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30.腹ペコ姫のミステリ
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ぐぅ~きゅるきゅるきゅる……。
凄い音で目が覚めた。自分の手が、白いシーツの上に見える。
だんだん覚醒してきて、ばっと起き上がった。
そこは見知らぬ一室だった。
天蓋のある大きなベッドに私は寝かされていた。服は滑らかな肌触りのネグリジェを着せられている。
ぐるりと見渡してみる。窓はあったが、そこには鉄格子がはまっていた。
ドアが視界に入ったので、ベッドから立ちあがってよろめきながらも向かう。取っ手を握って開けようとするも鍵が掛かっていた。
他の場所は、と見渡すと、扉がもう一つあった。そこは鍵が掛かっていなかった。
覗いてみると、バスルームとお手洗いである。やっぱり換気窓にまで鉄格子。
そこは諦めて扉を閉じて元の部屋の探索に戻る。家具はあのドレスを買った所で見たようなものだった。
寝具もカーテンも、高級なものだと分かる。
しかし人を閉じ込めておく目的の部屋だという事は理解出来たので、幾ら豪華といえどもきっとここは牢獄なのだろう。
お腹空いたなぁ。あれからどれぐらい食べてないんだろう?
血糖値が足りてないのかぼうっとするし、頭が働かない。ベッドに座ってぼんやりしていると、ドアからガチャガチャと音がした。
一人のメイド服を着た女性が現れる。私ははっと緊張して立ち上がった。
「まあ、お目覚めになったのでございますね」
「あの、ここはどこですか……あなたは?」
俄かに警戒心が出てきて、私は相手のどんな表情も見逃すまいと顔を見て問いかけた。
しかし彼女は無表情を保っている。慇懃に綺麗な所作で礼を取った。
「わたくしは、姫様にお仕えするようにと申し付かっている者でございます」
「姫様? 申し付かって……って、誰に?」
「それは貴女様が混乱なさってはいけないので、今はまだ秘密にするようにと言われております」
淡々と述べられた内容に、私は眉を顰めた。
姫様って何? それに混乱って。今でも十分に混乱しているんだけど。
「私を連れて来るように命令を受けたと相も……シュモーヴ騎士団の人達が言っていました。あなたに命じたのも第三王子殿下ですよね?」
「いいえ、違います」
えっ? 違うの?
「じゃあ誰?」
「お答えは出来ません」
「……」
何度聞いても答えられないの一点張り。訳が分からなかった。
しかし訂正しておくべき事はちゃんと主張しておいた方が良さそうだと思う。
姫様って身分の高い人なのは明らかだし、後で「姫様を騙った~」とか言われたくない。
「あの、何かの間違いです。私は単なる庶民ですので」
「間違いではございません。貴女様は庶民としてお育ちですが、本来は尊きお方でいらっしゃると伺っております」
「ど、どういうこと……?」
もしかして。
あの否定しなかった「転移魔法で飛ばされてきた貴族令嬢」という噂が一人歩きしたんだろうか?
いや、考えすぎかな。ああ、頭が回らない。
その時、お腹が再び盛大に鳴った。私は思わず顔を両手で覆う。
お腹がぎゅうぎゅうなって本当に恥ずかしい。
「……お食事とお召し替えをお持ちいたしましょう」
メイドさんは顔色に何も出すことはなく、無表情で下がっていった。
再びドアの外でガチャガチャと音がする。
鍵がかけられたのだ。
ぽすん、とベッドに後ろから倒れこむ。
せめて血流が少しでも脳に行きますように。
私はそのままうーんと考え込んだ。
***
私を誘拐した奴らは、ブリオスタ王国の剣たるシュモーヴ騎士団と名乗った。
つまり彼らの主が第三王子にせよ誰にせよ、国そのものからの差し金であると考えても間違いない。
騎士団はカイルさんが依頼でいない時を見計らってきたとしか思えない。
つまり、依頼そのものも国がわざとカイルさんを指名した?
あの結婚式の時、第三王子と一悶着あったせいなのか。
しかしそうだったらここに第三王子がいないのはおかしい気がする。
「そうだよ」
さっき、メイドさんは何て言った。
『貴女様は庶民としてお育ちですが、本来は尊きお方でいらっしゃると伺っております』
それに加えて『姫様』呼び。
『姫様』って一般的には『王様の娘』を指す。
なのに私をそう呼ぶって事は、王様が私を娘にしようとしている?
まさかね。王様とは面識も無いし。
あの第三王子も私を姉妹にする気は無いだろうし。むしろ側室とかにされそう……。
という事は、今のこの監禁状況は第三王子によるものじゃなくて、別口からの意向によるもの……?
