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20.強引な和解

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 フィードさん達の事はカイルさんが請け負ってくれた。
 彼らがどうなるかはまだ分からないけど、少しだけ気持ちが楽になる。
 気持ちを切り替えて私は仕事に戻るのであった。


***


 夕方、ハッガイがやって来た。

 店内が騒がしくなり、イーリスが嬉しそうに真っ先に出迎えに行く。
 お仲間の二人も居る。
 というか、謝罪も終わったのにまた何しに来たんだろうか。

 私はその様子を横目で見ながらも落ち着いていた。何といってもカイルさんが居てくれているのである。
 ハッガイは店内を見渡しカイルさんに目を止めると、イーリスに断ってそちらへ足を向ける。
 私はさりげなくカイルさんの席近くに移動した。

 「先日、リィナに謝罪に来たそうだな。今度は何の用だ?」

 先ずはカイルさんからの先制。相手の出方を窺っているようだ。
 暫く見つめ合った後、ハッガイは深々と一礼をした。後ろに居たお仲間の二人が目を見合わせている。

 「白金級、いや、カイル・シャン・イグレシア殿。先日は無粋な事をして済まなかった」

 「……何の真似だ」

 カイルさんは少し戸惑っているようだったけれど、警戒は崩さない。
 お仲間の一人が肩を竦めた。

 「そう警戒してくれるな、白金級。確かに驚くのも分かる。俺だってハッガイが人に頭を下げるなんて初めて見たしな」

 「ああ、私も驚いている。リィナ嬢に白金級にこそ謝れと言われて心から反省したのだな」

 「あんたらは?」

 「俺はウーコン・ズゥ。んで、こっちはウーシン・ジャー。よろしくな」

 名乗った二人。
 カイルさんは頬杖を突いて口を歪めた。

 「成程、衝天しょうてん棍使こんつかいと澄明ちょうめいの僧侶か。S級パーティー『デュシス・カスス』のメンバーがそろったという訳だ」

 若干剣呑さを帯びた声に、ウーコンさんは困ったような表情でボリボリと後頭部を掻く。

 「あー、別にあんたと喧嘩しに来たんじゃないぞ」

 なぁ、ともう一人に同意を求める。ウーシンさんはああ、と頷いた。
 ハッガイも頷くと、

 「謝りに来た。リィナ嬢の言葉に自分が思い上がり誤っていた事に気が付き反省したのだ。白金級、一方的に犯罪者よと決めつけて、大変申し訳なかった」

 と言って再び深く頭を下げた。
 食堂内は静まり返って、皆が事の成り行きを見ている。カイルさんは深く息を吐いた。

 「良いだろう。謝罪は受け入れよう。用が済んだら――」

 「相席してもいいか? お詫びも兼ねて私に奢らせて欲しい。リィナ嬢、済まないがこの店で一番高い酒と料理を適当にお願いします」

 カイルさんが静かに言いかけた言葉を遮ったハッガイ……さんの声が食堂中に響く。
 高位冒険者達の仲直りの寸劇に、他のお客さん達から拍手が上がった。

 何だか強引だなぁ、この人。

 良いのかと思ってカイルさんを見ると、彼は片手で額を押さえ、目が合うと溜息を吐いてうんざりしたような顔で頷く。
 彼が良しとするなら仕方がない。
 「かしこまりました」と言って、私はきびすを返した。

 結局、ハッガイさん達は散々飲み食いし、更に他のお客さんにまでお酒を奢り、お店に大金を落として帰って行った。
 店主のストルゲさん大喜び。
 ウェイトレスの皆にも臨時ボーナスが出る事になり、ハッガイさんの株が上がったのであった。

 そしてそれからハッガイさん達が来ることもなく。
 何事もなく、デート当日の朝がやってきたのである。


***


 私は今日、張り切って早起きをして厨房に居た。
 あんまり市場でテイクアウトしてばかりなのもアレだし、お弁当を作ろうと思ったのだ。
 と言っても、ある材料で作れるものはサンドイッチと唐揚げとポテトフライ位だけれども。
 ちなみに飲み物と果物だけは市場で買って行く。

 厨房を片付けると、お弁当をバナナの葉みたいなやつ(ただしバナナと違い殺菌効果があるらしい)に包んでバスケットに入れる。お皿だと割れちゃうし、お弁当箱なんて持ってない。葉っぱは地球でいう使い捨ての食器として使われているのである。
 いつもの一張羅ワンピースに着替えて簡単にお化粧をして、財布やハンカチ、鍵――そうそう、カイルさんへ編んだ髪紐の包みも忘れずにバッグに仕舞い込んだ。
 バスケットを持って外に出ると、カイルさんが待っていてくれた。

 「おはようございます、カイルさん! 待ちました?」

 「おはよう、リィナ。いや、今来たばかりだが、それは?」

 良かった。真夜中じゃなくて約束の時間にちゃんと来てくれたようで一安心。
 今日のデートはピクニック。
 前もってお知らせしていたので、本日のカイルさんの服装はラフなシャツに丈夫そうなやや厚手のパンツと革のブーツ。剣帯をしていて、少し冒険者寄りの恰好だ。
 うん、美形は何着ても似合う。

 そんな事を思いながら、私はバスケットを掲げると少し揺らしてみせた。

 「お弁当。今日のデートは城壁の外へ出て森でピクニックでしょう? お昼に食べようと作ったんです」

 「て、手作り弁当だと……?」

 カイルさんは愕然としてバスケットを凝視した。

 「俺が女の子の手作り弁当を食べさせて貰える日が来るなんて……!」

 「もう、大げさですよ。大したもの作ってないですし」

 手作り弁当、手作り弁当、と呟きながらふるふる打ち震えているカイルさん。
 私が「これから何度でもそんな日が来ますから」と笑うと、潤んだ目で唇を噛みしめてうん、と頷いた。

 カイルさんがバスケットを持つと申し出てくれたのでお願いすると、案の定というか、バスケットが宙へ掻き消える。
 慌てる私に「収納の魔法なんだ、必要になったら出すから」と言うカイルさん。
 詳しく聞いてみると、何でも状態保存したまま収納出来るらしい。やっぱりアイテムボックスだったか。

 そんなこんなで市場で朝食と昼の飲み物と果物を買い、もはや恒例となりつつある公園へ。
 和気藹々わきあいあいと朝食を済ませると、城壁の門へと向かった。
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