と呼ばれる魔女の織りなす、少し愛らしくて、少し怖い、そんな不思議な物語。  

付喪神のモノローグ

蒼碧
児童書・童話
いろんな付喪神のモノローグを切り取った連作短編。 (重複投稿作品)

不死の獣と旅人

ふじよし
児童書・童話
ずっとひとりぼっちだった不死の獣がひとりきりで旅をしていた旅人と出会うものがたり。 不死の獣が人間のようなものなるまでのものがたり。

蒼の勇者と赤ランドセルの魔女

喜咲冬子
児童書・童話
 織田リノは中学受験をめざす小学5年生の少女。  母親はファンタジー作家。今は〆切直前。今回の物語はアイディアを出すのを手伝ったので、リノは作品の完成を楽しみにしている。  まだ神様がいたころ。女神の末裔として生まれた少女ミンネが、島の危機を救う話だ。  ――ミンネの兄は、隣村のドラドの陰謀により殺された。島の守り神の竜は怒りを示し、荒ぶる神に変じてしまう。  ミンネは、かつて女神が竜と結んでいた絆を取り戻すため、蒼き血をもつ者として、魔女の宝玉を探すことになった。  魔女は、黒髪黒目の少女で、真っ赤な四角い袋を背負っているという――  突然、その物語の主人公・ミンネが、塾の準備をしていたリノの目の前に現れた。  ミンネは、リノを魔女と呼び、宝玉が欲しい、と言い出した。  蒼き血の勇者と、赤ランドセルの魔女? の冒険が、今はじまる。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

恋の三角関係♡探偵団 ~私、未来を変えちゃった!?~

水十草
児童書・童話
未来には無限の可能性が広がっている。 オトナはそう言うけど、何にでもなれるはずない。六年生にもなれば、誰だって現実ってものがわかると思う。それがオトナになるってことだと思ってた。 でもあの事件が起こって、本当に未来が、私たちの運命が大きく変わったんだ――。 ミステリー作家志望の真琴と荒っぽいけど頼りになる直人、冷静沈着で頭脳明晰な丈一が織りなす、三角関係な学園恋愛ミステリー。

仮の猫

闇雲の風
児童書・童話
田舎に大量にいる猫のおはなし

処理中です...