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「助けてくれたお礼。なにか食べてよ」
「ばかにすんな。そんなつもりで助けたわけじゃない」
 怒っているようだけど、すごんだ言葉には力がなかった。よほどお腹がすいているのかしら。
 さっきはあんなに気迫があったのに。この人だって、がんばってくれたんだ。

「でも、これしかお財布に入っていないんだもん。あなた、そのままじゃそこらへんで倒れちゃうわ」
 ちょっと口は悪いけど、あの人ごみで唯一助けてくれたしきちんと謝ることもできるし、根はいい人なのかもしれない。
 男は、私の手を押し返すと首を振った。

「別に、金がないわけじゃない。一人で飯食うのが嫌なだけだ」
「そんなの我慢しなさいよ。空腹で倒れる方がよっぽど大変よ」
 男はしばらく私を見つめてからぼそりと呟いた。
「ラーメン」
「え?」
「今日はラーメン食うつもりだったんだ。付き合えよ」
「え、でも」
「お前の言った通り、このままじゃ俺倒れる。心配すんな。ナンパじゃないから」
「そんな心配はしてないけど……」

 知らない人と食事なんてしたことないから、ちょっとためらってしまう。
 ま、いっか。私もお夕飯まだだし、ラーメン好きだし。

「わかったわ。でも、見ず知らずの私が一緒でも大丈夫なの?」
「背に腹は代えられねえから我慢する」
 ……なんかすごい失礼な発言のような気もするけど、限界なのは確からしい。いい人なのかもしれないけど、ホントに、口が悪い。

 そんなことを考えながら、ふらふらと歩き出した男のあとをついていく。細い路地に入っていくから少しひやっとしたけれど、すぐに一件のラーメン屋についた。
 店内は明るくて外から中が見えるし、ここなら変なことをされる心配もないだろう。

 私は男についてその店に入った。

  ☆

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