約束してね。恋をするって

いずみ

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第三章 自覚

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 陽介が出ていくと、木暮は立ち上がって藍の寝ているベッドのカーテンを開けた。そこには、先ほどと変わらず藍が眠っている。

「だ、そうだ」

 木暮が言うと、藍はゆっくりと目を開けて体を起こした。



「顔が赤いな。体温調整がうまくいってないのか」

 陽介にかけたのとは違う、からかうような声音に藍が頬をふくらませた。

「いじわる言わないでよ。……夕べの、見てたの?」

 ふ、と木暮が笑った。



「今のお前じゃなかったら、触れる前に殴ってた」

「陽介君、命拾いしたね」

 くすくす、と笑う藍の隣に、木暮が腰を下ろす。



「彼が、好きかい?」

「好きよ」

「平野や、こないだ一緒に動物園に行ったなんとかいう男よりも?」

 そう言われて、藍は少し考え込む。



「勝くんとか朱莉とか玲子も、もちろん好きよ。でも、陽介君と一緒にいると、私、落ち着きがなくなるの。すごく楽しいのに、なんだか胸がざわざわして……うまく息ができなくなる時がある。私、やっぱりどっか壊れてるのかな」

 ぼんやりと空を見つめる藍を、木暮は複雑な表情で見つめた。



「ねえお兄ちゃん、覚えてる?」

「何を?」

「2年になって、私が保健委員になった時」

 藍は、ベッドに腰掛けている木暮にもたれる。

「私、保健室にあったはさみで自分の指切ろうとしたじゃない?」

「ああ」

 それは木暮が、保健委員に備品の説明をしていたときのことだ。



 ガーゼなどを切るために用意されたはさみは、生徒たちが使う文具より良い品でよく切れるが、紙を切ってはいけないと説明した。よくそれでプリントなどを切ってしまう生徒がいるが、切れが悪くなってしまうので文具用と分けなければならない。その説明を聞いた保健委員の男子が、『なら指なら切ってもいいんですかあ?』とふざけて言ったのを聞いた藍は、自分の指を切ろうとしたのだ。

 ふざけていた男子はあわててそのはさみをとりあげた。



『なにすんだよ!』

『指なら切ってもいいかって言うから切れるのかなって』

 藍の返答に、冗談のつもりだった男子は困惑する。まさか自分の言葉を本気で取られるとは思わなかったのだろう。藍はただ、はさみで指が切れるということがどういうことなのかを知りたかった。

 自分の指と取り上げられたはさみをそれでも眺めていると、ひょい、とそのはさみが持ち上げられた。あ、と思う間もなく、持ち上げた陽介が自分の指にはさみをすべらせた。

 指に走った一筋から、血が流れ落ちる。



 委員会は大騒ぎになった。驚いた藍に、陽介は笑った。

『よく切れるって言われたら、試してみたくもなるよな。だから、これから気をつけて使おう。せっかくきれいな細い指なんだから、傷なんかつけない方がいいよ』

『痛くないの?』

『皮1枚だからそれほど。でも、手を洗う時しみるかもな』

 こともなげに陽介は言ったが、藍にしてみれば衝撃だった。

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