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第六章 願いの先
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「申し訳ありません。もう面会時間を過ぎていますので」
にこやかに、でも決して譲らない笑顔で受付嬢はその事実だけを陽介に伝える。
「あの、ほんの少しでいいんです。5分でいいですから」
スマホに示された病院に着くも、時間はもう夕刻だった。当然、中に入れる時間ではない。それでも陽介はあきらめきれず、先ほどから押し問答を繰り返していた。
「明日は、午前10時から面会時間です。それ以降にいらしてください」
「でも」
「もう面会時間を過ぎていますので」
どう言っても、受付嬢の態度は変わらない。
「お願いです。本当に少しでいいので……」
「無理を言うな」
後ろから声をかけられて、反射的に陽介は振り向く。
「木暮……」
「ほう。年上を呼び捨てとはいい度胸だな」
皮肉げな笑みを浮かべた木暮は、最後に会った時とあまり変わっていなかった。その後ろには年配の男性が一人立っている。
「じゃあ、この手紙はやっぱり」
「面会時間くらい調べてから来い。迷惑かけて悪かったね」
最後の言葉を受付嬢にかけると、彼女は、ほ、としたように笑みを浮かべた。あきらかに陽介に向けていた笑顔とは違う。
「来い」
そう言って陽介の返事も聞かずに背を向けて歩き始める。あわてて陽介はその後ろに続いた。
「君が、陽介君か」
一緒にいた男性が、目を細めて陽介を見る。
「はい。宇津木陽介です。あの、あなたは?」
「木暮真一。これの父親だよ」
親子とは思えない穏やかな笑顔で男性は微笑んだ。陽介は、目を丸くする。
木暮の父は、国でも有数のAIに関する開発者だと言っていた。
(この人が……)
そして、藍の実の父親だ。
「ど、どうも。木暮さんにはお世話になりました」
「お前を世話した覚えはない」
「これ。お前はどうしてそう、愛想がないんだ」
たしなめるように言った男性は、陽介に向かう。
「すまんね。この子は、頭がいいばかりで人付き合いが悪くて」
「いえ……」
どう答えていいのかわからず、あいまいに陽介は笑った。
廊下の角をいくつも曲がり、カードキーがなければ開かない扉を何度も超えた。すでに、一般病棟とは明らかに場所が違う建物になっている。
「あの、木暮さん……」
「なんだ」
「なんだい」
陽介が呼ぶと、二人が同時に答えた。
「ああ、そうか。二人とも木暮だからね。私のことは、教授とでも呼んでくれたまえ」
父親の方の木暮が、軽く笑った。陽介も、笑ってはい、と答える。それからもう一度木暮に向いた。
「約束守ってくれて、ありがとうございます」
アンドロイドの藍が完全に起動停止した時、陽介は木暮に頼んでいたのだ。
『藍が目を覚ましたら、連絡をください』
藍は、もうすぐ目を覚ますと言っていた。その言葉を信じて木暮にその連絡を託した。あれから二年になるが、陽介はずっとその時を待っていたのだ。
「あの……それで、藍、さんは」
二人は、やはり同時に陽介を見つめた。
にこやかに、でも決して譲らない笑顔で受付嬢はその事実だけを陽介に伝える。
「あの、ほんの少しでいいんです。5分でいいですから」
スマホに示された病院に着くも、時間はもう夕刻だった。当然、中に入れる時間ではない。それでも陽介はあきらめきれず、先ほどから押し問答を繰り返していた。
「明日は、午前10時から面会時間です。それ以降にいらしてください」
「でも」
「もう面会時間を過ぎていますので」
どう言っても、受付嬢の態度は変わらない。
「お願いです。本当に少しでいいので……」
「無理を言うな」
後ろから声をかけられて、反射的に陽介は振り向く。
「木暮……」
「ほう。年上を呼び捨てとはいい度胸だな」
皮肉げな笑みを浮かべた木暮は、最後に会った時とあまり変わっていなかった。その後ろには年配の男性が一人立っている。
「じゃあ、この手紙はやっぱり」
「面会時間くらい調べてから来い。迷惑かけて悪かったね」
最後の言葉を受付嬢にかけると、彼女は、ほ、としたように笑みを浮かべた。あきらかに陽介に向けていた笑顔とは違う。
「来い」
そう言って陽介の返事も聞かずに背を向けて歩き始める。あわてて陽介はその後ろに続いた。
「君が、陽介君か」
一緒にいた男性が、目を細めて陽介を見る。
「はい。宇津木陽介です。あの、あなたは?」
「木暮真一。これの父親だよ」
親子とは思えない穏やかな笑顔で男性は微笑んだ。陽介は、目を丸くする。
木暮の父は、国でも有数のAIに関する開発者だと言っていた。
(この人が……)
そして、藍の実の父親だ。
「ど、どうも。木暮さんにはお世話になりました」
「お前を世話した覚えはない」
「これ。お前はどうしてそう、愛想がないんだ」
たしなめるように言った男性は、陽介に向かう。
「すまんね。この子は、頭がいいばかりで人付き合いが悪くて」
「いえ……」
どう答えていいのかわからず、あいまいに陽介は笑った。
廊下の角をいくつも曲がり、カードキーがなければ開かない扉を何度も超えた。すでに、一般病棟とは明らかに場所が違う建物になっている。
「あの、木暮さん……」
「なんだ」
「なんだい」
陽介が呼ぶと、二人が同時に答えた。
「ああ、そうか。二人とも木暮だからね。私のことは、教授とでも呼んでくれたまえ」
父親の方の木暮が、軽く笑った。陽介も、笑ってはい、と答える。それからもう一度木暮に向いた。
「約束守ってくれて、ありがとうございます」
アンドロイドの藍が完全に起動停止した時、陽介は木暮に頼んでいたのだ。
『藍が目を覚ましたら、連絡をください』
藍は、もうすぐ目を覚ますと言っていた。その言葉を信じて木暮にその連絡を託した。あれから二年になるが、陽介はずっとその時を待っていたのだ。
「あの……それで、藍、さんは」
二人は、やはり同時に陽介を見つめた。
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