上 下
102 / 105
【2】ちーとにゃんことカミを巡る奇しき不可思議大冒険!

9にゃー

しおりを挟む
 かくかくしかじか。

 私達はスカーレットさんに判明した事を説明がてら、ハニエルが目の前で消えた事を語った。
 勿論、闇の精霊王の仕業であろうということも。

 「闇の精霊王……闇の精霊の愛し子がハニエル殿下を誘拐した犯人ってことなのね?」

 「さっきから気になってるんだが、『殿下』って?」

 ライオットが首を傾げて呟く。スカーレットさんがそちらを見た。

 「ああ、ハニエル殿は天空国家シエルの王族なのよ」

 「そして私は殿下の幼馴染で護衛よ! ったく、ただでさえ命を狙われているっていうのに……」

 頭をがしがしと掻きむしるカマエル。何と、そうだったのか。
 国にいると命を狙われるから、魔王国に出て来た。そこで誘拐されたとあってはカマエルの態度も頷ける。

 「闇の精霊王の仕業に見せかけて拉致したという可能性は無いのかしら?」

 カマエルの言葉に、スィルは首を振った。

 「私も風の精霊の愛し子だけれど、あの闇は見せかけとかそんなちゃちなものじゃなかったわ。ニャンコもシルフィードの言葉を聞いているし」

 「えぇ……あんた、ケット・シーの癖に精霊の言葉を聞ける程強い魔力持ってるの!? さっきの滑らか過ぎる神語と言い、色々おかしいわ、何者なのよ?」

 引き攣った顔をこちらに向けるカマエル。
 多分『神語』は『魔術言語』の事なのだろうが――それはさておき。
 私は腕を腰に当てて胸を反らせた。

 「聞いて驚けなのにゃ! 我こそはイシュラエア王国の英雄、ニャンコ=コネコその人なのにゃー!」

 「はぁ? イシュラエアって、人間共の国の一つよね? 何でケット・シーが人間の英雄なの……しかも自称するって……どうなの?」

 何者だって自分が聞いたくせに。鋭いツッコミの槍がプスプスと私の柔らかい心にブチ刺さって痛い。
 シャーッと威嚇しかけたところに追い打ちが来た。

 「カマエルとやら。これの言う事は気にするな。身が持たんぞ」

 「煩いにゃ、ティリオン。しょんなことより、ハニエルしゃんの事にゃ。
 ハニエルしゃんは、どうもお母しゃんを探している子を助けて問題の櫛を売っていたみたいなのにゃ。
 もしかすると、その子が闇の精霊の愛し子なんじゃないかにゃーって思うのにゃ」

 それを確かめる為に闇の大精霊を呼びたいのだと言うと、スカーレットさんが地下にある一室を貸してくれるとの事。
 カマエルは逡巡していたが、結局「わ、私も行くわよ!」とついて来た。

 皆でぞろぞろと連れ立ってその部屋へ行く。そこは石壁で囲まれた広い密室だった。
 地下が苦手なのか、「気味悪いわね……」とカマエル。他の皆も不安そうに周囲を見回している。
 確かに薄暗くて不気味だ。ただ、闇の精霊の召喚にはもってこいだと思う。

 「ほう、ちょっと人には言えない訓練場ってところか?」

 ティリオンの呟き。スカーレットさんは唇に人差し指を当てた。

 「うふふ……まあ、そこはご想像にお任せするわ。ここなら頑丈な結界もあるし、石壁も強化してあるから呼んでも大丈夫よ」

 そうか、なら早速。

 「おい待て」

 闇の精霊を呼ぼうと息を吸った時、ティリオンから待ったが入った。首輪を後ろからぐいっとされてぐぇっとなる。

 「ケホッ、何するにゃー!」

 「光の精霊で街で被害を出したばかりだろうが。呼ぶ前に俺達に守護を掛けろ」

 「……仕方がないにゃー」

 ティリオンの言い分も分からなくもないので、皆に闇から身を守るバリアを張る。
 私は改めて仕切り直したが、結果的にティリオンの判断は正解だったようだ。

 「『闇の精霊』……にゃ」

 そっと口にした筈なのに、案の定――

 「久しいのう、ニャンコ♪」

 ――尋常ではない気配と共に闇の女神アンシェラ様が顕現したのである。

 流石は神。相変わらず存在感の圧が凄い。
 闇の神を崇めるグルタニア帝国出身であるティリオンは「……やっぱり」と呟きながらアンシェラ様に礼拝している。魔王であるスカーレットさんも同様だ。
 それ以外のメンバーはアンシェラ様と頭を垂れて目を合わせないようにしていた。ただ、唯一カマエルだけが腰を抜かしてあわあわしている。

