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【2】ちーとにゃんことカミを巡る奇しき不可思議大冒険!
7にゃー
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「『光を見た範囲の全ての人間の目の治療、及び私とスィル以外の二分間の記憶を忘れる記憶操作をする』にゃ……」
すると周囲の人々は首を傾げながらのろのろと立ち上がり、荷物を拾ったりして閃光を浴びる前のように再び歩き出した。先程まで見ていた日常が戻る。
内心ほっとしながら、私は改めて光の精霊王に向き直った。
「リュミーネしゃん、あの羽が生えた男の人のこと、知っているのかにゃ?」
"ああ、彼はハニエル。私の愛し子ですわ。今、ちょっとした人助けをしているんですの"
「にゃっ?」
人助け?
どういうことだろう。
首を傾げると、リュミーネはええと頷いた。
"お母様を探していらっしゃる小さな淑女の為に、商人の真似事をしているんですの"
「じゃあ、あの人は元々商人じゃなかったのかにゃ?」
そう問い返すとリュミーネは是と答える。そこへスィルが口を挟んできた。
「どうしたの、ニャンコ?」
「……という訳なのにゃ」
かくかくしかじか、私はスィルに説明をする。彼女は「何か事情があるようね。彼に話を訊くことは出来るかしら?」と言った。
リュミーネは、"彼に危害を加えない限りは"と条件を付ける。
"ハニエルは美しい殿方でしょう? 彼の美貌に引き付けられた女性達、彼を攫って売り飛ばそうとするならず者――そのような厄介事が寄ってくるのですわ。ですので私が目晦ましをかけて見つからないようにしていたのです"
ふむ……どの道話をする必要がありそうだ。
私とスィルは翼人の方へと向かう。
彼は先程の私の魔法が効いたのだろう、記憶を忘れて櫛を売るべく道行く人々に声を掛けていた。
「ちょっと羽のお兄しゃん、いいかにゃー?」
「不躾にすみません、少し話をお聞きしてもいいかしら?」
私とスィルが声を掛けると、その翼人ハニエルはぎょっとしたようにこちらを向いた。
「はっ? えっ、な、何で?」
リュミーネ! と叫ぶ翼人。しかし何も起こらない。
"ハニエル、彼女達は大丈夫ですわよ。貴方に危害を加えることはありませんわ"
光の精霊王リュミーネがハニエルの肩に座って囁く。ハニエルはこちらをまじまじと見た。
「そうにゃ。リュミーネの言うとおりにゃ。はじめまちて、わたちはケット・シーのニャンコにゃ。こっちはエルフのスィル!」
スィルがペコリと頭を下げる。ハニエルは息を大きく吐いた。
「君は光の精霊が見えるのですね……ハニエルです、どうも。話とは?」
「実は、貴方が売っている櫛のことなんですが……」
スィルが説明をする。
その櫛が希少なものであるらしいこと。本来は良い効能がある筈なのに、その櫛を買った者達の髪の毛が抜け落ちてしまったこと。しかしその櫛が偽物というにはあまりに本物に似すぎており、恐らくはチュヤバキの油が無いことが関係しているのではないかということ。
スィルが語るにつれ、ハニエルの表情は困ったようなそれになっていった。
「ハニエルさんの様子からすれば――そのことはご存じなかったようですね」
「ええ、まさかそんな事態になっているとは……しかし、私が売るのをやめればあの子は……」
「あの子って?」
スィルが問い返そうとした、その瞬間。
建物の影が蠢いたように見えたかと思いきや。ハニエルの姿が突如として闇に飲まれ、リュミーネごと忽然と消えてしまったのである。
一瞬の事だった。
「にゃっ!」
「きっ、消えた!?」
"ニャンコー、闇の精霊の移動術よー! 多分だけど闇の精霊王ー!"
興奮しているのか、風の精霊王シルフィードがびゅうびゅうと吹き荒れて叫んでいる。
な、何だってええええ!?
***
「……という訳なのにゃ」
買い物を何とか終えた私とスィルは、待ち合わせの場所で皆と合流した後、一旦魔王城へ戻ってあったことを話した。
話を聞き終わると、サミュエルが思案気に顎に手を当てている。
「……と言うことは、闇の精霊の愛し子がいた、ということですよね」
「多分な」
ライオットがそれに同意。マリーシャがこちらを見た。
「ニャンコ、その場で闇の精霊王を呼ばなかったの?」
うん、それも考えたのだけれど。気まずくなった私は顔をごしごしとやって誤魔化した。
「にゃー、既に光の精霊王を呼んでしまっていたのにゃー。混乱しちゃいけないと思ってその場では呼ばなかったのにゃ」
街中な上、一度やらかしたので流石に自重しました。
光の精霊王であれだけの被害だったので、闇の精霊王を呼ぶときは人気の無いところがいい。
すると周囲の人々は首を傾げながらのろのろと立ち上がり、荷物を拾ったりして閃光を浴びる前のように再び歩き出した。先程まで見ていた日常が戻る。
内心ほっとしながら、私は改めて光の精霊王に向き直った。
「リュミーネしゃん、あの羽が生えた男の人のこと、知っているのかにゃ?」
"ああ、彼はハニエル。私の愛し子ですわ。今、ちょっとした人助けをしているんですの"
「にゃっ?」
人助け?
