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25.王都観光

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 「リィナはどこもかしこも柔らかいな……」

 「……」

 情欲にまみれた声。私は羞恥に必死に耐えていた。

 「肌が滑らかで、手に吸い付くようだ」

 「うぅ……」

 カイルさんの手が体中を蛇の様に這う。
 いやらしい手つきで私の柔肉やわにくが揉まれていた。

 「――ここなんかは特に。食べてしまいたい位だ」

 「は、恥ずかしいから止めて……」

 蚊の鳴くような声で懇願するも、無情にも胸――ではなく、腹にくっついている浮輪・・がぐにっとつかまれてしまう。私は内心悲鳴を上げた。

 もう止めて欲しい。私のライフはもう0よ!

 そう、こっちの世界――というか、カイルさんだけかも知れないが――の触れ合いは色んな意味でハイレベル過ぎた。
 「えっ、そこなの!?」とか、「触る場所違う」とか色々思うことはあるけれど、口に出してしまったら色々と終わってしまう気がして私は黙るより他は無い。
 他にも、腕の振袖・・や太もも・ふくらはぎの贅肉ぜいにくも揉んだり掴まれたり触られたりしまくっている。
 ちなみに、胸や局部は全くのノータッチ。何故だ。

 「どうして? 恥ずかしい所なんかどこにも無い。君の体はこんなにも素晴らしいのに」

 二の腕の肉に後ろからかぷりと甘噛みされる。
 これはきっとカイルさんなりの愛撫なのだろう。この世界の住人からしたら、結構エッチなのかも知れない。

 しかし私にはどうしても……豚の太り具合を確認する『出荷前検査』にしか思えなかった。
 私の中のエロ・卑猥の気分メーターが、直角に近い角度で急降下フリーフォールしていく。

 「――好きだ、リィナ。早く君と結婚したい」

 首筋に顔を埋められ、彼の悩ましい吐息が熱くかかるももはや私はピクリともしなかった。
 いかんせんこの予想外過ぎる『スキンシップ』のインパクトが強すぎた。

 炎というものは一度燃え上がったら、後は新たな燃料を投下されない限り小さくなっていくだけ。
 この場合はキスしたのがピークであり、この触れ合いで新たな燃料どころか消火器をぶっ掛けられた状態である。

 燃え尽きたぜ……真っ白にな。

 良いさ良いさ、揉みたいなら好きなだけ揉むが良いさ。
 解放されるまで、私はずっとされるがままになっていたのであった。


 ちなみにその日、煤けた状態で帰って寝た私は。
 自分が豚になっていて、飼育員のカイルさんに食肉センターに出荷される夢を見た。


***


 その後も、休みの日には順調にカイルさんとデートを重ねていった。お互い、一緒にいる事が自然になってきた、慣れてきたと思う。
 そんなこんなで充実した毎日を過ごしていると、日々はあっという間に過ぎ去って行き。
 とうとう結婚式の日がやってきた。

 今日と明日、二日間のお休みを貰っている。
 前もって店主のストルゲさんにお願いしていたのだ。その代り、10連勤になったけれども。
 ロルスロイズに乗せてもらい、このブリオスタ王国の王都へ向かう。結婚式は明日の午前中である。

 招待客はやんごとない方もいらっしゃるそうで、王都でも有数の高級宿で着替えたりメイクアップしたりする手筈てはずになっているとの事。私達は勿論その宿に泊まる。
 そこから馬車で移動して、教会で挙式に参列する。その後は貸し切りレストランで披露宴を行うそうだ。

 なので、今日はチェックインした後時間が出来る。
 カイルさんと王都デートをするのが楽しみで仕方がない。ミニョンにも観光スポットを色々聞いてきたし。

 それに。

 流石に毎回一張羅ワンピースではアレなので、今日王都で着るために私は新しい服を購入していた。
 ややラッパになった筒袖タイプの、刺繍の入ったシンプルなワンピースである。お値段も良かったが、思い切って奮発した。
 カイルさんに編んだ髪紐の余りを使って、髪と一緒に編み込みをしたので、今日の私の髪型はラプンツェル風である。

 彼も私の贈った髪紐を使ってくれている。
 最初、勿体ないから使いたくないと言っていたのだけれど、使って貰う為に編んだのだからと泣き落とししたのだ。

 「自分の色を相手に送るのは愛の証だと聞いた。俺がリィナの恋人だっていう事を示す為だと。リィナの愛情が嬉しい」

 言いながら髪紐を愛おしそうに撫でるカイルさん。

 「リィナ、俺も愛の証を君に贈りたい」

 いやいやドレスでもう充分ですからと言おうとしたけど、もう頼んであると言われてしまった。

 宿のチェックインを済ませた後、ロビーのソファーでカイルさんに借りたガイドブックを広げる。
 観光スポットをどう回っていくか、お店にはどのタイミングで行くかを相談。

 コースが決まって宿を出ると、恥じらうカイルさんと仲良く手を繋いで王都を回る。
 やっぱりじろじろ見られたけど、大都会だし気にしない。

 観光は凄く楽しかった。

 愛の泉でコインを投げて祈ったり、大聖堂の荘厳なモザイクタイルに圧倒されたり。
 宮殿は流石に中には入れなかったけど、玉ねぎ屋根のエキゾチックで壮麗なお城だった。つくづくデジカメが無いのが残念。
 聖像広場には大きな銅像があって、それは初代の王様だとか。
 広場の近くには薬師さんが多く商売しているハーブ街というものがあり、そこで花を練りこんだ石鹸や化粧水、砂糖漬け等を購入した。
 使うのが凄く楽しみ。

 「次は大バザールを残すのみですね」

 聞くところによれば、大バザールは食品から家畜まで何でも売っているらしい。露店も多く、値切り交渉可能。私の狙いは下着とお米と食堂の皆へのお土産である。
 ハーブ街に漂う薬草の香りに別れを告げ、ウキウキしながら大バザールへ向かって歩いていると。

 「リィナへの贈り物を頼んだ店はこの近くだ」

 とカイルさん。なのでここで一旦寄り道。
 彼に連れられて行くと、狭い路地を通り抜けて、隠れ家的な家に辿り着いた。
 看板も何もない。本当に家としか思えなかった。

 「……ここ、お店なんですか?」

 少し不安になって聞いてみる。

 「ああ。看板こそは出してないが、知る人ぞ知る、というやつだ」

 カイルさんは家の扉をノックする。
 出てきた人は「いらっしゃいませ、イグレシア様。お待ちしておりました」と慇懃に挨拶をして招き入れてくれた。

 恐々と入った中は、意外にもちゃんとお店だった。
 サークレットとか、ネックレスやペンダント、ブレスレット等の装飾品が陳列されている。

 ただ、装飾品の店なら大きな通りにもあった。
 ここで陳列されているのも、他の店で見たようなのと大差ないように見える。何か違いがあるんだろうか。
 そんな事を考えながら眺めていると。

 「頼んだ品は出来ているか」

 「はい、こちらに」

 「リィナ、おいで」

 カイルさんに手招きをされる。
 彼が店員さんから受け取って私に見せてくれたのは、キラリと光る銀色の指輪だった。
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