約束してね。恋をするって

いずみ

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第二章 それぞれの嫉妬

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「君も大概しつこいな。ダメだと言っているんだから、あきらめたらどうだ」

 言われて、いつになく強引な勧誘をしていたということに陽介は自分で気づいた。

「すみません。でも……」

 藍に無理をさせるつもりはない。けれど、真剣に望遠鏡をのぞいていた藍の顔が、陽介の頭の中から離れない。

 また、一緒に星のことを話したい。天文部の中でも、藍のように星について興味深く話す部員は少ない。

 そう思って、さらに陽介は聞いてみる。



「先生は藍の病気のことについて詳しいですか? 天文部に誘っているんですけど」

「もちろん知っている。だから言わせてもらうが、疲れやすい体で長時間拘束されるのは、本人にかなりの負担を強いることになる」

 不機嫌をあらわにした表情で言われて、陽介は少し驚いた。春から保健委員として顔を合わせてはいるが、良くも悪くも木暮が感情を表すのを見たのは初めてだ。



 気圧された陽介の前で、木暮は藍の額に手をあてた。

「どこかだるいところはないか?」

「ん。もうすっかり」

「無理するな。俺が帰るまでここで寝ててもいいぞ」

「いいよお。ちゃんと帰れます」

 やけに親し気な二人の様子をみて、陽介はなんとなくもやもやとした気持ちを感じる。



「先生、あんまり女子にべたべたすんなよ」

「人聞きの悪いことを言うな。べたべたなどしてない」

 そう言って木暮は陽介を振り返るが、その手はしっかりと藍の背に回されている。

「してるじゃん。手。その手」

 女生徒から騒がれる教諭ではあるが、陽介は木暮が他の生徒にそんな風に触れるのを見たことがない。それが少なからず陽介の気に障った。

 そんな陽介に構うことなく、木暮は藍に向き直る。



「また倒れたら困るだろう」

「大丈夫だってば。先生、心配しすぎ」

 ぷ、と頬をふくらませると、藍は木暮の手を押し返す。

「陽介君、クラブ?」

「あ、うん」

「私もう帰るから、昇降口まで一緒にいこ。じゃあね、先生」



 藍は陽介の腕をとって保健室から出る。ちらりと背後を見た陽介は、木暮の射抜くような視線をまともに見てしまう。

「し、失礼します!」

 それだけ言うと、陽介は保健室の戸を急いで閉めた。





「おい、そんなに早く歩いてて大丈夫なのか?」

 跳ねるように楽しそうに歩く藍に、陽介はおそるおそる聞く。

「大丈夫だよう! 陽介君も、心配しすぎ!」

「倒れたとなれば、誰だって心配するだろう。木暮先生だって……」

「そうねえ。また倒れたら面倒だとか思ってるのかな」

「……仲、いいんだな」

「仲?」

 きょとんとした顔で藍が振り向く。大きな目が興味深そうに陽介をとらえていた。陽介は、少し目線を逸らして呟く。



「藍と、木暮先生」

「仲いいよ。あ、もしかして陽介君ももっと私と仲良くなりたい?」

 藍はいたずらっぽく笑うと、陽介に腕をからませて抱きついた。制服を通しても温かい藍の体温が伝わってくる。

 どうやら、藍は誰かれ構わずくっつく癖があるらしい。初めて腕を取られた時は驚いたが、それからも男女問わず手をつないだり腕を組んだりしている藍を何度か見かけた。あざといと言われそうな仕草だが、藍がやると、まるで子供が兄姉や親に甘えているような印象を受けた。



「うわっ、何すんだよ」

 だからといって、こちらも平気でいられるかというとそうでもない。

「仲良しだよー」

「わ、やめ……! ちょ……!」

「え? 嫌だった?」

 怒られたと思ったのか、急に不安げな顔になった藍に陽介は首を振る。

「嫌とかじゃないけど! でも!」

 陽介は周りを気にしてきょろきょろとあたりを見回す。放課後の校舎の中には、人影はない。



「あ、ほら、帰るんだろ!」

 下駄箱に差し掛かって、あわてて陽介は藍の手をほどく。

「うん。じゃあまたね、陽介君!」

 あっさり言って笑顔に戻ると、藍は靴を履き替えて元気に外へと飛び出していった。一見平然とそれを見送る陽介の動悸は、かなり激しいままだ。



 腕にわずかに感じたふくよかな感触。あれは……

 うっかり想像しそうになって陽介はあわてて頭を振ってその考えを追い出す。

「さて! 俺もクラブ行こうかな!」

 誰ともなく大きな声で言って、陽介は部室へと急いだ。



  ☆



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