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第四章 星の降る夜
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なんとなくそれで我に返った二人は、気恥ずかしさからどちらからともなくお互いに少し離れる。
「あの、今、何か言いかけたか?」
「その……ううん、なんでもない」
まだ少しだけ憂いを帯びた口調で藍は、目元をぬぐいながらそう言った。
「そう?」
藍の様子が気にはなったが、陽介は雰囲気を変えようと話題を探す。
「えーと、あ、あのさ、前にも言ったけど、今夜天文部で観測会やるんだ」
「あ、うん。流星群だったよね」
気を取り直したように、藍も話を続ける。
「そう。しし座流星群とおうし座流星群。それほど数は流れないけど、1時間くらい観測するつもり。藍も一緒に行かないか?」
「でも、私、天文部じゃないし……」
「木暮先生が、藍を誘ってもいいって」
藍が驚いたように目を瞠る。
「お兄ちゃんが?」
「うちの担任の代わりに、木暮先生が引率してくれるんだって」
ようやく藍が、ほんのりと笑んだ。
「そうなんだ。嬉しい。本当はね、すごく興味があったの」
「よかった」
「それに、お兄ちゃんが一緒なら私も安心だし」
その笑顔があまりにほっとした表情だったので、陽介は少しだけ拗ねてみせる。
「なんだよ、俺と一緒じゃ安心できないのかよ」
「え、そんな意味じゃないよ」
あせったように慌てて言った藍に、ふ、と陽介が笑う
「わかっているよ。からかっただけだ」
ぷ、と藍が頬を膨らませる。
「もう。意地悪」
「ごめん。そんな顔もかわいいな」
か、と頬を染めて、藍が困ったような怒ったような顔になった。そんな風にまた普通に話せることが、陽介は嬉しかった。
そこで、は、と気づいて、陽介は腕時計を見た。
「あー、集合時間すぎちゃったな」
「え! どうしよう」
藍も、あわてて自分の時計を確認する。ホテルに戻って点呼を行っている時間は、とっくに過ぎていた。
「先生には、俺が謝っとくよ。俺が引き留めちゃったんだし」
「ううん、私も逃げるようなことしちゃったんだもん。一緒に怒られるよ」
「いや、いいよ。俺が追いかけたんだし」
「でも、私だって」
言い合って見つめあうと、二人で同時に笑い出す。
「わかった。じゃ、二人で一緒に謝りに行こう」
「うん」
涙を拭いて笑った藍は、久しぶりに見るいい顔をしていた。
(やっぱり、かわいいなあ)
そんなことを考えながら陽介がスマホを確認すると、諒から先に帰ると連絡が入っていた。
「平野たちに、藍も一緒だって伝えてくれるって」
連絡手段を持たない藍は、彼女たちに連絡するすべがない。突然走り出してしまったから、心配しただろう。
「さ、帰ろう」
そう言って陽介が手を出した。しばらくそれを見つめていた藍は、ぎこちない様子で、その上に自分の手をそっと乗せる。その様子に、陽介はわずかに目を瞠った。
今まで藍が、男女問わず誰とでも気軽に手を繋いだり腕を組んだりしてきたのを陽介は見てきた。今の藍のように、はにかんだようなしぐさを見せたことは一度もなかった。
陽介は、藍の中で自分に対する気持ちが確かに変わっているのを感じた。藍が何にこだわっているのかはわからないが、今はただ、ひんやりした藍の手を握っているそれだけで満足だった。
藍は、染まった頬でことさらそっけなく言う。
「駅までだからね」
「はいはい」
それきり言葉もないまま、二人はゆっくりと細い道を歩いていった。
☆
「あの、今、何か言いかけたか?」
「その……ううん、なんでもない」
まだ少しだけ憂いを帯びた口調で藍は、目元をぬぐいながらそう言った。
「そう?」
藍の様子が気にはなったが、陽介は雰囲気を変えようと話題を探す。
「えーと、あ、あのさ、前にも言ったけど、今夜天文部で観測会やるんだ」
「あ、うん。流星群だったよね」
気を取り直したように、藍も話を続ける。
「そう。しし座流星群とおうし座流星群。それほど数は流れないけど、1時間くらい観測するつもり。藍も一緒に行かないか?」
「でも、私、天文部じゃないし……」
「木暮先生が、藍を誘ってもいいって」
藍が驚いたように目を瞠る。
「お兄ちゃんが?」
「うちの担任の代わりに、木暮先生が引率してくれるんだって」
ようやく藍が、ほんのりと笑んだ。
「そうなんだ。嬉しい。本当はね、すごく興味があったの」
「よかった」
「それに、お兄ちゃんが一緒なら私も安心だし」
その笑顔があまりにほっとした表情だったので、陽介は少しだけ拗ねてみせる。
「なんだよ、俺と一緒じゃ安心できないのかよ」
「え、そんな意味じゃないよ」
あせったように慌てて言った藍に、ふ、と陽介が笑う
「わかっているよ。からかっただけだ」
ぷ、と藍が頬を膨らませる。
「もう。意地悪」
「ごめん。そんな顔もかわいいな」
か、と頬を染めて、藍が困ったような怒ったような顔になった。そんな風にまた普通に話せることが、陽介は嬉しかった。
そこで、は、と気づいて、陽介は腕時計を見た。
「あー、集合時間すぎちゃったな」
「え! どうしよう」
藍も、あわてて自分の時計を確認する。ホテルに戻って点呼を行っている時間は、とっくに過ぎていた。
「先生には、俺が謝っとくよ。俺が引き留めちゃったんだし」
「ううん、私も逃げるようなことしちゃったんだもん。一緒に怒られるよ」
「いや、いいよ。俺が追いかけたんだし」
「でも、私だって」
言い合って見つめあうと、二人で同時に笑い出す。
「わかった。じゃ、二人で一緒に謝りに行こう」
「うん」
涙を拭いて笑った藍は、久しぶりに見るいい顔をしていた。
(やっぱり、かわいいなあ)
そんなことを考えながら陽介がスマホを確認すると、諒から先に帰ると連絡が入っていた。
「平野たちに、藍も一緒だって伝えてくれるって」
連絡手段を持たない藍は、彼女たちに連絡するすべがない。突然走り出してしまったから、心配しただろう。
「さ、帰ろう」
そう言って陽介が手を出した。しばらくそれを見つめていた藍は、ぎこちない様子で、その上に自分の手をそっと乗せる。その様子に、陽介はわずかに目を瞠った。
今まで藍が、男女問わず誰とでも気軽に手を繋いだり腕を組んだりしてきたのを陽介は見てきた。今の藍のように、はにかんだようなしぐさを見せたことは一度もなかった。
陽介は、藍の中で自分に対する気持ちが確かに変わっているのを感じた。藍が何にこだわっているのかはわからないが、今はただ、ひんやりした藍の手を握っているそれだけで満足だった。
藍は、染まった頬でことさらそっけなく言う。
「駅までだからね」
「はいはい」
それきり言葉もないまま、二人はゆっくりと細い道を歩いていった。
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