そこまで考えた時。
メイドさんが良い匂いのするワゴンを引いて戻ってきた。
***
「ひとまずお召し替えを」
持って来られたドレスは、カイルさんに買ってもらったのと同じぐらい豪華だったけれども、裾がゲイナさんの花嫁衣裳に近い長さだった。
じゃらじゃらキラキラした装飾品もあったけれど、食事の時は着けたくないとお断りした。
「ではお食事の後で。姫様には相応しい装いというものがございます、何卒ご理解を」
言いながらメイドさんは私を椅子に座らせ、テキパキとナフキンを首に折り込んで膝の上に掛けてくれた。
それが済むと、ワゴンから食事をテーブルに置いて覆いを取っていく。
サラダ、柔らかそうな白パン、野菜たっぷりのスープ、肉のソース煮込みにデザート。
涎が垂れそうだった。実に美味そう。
しかしお腹の鳴り具合からしてこれだけでは足りないかも知れない。
監禁状態で腹が立つので思いっきり食べてやろうと決意する。
それに、腹が減っては戦は出来ぬと言うしね。
凄い音で目が覚めた。自分の手が、白いシーツの上に見える。
だんだん覚醒してきて、ばっと起き上がった。
そこは見知らぬ一室だった。
天蓋のある大きなベッドに私は寝かされていた。服は滑らかな肌触りのネグリジェを着せられている。
ぐるりと見渡してみる。窓はあったが、そこには鉄格子がはまっていた。
ドアが視界に入ったので、ベッドから立ちあがってよろめきながらも向かう。取っ手を握って開けようとするも鍵が掛かっていた。
他の場所は、と見渡すと、扉がもう一つあった。そこは鍵が掛かっていなかった。
覗いてみると、バスルームとお手洗いである。やっぱり換気窓にまで鉄格子。
そこは諦めて扉を閉じて元の部屋の探索に戻る。家具はあのドレスを買った所で見たようなものだった。
寝具もカーテンも、高級なものだと分かる。
しかし人を閉じ込めておく目的の部屋だという事は理解出来たので、幾ら豪華といえどもきっとここは牢獄なのだろう。
お腹空いたなぁ。あれからどれぐらい食べてないんだろう?
血糖値が足りてないのかぼうっとするし、頭が働かない。ベッドに座ってぼんやりしていると、ドアからガチャガチャと音がした。
一人のメイド服を着た女性が現れる。私ははっと緊張して立ち上がった。
「まあ、お目覚めになったのでございますね」
「あの、ここはどこですか……あなたは?」
俄かに警戒心が出てきて、私は相手のどんな表情も見逃すまいと顔を見て問いかけた。
しかし彼女は無表情を保っている。慇懃に綺麗な所作で礼を取った。
「わたくしは、姫様にお仕えするようにと申し付かっている者でございます」
「姫様? 申し付かって……って、誰に?」
「それは貴女様が混乱なさってはいけないので、今はまだ秘密にするようにと言われております」
淡々と述べられた内容に、私は眉を顰めた。
姫様って何? それに混乱って。今でも十分に混乱しているんだけど。
「私を連れて来るように命令を受けたと相も……シュモーヴ騎士団の人達が言っていました。あなたに命じたのも第三王子殿下ですよね?」
「いいえ、違います」
えっ? 違うの?
「じゃあ誰?」
「お答えは出来ません」
「……」
何度聞いても答えられないの一点張り。訳が分からなかった。
しかし訂正しておくべき事はちゃんと主張しておいた方が良さそうだと思う。
姫様って身分の高い人なのは明らかだし、後で「姫様を騙った~」とか言われたくない。
「あの、何かの間違いです。私は単なる庶民ですので」
「間違いではございません。貴女様は庶民としてお育ちですが、本来は尊きお方でいらっしゃると伺っております」
「ど、どういうこと……?」
もしかして。
あの否定しなかった「転移魔法で飛ばされてきた貴族令嬢」という噂が一人歩きしたんだろうか?
いや、考えすぎかな。ああ、頭が回らない。
その時、お腹が再び盛大に鳴った。私は思わず顔を両手で覆う。
お腹がぎゅうぎゅうなって本当に恥ずかしい。
「……お食事とお召し替えをお持ちいたしましょう」
メイドさんは顔色に何も出すことはなく、無表情で下がっていった。
再びドアの外でガチャガチャと音がする。
鍵がかけられたのだ。
ぽすん、とベッドに後ろから倒れこむ。
せめて血流が少しでも脳に行きますように。
私はそのままうーんと考え込んだ。
***
私を誘拐した奴らは、ブリオスタ王国の剣たるシュモーヴ騎士団と名乗った。
つまり彼らの主が第三王子にせよ誰にせよ、国そのものからの差し金であると考えても間違いない。
騎士団はカイルさんが依頼でいない時を見計らってきたとしか思えない。
つまり、依頼そのものも国がわざとカイルさんを指名した?
あの結婚式の時、第三王子と一悶着あったせいなのか。
しかしそうだったらここに第三王子がいないのはおかしい気がする。
「そうだよ」
さっき、メイドさんは何て言った。
『貴女様は庶民としてお育ちですが、本来は尊きお方でいらっしゃると伺っております』
それに加えて『姫様』呼び。
『姫様』って一般的には『王様の娘』を指す。
なのに私をそう呼ぶって事は、王様が私を娘にしようとしている?
まさかね。王様とは面識も無いし。
あの第三王子も私を姉妹にする気は無いだろうし。むしろ側室とかにされそう……。
という事は、今のこの監禁状況は第三王子によるものじゃなくて、別口からの意向によるもの……?
そこまで考えた時。
メイドさんが良い匂いのするワゴンを引いて戻ってきた。
***
「ひとまずお召し替えを」
持って来られたドレスは、カイルさんに買ってもらったのと同じぐらい豪華だったけれども、裾がゲイナさんの花嫁衣裳に近い長さだった。
じゃらじゃらキラキラした装飾品もあったけれど、食事の時は着けたくないとお断りした。
「ではお食事の後で。姫様には相応しい装いというものがございます、何卒ご理解を」
言いながらメイドさんは私を椅子に座らせ、テキパキとナフキンを首に折り込んで膝の上に掛けてくれた。
それが済むと、ワゴンから食事をテーブルに置いて覆いを取っていく。
サラダ、柔らかそうな白パン、野菜たっぷりのスープ、肉のソース煮込みにデザート。
涎が垂れそうだった。実に美味そう。
しかしお腹の鳴り具合からしてこれだけでは足りないかも知れない。
監禁状態で腹が立つので思いっきり食べてやろうと決意する。
それに、腹が減っては戦は出来ぬと言うしね。
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