約束してね。恋をするって

いずみ

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第四章 星の降る夜

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 陽介たちがタクシーに乗って着いたのは、嵐山の高台にあるこじんまりした公園だった。いくつかの遊具とベンチがあるそこは、昼間なら小さな子供たちが遊ぶのにちょうどいい広さだ。もちろん、暗くなったこの時間には誰もいない。

 観測会は、陽介と藍、それと引率の木暮だけだった。



「……なんか、ここが京都だって忘れそうな顔ぶれだね」

 夜にも関わらず、藍はいつもの調子で言った。

「今夜は、節電モードじゃないんだ」

 陽介は、持ってきた道具をベンチに広げていく。



「今夜は特別。修学旅行だもん! それに、陽介くんが一緒だし……」

「え、何?」

「ううん、何でもない。今日は何やるの?」

「ああ、これ」

 陽介は持っていたファイルを開くと、藍に星図を渡した。



「これから、おうし座流星群としし座流星群の観察を始めます」

「はい、部長!」

 背筋を伸ばした藍が、びしっ、と片手をあげた。

 その様子は、避けられる前の藍のそのままだった。2週間も気をもんでいたことなんてまるでなかったように、また藍と話している。そのことが嬉しくて、陽介はひたすらにこにこと笑みを浮かべていた。



「藍は、星が流れたらここに経路を記録して。なるべく向きを正確に記録するようにね。あとで、流星群の流れ星か散在の流れ星かを調べるから」

「了解です! 部長は何をするんですか?」

 陽介は、手にした記録表を見せた。

「流れ星の継続時間や色、光度なんかをこれに記録していく」

「ふうん。ここに書いてある痕って何?」

「星が流れた後に残る光のあとを痕って呼ぶんだ。少しずつ光が消えていくのがとてもきれいだよ」

「そうなんだ。見られるといいな」

「おうし座流星群の場合は、火球が多いから当たれば大きいのが見えるかも。しし座流星群は、今年は当たり年じゃないから期待薄かな」

 言いながら、陽介はちらちらと木暮がこっちを見ているのに気付いた。



「先生も一緒にやります?」

「……いや。遠慮しておく」

 そっけなくそう言うと、奥のベンチに腰をかけた。

「興味ありそうなんだけどなあ」

 陽介が持ってきたカメラを三脚につけながら言うと、藍が首をかしげた。



「お兄ちゃんも星が好きなのかな」

「あれ? よく藍を連れて星を見たって言ってたけど」

 ほんの一瞬の間があって、藍が明るい声を出した。

「うん。そう。だから、私も夜空を見上げるの好きになったの。お兄ちゃん、すごく星のことに、詳しいんだよ……」

 不自然に声が小さくなった藍を、陽介が振り返る。と、ガラスのような目をした藍にぎょっとする。



「藍?」

「え、何?」

 次の瞬間には、またいつものくりんとした視線が陽介に向けられた。

「どうかした?」

「今、お前……いや、なんでもない。さ、時間もったいないから始めるぞ」

「うん」

 そうして二人でベンチに座って星を見上げる。本来ならもっと見上げやすいようにシートや椅子を用意するものなのだが、修学旅行中でもあり道具をそろえることはあきらめた。

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