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プロローグ
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しおりを挟む「はあっ、はっ……」
少女は、息を切らしてその黒いもやを見上げる。煙のような霧のような大きな黒い塊。それは、少女がふらつくのを見逃さずに襲いかかってきた。
「きゃっ……!」
体勢を整えようと少女が身構えるが、間に合わない。
「!」
とっさに硬く目を閉じて体を縮こまらせる。
だが、しばらくたっても何も起こらない。
「……?」
少女はそ、と目をあけると、自分の背よりも大きかったその影が、ゆっくりとほどけて消えていくところだった。
「大丈夫かい?」
声をかけられて振り向いた少女は、目を見開いた。
そこにいたのは、長い金髪の男性だ。
本来なら、自分のような下っ端が直接会うこともかなわない、遠くの大きな存在。
なのに彼は、なにかといえば彼女の前に姿をあらわす。
始めこそ口もきけないほど驚いて緊張したが、最近は彼のおちゃめな性格も手伝って、小言すら彼女の口から飛び出すこともある。
「あ……ありがとう、ございます」
またこんなところに、と言いたいところだが、彼がこなかったら自分はどうなったかわからない。今度こそ本当に、消えてしまうところだったのかもしれない。
助かったことを実感した少女は、足から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「また、ご迷惑をかけてしまいましたね」
「とんでもない。思ったよりあの闇は大きかったようだね。少し、君の手にはあまる相手だった」
「いえ。私の力不足です」
少女は、じ、と自分の手を見つめる。
もう少し、力があったら。きっと、あの闇だって自分で消すことができたはずだ。
「そんな風に言うものではないよ」
穏やかな声をかけられて、少女は顔をあげる。膝をついて少女と同じ目線に座り込んだ男性は、優しく彼女を見つめた。
「君はよくやっている。君たちがどの闇を相手にするか、見極めるのは僕の仕事だ。だから、君を危ない目に合わせてしまったのは僕の責任だ。すまなかった」
「そんな……いつも助けられるばかりで……私……」
「どうも僕はどこか抜けているみたいでね。君には苦労ばかりかける」
そして男性は、力いっぱい首を振る少女の手をとって立たせた。
「けがはないかい?」
「はい」
「しばらくは休むといい。そしたら、次の場所へ行ってもらう」
は、と少女の顔が厳しくなった。
「次は、どこへ?」
「それはその時に。まずは体を休めよう」
「いいえ、大丈夫です」
「だが」
「次の仕事が決まっているという事は、もうすでに闇ができているという事なのでしょう? だったら、少しでも早い方がいいです」
男性は、困ったように少女を見つめた。
「いいのかい?」
「もちろんです」
しばらく考えていた男性は、ふ、と軽く息を吐いた。
「わかった。では、すぐ準備をしよう」
そう言って軽くうつむいた男性の背から、ばさりとその背の倍もある白い翼が現れた。
きれい。
光がこぼれてくるような、一点の曇りもない真っ白な翼。
(いつ見ても、大天使様の翼はきれいだわ)
少女も同じようにして自分の翼を開く。だが、彼女の翼は、半透明で大きさも彼の半分ほどしかない。
彼とは違う、借り物の翼のせいだ。
「行こうか」
「はい」
二人は、うなずき合うと、ふい、と空へと飛び立った。
少女は、息を切らしてその黒いもやを見上げる。煙のような霧のような大きな黒い塊。それは、少女がふらつくのを見逃さずに襲いかかってきた。
「きゃっ……!」
体勢を整えようと少女が身構えるが、間に合わない。
「!」
とっさに硬く目を閉じて体を縮こまらせる。
だが、しばらくたっても何も起こらない。
「……?」
少女はそ、と目をあけると、自分の背よりも大きかったその影が、ゆっくりとほどけて消えていくところだった。
「大丈夫かい?」
声をかけられて振り向いた少女は、目を見開いた。
そこにいたのは、長い金髪の男性だ。
本来なら、自分のような下っ端が直接会うこともかなわない、遠くの大きな存在。
なのに彼は、なにかといえば彼女の前に姿をあらわす。
始めこそ口もきけないほど驚いて緊張したが、最近は彼のおちゃめな性格も手伝って、小言すら彼女の口から飛び出すこともある。
「あ……ありがとう、ございます」
またこんなところに、と言いたいところだが、彼がこなかったら自分はどうなったかわからない。今度こそ本当に、消えてしまうところだったのかもしれない。
助かったことを実感した少女は、足から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「また、ご迷惑をかけてしまいましたね」
「とんでもない。思ったよりあの闇は大きかったようだね。少し、君の手にはあまる相手だった」
「いえ。私の力不足です」
少女は、じ、と自分の手を見つめる。
もう少し、力があったら。きっと、あの闇だって自分で消すことができたはずだ。
「そんな風に言うものではないよ」
穏やかな声をかけられて、少女は顔をあげる。膝をついて少女と同じ目線に座り込んだ男性は、優しく彼女を見つめた。
「君はよくやっている。君たちがどの闇を相手にするか、見極めるのは僕の仕事だ。だから、君を危ない目に合わせてしまったのは僕の責任だ。すまなかった」
「そんな……いつも助けられるばかりで……私……」
「どうも僕はどこか抜けているみたいでね。君には苦労ばかりかける」
そして男性は、力いっぱい首を振る少女の手をとって立たせた。
「けがはないかい?」
「はい」
「しばらくは休むといい。そしたら、次の場所へ行ってもらう」
は、と少女の顔が厳しくなった。
「次は、どこへ?」
「それはその時に。まずは体を休めよう」
「いいえ、大丈夫です」
「だが」
「次の仕事が決まっているという事は、もうすでに闇ができているという事なのでしょう? だったら、少しでも早い方がいいです」
男性は、困ったように少女を見つめた。
「いいのかい?」
「もちろんです」
しばらく考えていた男性は、ふ、と軽く息を吐いた。
「わかった。では、すぐ準備をしよう」
そう言って軽くうつむいた男性の背から、ばさりとその背の倍もある白い翼が現れた。
きれい。
光がこぼれてくるような、一点の曇りもない真っ白な翼。
(いつ見ても、大天使様の翼はきれいだわ)
少女も同じようにして自分の翼を開く。だが、彼女の翼は、半透明で大きさも彼の半分ほどしかない。
彼とは違う、借り物の翼のせいだ。
「行こうか」
「はい」
二人は、うなずき合うと、ふい、と空へと飛び立った。
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