 「アンシェラしゃま、お久しぶりにゃー!」

 はいっと手を挙げて会釈しつつ、私はさっきから気になっている事があった。
 アンシェラ様の、その右手に捕まっている闇の精霊が活きの良い魚の如くビチビチと藻掻いているのだが。
 どうしよう、猫の本能がウズウズして――気が付くと、私は腰を落としてお尻を振り始めていた。

 「ほれほれ♪」

 アンシェラ様もノリノリで、かつての夢で見た猫じゃらしのように右手を動かしている。当然私はそれを目で追っていた。

 "ア、アンシェラ様ぁぁぁ、止めてくださいぃぃー!"

 闇の精霊王(多分)が悲鳴を上げる。
 結局本能に負けて猫パンチをくらわしてしまった、すまない闇の精霊王。

 "ごめんなさい……愛し子を許してあげて"

 ぐったりして観念した闇の精霊王は、萎れるように謝罪した。

 「こちらこそ殴ってごめんなさいにゃー……私はニャンコ=コネコ。闇の精霊王しゃんのお名前は?」

 "僕は……うっぷ、オプスラス。あの子……僕の愛し子モミジは未完成の櫛だって知らなくて。生活に困って売ったんだ"

 「にゃっ、モミジっていうのが愛し子なのかにゃ?」

 "うん。実はあの子のお父さんがチュゲ櫛の職人なんだけど……"

 闇の大精霊オプスラスは語った。
 愛し子であるモミジのチュゲ櫛職人の父親が、ある時チュヤバキの供給に問題があったと家を出て早半年。未だ戻っていないらしい。
 一家の大黒柱を失い、闇の愛し子とそのお母さんは困窮してしまった。

 "あの子はお金を稼ぐために櫛を売りたいって。だから人の多い場所へ連れて行ってって頼まれたんだ。
 ただ、子供で面倒に巻き込まれそうになったから、最初は僕が目くらましをして購買客の記憶を消してた"

 私は精霊の声を皆に伝える。スィルがこちらを見た。

 「……そう言う事だったの。でも、どうしてそのモミジちゃんじゃなく翼人のハニエルさんが櫛を売っていたの?」

 "あの人は心配して協力してくれていただけ。僕は光のあいつは苦手だけど、翼人は子供好きでいい人だったから"

 闇の大精霊の目くらましは、光の大精霊の愛し子であるハニエルには効かなかったそうだ。
 子供が明らかに高級な工芸品を売っているのを心配したハニエルがモミジに声を掛け――事情を知り大人の自分が代理で売る、と協力を申し出たらしい。
 ハニエルさんを攫ったのはそのモミジって子に間違いなかった。大方、私達に見つかってしまったことでハニエルさんが危ないとでも思ったのだろう。

 「しょうなの……しょれで、ハニエルしゃんは無事なのかにゃ?」

 "うん。モミジの家に無事で居――っ、モミジ!?"

 闇の大精霊は不意に何かに気付いたように宙を見詰め――姿を消す。
 次の瞬間には、私達も石壁の部屋から別の場所へと立っていた。
 恐らくアンシェラ様が転移術を使ってくれたのだろう、と思っていると。

 「……これは不味いの」

 眉を顰めて腕を組むアンシェラ様。
 目の前にはあちこちひっくり返されて物が散乱し、空き巣にでも入られたかのようなどこかの家の荒れた室内が広がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア
ファンタジー
孤児からストリートチルドレンとなり、その後も養父に殺害されかけたりと不幸な人生を歩んでいた天才錬金術師グラス=ディメリア。 若くして病魔に蝕まれ、死に抗おうと最後の研究を進める彼は、禁忌に触れたとして女神の代行者――神人から処刑を言い渡される。 抗うことさえ出来ずに断罪されたグラスだったが、女神アウローラから生前の錬金術による功績を讃えられ『転生』の機会を与えられた。 本来であれば全ての記憶を抹消し、新たな生命として生まれ変わるはずのグラスは、別の女神フォルトナの独断により、記憶を保有したまま転生させられる。 グラスが転生したのは、彼の死から三百年後。 赤ちゃん(♀)として生を受けたグラスは、両親によってリーフと名付けられ、新たな人生を歩むことになった。 これは幸福が何かを知らない孤独な錬金術師が、愛を知り、自らの手で幸福を掴むまでの物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

処理中です...