約束してね。恋をするって

いずみ

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第五章 最後の約束

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「ただいま!」

 修学旅行から帰った陽介は、声をかけるなり自分の部屋へと飛び込んだ。荷物を放り出して、急いで着替える。



 藍は、昨日の夜病院へ行ったままついに戻ってこなかった。高木に木暮の事を聞いたが、『心配ない』というだけで詳しいことは教えてもらえなかった。生徒の一人が体調を崩して養護教諭が同行している、とだけ生徒には伝えられた。すぐにそれが藍だということは生徒たちにも察しがついたが、彼女がよく倒れていたこともあって、生徒たちにそれほど動揺は広がらなかった。



 藍本人には、連絡を取るすべがない。木暮はスマホを使っていたが、陽介はその連絡先を知らない。一応担任にも連絡先を教えて欲しいと聞いてみたが、当然のごとく断られた。だから藍の様子を知るには、もう直接藍の家に行ってみるしかなかった。



 場所は知らない。けれど、藍とよく星を見たあの霊園の四阿。あの道の向こう、歩いて5分くらいのところに藍の家があると言っていた。

 上着を着ながら時計を見ると、夜の7時を過ぎたところだった。

(家に押しかけるには、まだ遅くはないな)

 仮に藍がいなくても、家族の誰かがいれば様子を聞くことができるかもしれない。



「陽介、帰ったの?」

 下の階から香織の声がする。部屋を出て階段をおりると、香織がリビングから顔を出していた。

「ただいま。ちょっと出かけてくる」

「あんた帰ったばかりじゃない。こんな時間にどこ行くのよ」

「友達んち」

「もう暗いわよ」

「うん。だけど」

「陽介」

 香織の後ろから、父の声がしてわずかに驚く。



 陽介たちの父、宇都木秀孝は、今は病院の理事長として医療現場からは離れているが、だからこそ経営で忙しく、こんな時間に家にいることは珍しかった。

「父さん、ただいま」

「こっちへ座りなさい」

「俺、これから出かけて……」

「来なさい」

 硬い声に、陽介はため息をついた。

「はい」

 あの声色では、簡単に話が終わりそうもない。

(ちょうどいいか)

『次は、陽介君の番だよ』

 陽介は覚悟を決めて、着たばかりの上着を脱いだ。



「何、父さん」

 リビングに入ると、父親がソファに座っていた。香織は、重い空気を察したのか陽介と入れ替わりにキッチンへと入っていく。

「最近、夜中に出掛けているな」

「出かけてるといっても、星を見に行っているだけだよ」

「なぜ平日まで出かける必要がある」

「それは……」

 口ごもった陽介に父親は重ねて聞いた。



「本当に星を見に行っているのか?」

「どういうこと?」

「誰と、一緒なんだ?」

「え……」

 一瞬藍の顔が浮かんで顔がほてった陽介だが、畳み掛けるような父親の言葉に瞬時に冷静に戻った。



「成績が下がったのはそいつらのせいじゃないのか。くだらん連中とつき合って、宇都木の名に傷をつけるつもりか」

 つまり、陽介が最近出かけるのは、悪い仲間ができたと思われていたらしい。
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