どういうことだろう。
首を傾げると、リュミーネはええと頷いた。
"お母様を探していらっしゃる小さな淑女の為に、商人の真似事をしているんですの"
「じゃあ、あの人は元々商人じゃなかったのかにゃ?」
そう問い返すとリュミーネは是と答える。そこへスィルが口を挟んできた。
「どうしたの、ニャンコ?」
「……という訳なのにゃ」
かくかくしかじか、私はスィルに説明をする。彼女は「何か事情があるようね。彼に話を訊くことは出来るかしら?」と言った。
リュミーネは、"彼に危害を加えない限りは"と条件を付ける。
"ハニエルは美しい殿方でしょう? 彼の美貌に引き付けられた女性達、彼を攫って売り飛ばそうとするならず者――そのような厄介事が寄ってくるのですわ。ですので私が目晦ましをかけて見つからないようにしていたのです"
ふむ……どの道話をする必要がありそうだ。
私とスィルは翼人の方へと向かう。
彼は先程の私の魔法が効いたのだろう、記憶を忘れて櫛を売るべく道行く人々に声を掛けていた。
「ちょっと羽のお兄しゃん、いいかにゃー?」
「不躾にすみません、少し話をお聞きしてもいいかしら?」
私とスィルが声を掛けると、その翼人ハニエルはぎょっとしたようにこちらを向いた。
「はっ? えっ、な、何で?」
リュミーネ! と叫ぶ翼人。しかし何も起こらない。
"ハニエル、彼女達は大丈夫ですわよ。貴方に危害を加えることはありませんわ"
光の精霊王リュミーネがハニエルの肩に座って囁く。ハニエルはこちらをまじまじと見た。
「そうにゃ。リュミーネの言うとおりにゃ。はじめまちて、わたちはケット・シーのニャンコにゃ。こっちはエルフのスィル!」
スィルがペコリと頭を下げる。ハニエルは息を大きく吐いた。
「君は光の精霊が見えるのですね……ハニエルです、どうも。話とは?」
「実は、貴方が売っている櫛のことなんですが……」
スィルが説明をする。
その櫛が希少なものであるらしいこと。本来は良い効能がある筈なのに、その櫛を買った者達の髪の毛が抜け落ちてしまったこと。しかしその櫛が偽物というにはあまりに本物に似すぎており、恐らくはチュヤバキの油が無いことが関係しているのではないかということ。
スィルが語るにつれ、ハニエルの表情は困ったようなそれになっていった。
「ハニエルさんの様子からすれば――そのことはご存じなかったようですね」
「ええ、まさかそんな事態になっているとは……しかし、私が売るのをやめればあの子は……」
「あの子って?」
スィルが問い返そうとした、その瞬間。
建物の影が蠢いたように見えたかと思いきや。ハニエルの姿が突如として闇に飲まれ、リュミーネごと忽然と消えてしまったのである。
一瞬の事だった。
「にゃっ!」
「きっ、消えた!?」
"ニャンコー、闇の精霊の移動術よー! 多分だけど闇の精霊王ー!"
興奮しているのか、風の精霊王シルフィードがびゅうびゅうと吹き荒れて叫んでいる。
な、何だってええええ!?
***
「……という訳なのにゃ」
買い物を何とか終えた私とスィルは、待ち合わせの場所で皆と合流した後、一旦魔王城へ戻ってあったことを話した。
話を聞き終わると、サミュエルが思案気に顎に手を当てている。
「……と言うことは、闇の精霊の愛し子がいた、ということですよね」
「多分な」
ライオットがそれに同意。マリーシャがこちらを見た。
「ニャンコ、その場で闇の精霊王を呼ばなかったの?」
うん、それも考えたのだけれど。気まずくなった私は顔をごしごしとやって誤魔化した。
「にゃー、既に光の精霊王を呼んでしまっていたのにゃー。混乱しちゃいけないと思ってその場では呼ばなかったのにゃ」
街中な上、一度やらかしたので流石に自重しました。
光の精霊王であれだけの被害だったので、闇の精霊王を呼ぶときは人気の無いところがいい。
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