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「気にすんなよ」
 ふいに、久遠が私の眼鏡を取り上げる。
「あ、返して!」
「俺の前では眼鏡禁止」
 取り上げた眼鏡を自分でかけて、久遠は言った。

「俺は、素のままのるながいい。怒って笑って喜んで、くるくる変わる表情のるなが一番」
 とくん。
 そう、言ってくれるのは嬉しい。
 でも。
 あなたは私の本当の名前すら知らない。

「おら、行くぞ。腹減った」
「あ……」
 立ち上がった久遠を、思わず呼び止める。
「ん?」
 伊達眼鏡の奥の目が優しい。そこに、初めて会った時の警戒感みたいなものはない。多分、それは私にも。
 ここで実は、ってちゃんと名乗ったらどうなるだろう。

「……なんでもない」
 久遠はけげんな顔をするも、それ以上聞くことはなかった。私も立ち上がって久遠のあとを追う。
 マスクをつけてカップを片付ける久遠の後ろ姿を見ていて、ふいにさっき誰かに似てると感じたことを思い出した。
 あ。

「クウヤ……?」
 うっかり呟いてしまった私の声に気づいて、久遠が振り向いた。あわてて私は自分の口元を押さえる。
「クウヤ? って、ラグバの?」
「あ、うん。なんか、後ろ姿とか雰囲気が似てるな、って思っちゃった」
 クウヤは、タカヤと同じラグバのメンバーだ。私の言葉に、久遠は微かに顔をしかめる。

「あんなガキと一緒にすんなよ」
 そう。クウヤはメンバーの中でも弟のような甘えんぼの存在で、明るくて太陽のような笑顔が特徴の元気いっぱいの少年だ。仏頂面で口の悪い久遠とは、間違っても似ているわけではない。
 でも、時折見せる表情とか姿勢とか後ろ姿の肩の雰囲気とか、BRでよく見るクウヤのしぐさになんとなく重なるように見えたんだ。
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