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第四章 星の降る夜
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予定では、天文部の活動として嵐山の高台にある公園で流星群の観測をすることになっている。
「で、帰りはタクシーを使っていいそうなので、11時前には戻る予定です」
「ふむ。時間も早いしあまり出現は期待できないが、遅くなることはできないから仕方がないな。おうし座流星群としし座流星群の二つの時期にあたっていても、大出現まで期待するのはさすがに無理というものか」
呟いた木暮に、陽介は目を瞠った。
「先生、天体には詳しいんですか?」
顔をあげた木暮は相変わらず無表情だった。
「一般的な知識に過ぎない」
「高木先生は流星群すらよくわかってませんでしたよ。もしかして、藍が星が好きなのは先生の影響ですか?」
陽介は、つとめて明るく話を続けた。木暮は、そんな陽介をじっと見つめた後、書類の片づけを始める。
「かもしれないな。よく星空を見せてやったから」
「やっぱりそうなんですね。あの……明日の観測会、藍を誘ってもいいですか?」
「部員以外は参加不可だ」
それは高木にも言われていた。予定では、就寝時間を大きく過ぎてしまうからだ。天文部の活動ということで、部員の陽介たちは特例扱いだ。
がっくりしている陽介に、木暮は資料に目を落としながら続けた。
「まあ、誘ってみるといい。本人が行くというならとめないが」
「え、本当ですか?」
兄である木暮が行くなら、藍も参加する気になるかもしれない。
なんとか藍と直接話したい。
(このままなのは、絶対に嫌だ)
陽介は、すこしばかりうなだれて呟いた。
「最近、藍に避けられてるんです」
「それだけのことをしたんだろう」
しれっと木暮が言い返した。
「いや、まあ、それはそうかもですけど……でも、それだけじゃないような気がするんです」
「お前がそう思うならそうなんだろう」
「先生は藍から何か聞いていますか?」
「さあな」
「できれば、藍に謝りたいんですけど……」
「謝ったらいいだろう」
「全然顔を合わせてくれないんですよ」
「自分でどうにかしたまえ」
木暮の口調は相変わらずにべもない。
「せんせー」
「なんだ」
「かわいい生徒が困っているんだから、もうちょっと親身になって考えようかなとか思いません?」
さらに冷たい視線が向けられた。そんな木暮に、陽介は聞いてみる。
「先生は、なんで養護教諭になろうと思ったんですか?」
「……なんだ、藪から棒に」
「木暮先生って、生徒の悩みを一緒になって親身に考えてくれるってタイプではないじゃないですか。それって、高校の養護教諭として向いてないんじゃないですか?」
「失礼なことをはっきり言うやつだな。それなら、私はどんな風に見える?」
「そうですねえ。どっちかって言うと病理か、もしくは研究者の方が向いているように見えます。一つの事についてえんえんと何か考えていたり作っていたり」
それを聞いた木暮は、珍しいことに微かに笑んだ。
「見る目はあるな。特別にお前の相談を受けてやろう。何でも話すがいい」
その木暮の顔を見ながら、陽介は続けた。
「養護教諭って、医学部で資格とるんですか?」
「必ずしも医学部とは限らないが、確かに私は医学部をでている」
さらに何かを言いかけたが、木暮はそのまま口を閉じた。陽介は、木暮が何も言わないのを見てぼそりと言った。
「俺、将来医者になるんですよ」
「で、帰りはタクシーを使っていいそうなので、11時前には戻る予定です」
「ふむ。時間も早いしあまり出現は期待できないが、遅くなることはできないから仕方がないな。おうし座流星群としし座流星群の二つの時期にあたっていても、大出現まで期待するのはさすがに無理というものか」
呟いた木暮に、陽介は目を瞠った。
「先生、天体には詳しいんですか?」
顔をあげた木暮は相変わらず無表情だった。
「一般的な知識に過ぎない」
「高木先生は流星群すらよくわかってませんでしたよ。もしかして、藍が星が好きなのは先生の影響ですか?」
陽介は、つとめて明るく話を続けた。木暮は、そんな陽介をじっと見つめた後、書類の片づけを始める。
「かもしれないな。よく星空を見せてやったから」
「やっぱりそうなんですね。あの……明日の観測会、藍を誘ってもいいですか?」
「部員以外は参加不可だ」
それは高木にも言われていた。予定では、就寝時間を大きく過ぎてしまうからだ。天文部の活動ということで、部員の陽介たちは特例扱いだ。
がっくりしている陽介に、木暮は資料に目を落としながら続けた。
「まあ、誘ってみるといい。本人が行くというならとめないが」
「え、本当ですか?」
兄である木暮が行くなら、藍も参加する気になるかもしれない。
なんとか藍と直接話したい。
(このままなのは、絶対に嫌だ)
陽介は、すこしばかりうなだれて呟いた。
「最近、藍に避けられてるんです」
「それだけのことをしたんだろう」
しれっと木暮が言い返した。
「いや、まあ、それはそうかもですけど……でも、それだけじゃないような気がするんです」
「お前がそう思うならそうなんだろう」
「先生は藍から何か聞いていますか?」
「さあな」
「できれば、藍に謝りたいんですけど……」
「謝ったらいいだろう」
「全然顔を合わせてくれないんですよ」
「自分でどうにかしたまえ」
木暮の口調は相変わらずにべもない。
「せんせー」
「なんだ」
「かわいい生徒が困っているんだから、もうちょっと親身になって考えようかなとか思いません?」
さらに冷たい視線が向けられた。そんな木暮に、陽介は聞いてみる。
「先生は、なんで養護教諭になろうと思ったんですか?」
「……なんだ、藪から棒に」
「木暮先生って、生徒の悩みを一緒になって親身に考えてくれるってタイプではないじゃないですか。それって、高校の養護教諭として向いてないんじゃないですか?」
「失礼なことをはっきり言うやつだな。それなら、私はどんな風に見える?」
「そうですねえ。どっちかって言うと病理か、もしくは研究者の方が向いているように見えます。一つの事についてえんえんと何か考えていたり作っていたり」
それを聞いた木暮は、珍しいことに微かに笑んだ。
「見る目はあるな。特別にお前の相談を受けてやろう。何でも話すがいい」
その木暮の顔を見ながら、陽介は続けた。
「養護教諭って、医学部で資格とるんですか?」
「必ずしも医学部とは限らないが、確かに私は医学部をでている」
さらに何かを言いかけたが、木暮はそのまま口を閉じた。陽介は、木暮が何も言わないのを見てぼそりと言った。
「俺、将来医者になるんですよ」
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