上 下
105 / 105
【2】ちーとにゃんことカミを巡る奇しき不可思議大冒険!

12にゃー

しおりを挟む
 魔王国と、獣人部族連合国家クースゥーとの国境――転移でそこまで飛んだ私達は、早速入国審査を受けることとなった。
 スカーレットさんが用意してくれた書簡を魔王国の使者――かつてスカーレットさんと共に人間国を回っていた顔見知りの紫の瞳のお姉さんで、ヴァイオレットさんという――が、入国審査を受け付けている役人の人に書簡を渡す。
 役人の人はそれを持って一度引っ込み、暫くした後また姿を現した。

 「……確かに魔王国の正式な書簡で間違いありません。入国を許可致します。ただし、その後ろの、魔王国出身ではない方々――特に人間族の方達は、くれぐれも問題を起こされぬように」

 役人さんの視線に、ライオットは片眉を上げて溜息を吐く。

 「……分かったよ。カマエルの時もそうだったけど、人間て嫌われてるなぁ」

 「人間の王国に魔族が現れた場合も似たようなものですよ、ライオット」

 「分かってるよ、サミュ」

 そんなやり取りを横に、役人さんは今度はこちらに視線を向けた。

 「ところでそちらのケット・シーは……? 我が獣人部族連合国家には、ケット・シーもおりますが、そちらの出身ではないのですかな?」

 「違うにゃ。ニャンコは人間のイシュラエア王国にあるケット・シー保護区の方から来たのにゃ」

 本当は野良である私は、詐欺師のようなぼかした言い方で誤魔化す。
 役人さんは気付かなかったようで、「保護区……人間の国にそういうものがあるのですね」と頷いていた。

 「ケット・シーの方は人攫いに気を付けて下さい。嘆かわしい事ですが、獣人部族連合国家内でも人身売買目的でケット・シーを攫う犯罪者が居るのですから」

 最初、ライオット達人間に攫われた自国民だと思っていたそうだ。
 成程、先程のライオット達への忠告はそれもあったのかと理解。

 遠く離れた人間達の国々との交流は、船で細々と行われており。
 国内でかどわかされたケット・シー達ももそれに乗せられて売られて行くのだとか。

 「特にニャンコさんのような愛らしい見た目であれば尚更危険です。高値が付くでしょうから」

 と言われ、気を引き締める私。
 何という事だ、可愛いは罪……。

 「愛らしいと思って近付いたが最後。危険なのはむしろ誘拐犯の方では……」

 ティリオンがボソッと呟く。
 こんなに可愛いケット・シーに何を言うのだ。私はジト目で睨みつける。

 一言多いと思うが、まあその通りではあるけれども。
 私を誘拐して売り飛ばそう等と言う不埒な者は、外へ出て歩けない程のトラウマを植え付けてやる。


 そう。
 ざっと、こんな風に――

 「……ニャンコなら、大丈夫そうですね」

 目の前ではいきなり私を誘拐して馬に飛び乗り逃げようとした男が、全身の毛を脱毛された挙句――風の精霊王シルフィードの竜巻に高い高いされて服を切り裂かれきりもみ状態になった後、白目をむいてアガアガ言っていた。

 そんな光景を目の当たりにしてドン引きしている国境の役人さん。私への敬称が何時の間にか様に格上げされている。
 容赦ない仕打ちに恐怖を感じたのか、蒼白になって震えているカマエルが恐る恐る声を掛けて来た。

 「あ、あんた……本当は、ケット・シーの姿をした伝説の神竜アイギューンとかじゃなくて? 闇の神を呼んだ事と言い、規格外過ぎるんだけど……」

 「勿論違うにゃ、エンシェントドラゴンのアイギューンしゃんはお友達なのにゃ!」

 「と、友達……!?」

 カマエルはポカンとした。
 スィルが助け舟を出す。

 「神竜は死んでいたのだけれど、なりゆきでニャンコが生き返らせてしまったの。彼女は今、この世界でケット・シー達と戯れながらのんびり過ごされているわ」

 「ちょっと、何が起こったの!? どこから突っ込むべきか……脳内処理が追い付かないんだけど!」

 ガシガシと頭を掻くカマエルに、マリーシャが苦笑いを浮かべた。

 「まあまあ。時間もありますし、ゆっくり理解を深めて行けば良いと思いますよ」

 誘拐犯が連れて行かれた後、私達は晴れて獣人部族連合国家クースゥーへの入国を果たしたのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...