ちーとにゃんこの異世界日記

譚音アルン

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【2】ちーとにゃんことカミを巡る奇しき不可思議大冒険!

4にゃー

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 「けどそれ、本当に粗悪品なのか? 偽物にしては、物凄く精巧に作られているように見えるけど」

 いつの間にか近くに来ていたライオットがひょいっと覗き込んで来た。
 スカーレットさんはそこなのよね、と思案顔。

 「……一先ず献上品と見比べて見ましょうか」

 直ちに宝物庫管理官の人が呼ばれ、献上品の櫛が持ってこられた。
 彼は魔王国の宝物や献上品等について一通り暗記しているとの事で、説明を受ける。

 「……『チュゲの櫛』についての文献は少ないのですが、クースゥー南部辺境サッチュマ、霊木の一つであるチュゲの木の生産地で作られているそうです。
 製造過程は秘されておりますが、チュヤバキの油と共に献上された事から考えればこの油が何か関係があるものと思われます。
 チュヤバキ、というのは世界樹の亜種の木でございまして、クースゥー北部ゴトゥ島で生産され、寒い時期に赤い花が咲きます。この木の実を絞り出したものがチュヤバキの油、櫛のみならずこちらも大変貴重で高価なものでございます」

 ふんふんと頷きながら、献上品の櫛と件の櫛を見比べてみる。
 大臣の櫛には無かったが、献上品の櫛の裏には製作者のものと思われる銘の焼き印がされていた。

 「うーん……美術品の鑑定にはそこそこ自信があるけれど、同じ職人が作ったとしか思えないのよね。同じレベルの贋作者が居ないとするならば、だけれど。もっとも、そんな人が居ても態々このレベルで贋作を作るものかしら?」

 言われてみればそうだ、と私は不自然さを感じて首を傾げた。
 わたくしも陛下と同じ意見でございます、と宝物庫管理官の人も同意する。
 近衛のお姉さん達やライオット達にも意見を求めたが、同じ意見だった。

 結局、このままでは何も進展はない、という事で。

 「何か引っかかるわ。クースゥーに使者をやって、この櫛を作った職人について問い合わせましょう。情報の隠匿をされる可能性も考えて、内密に調査もした方が良いわね」

 「しょれ、わたちが行きたいにゃっ!」

 獣人の国には行ったことがない!

 私は勢い良くはいっと手を挙げて立候補した。


***


 「俺達も獣人の国には行った事がないな。皆はどうだ?」

 ライオットが後ろを振り返る。
 「面白そうだな。」とティリオン。
 「構いませんよ、スカーレットさんにはお世話になっていますし」とマリーシャが微笑めば、「そう言えば、お借りした本にあったのですが、クースゥーには火山があって温泉が湧いているとか」とサミュエル。
 それを聞いて、「温泉!? 行きたいわ、ライオット!」と、スィルが目を輝かせた。

 「決まりだな。スカーレットさん、任せてくれ」

 ライオットがニッと笑った。
 近衛のお姉さん達がざっと整列し、感謝の礼を取る。
 スカーレットさんもほっとしたような表情になり、私の頭を撫でてくれた。

 「ニャンコと皆さんだったら間違いないわね……ありがとう。では、調査の方をお願いします」

 「にゃっ、じゃあ早速――ぎにゃっ!!?」

 出掛けるにゃ、と言おうとした時。
 私の下半身ががしぃっと掴まれた。

 「そ、その前にニャンコ様! その奇跡のお力で私共の毛を何とかしていただけないでしょうか!!」

 アントム財務大臣が凄い形相で縋りついてきていた。
 あまりの迫力に手足の肉球にじっとりと汗が滲み出てくるのを感じる。

 「――おい、そいつに頼むのは止めておいた方がいいぞ」

 ティリオンが助け船を出してくれた――と思ったのも一瞬。
 どうも私が危険人物か何かのような感じで言われたので若干むっとする。

 「髪ふさふさのダークエルフ殿は黙っていて下さい、私達はもはやニャンコ様の起こす奇跡の力におすがりするしかないのです!」

 「……その奇跡の力とやらが問題なんだが」

 尚も大臣を引き留めるティリオンに、ここは私の実力をちゃんと見せつけておかないとという使命が働く。

 「わかったにゃっ!!」

 私だってやる時はやるのだ!
 快く承諾する。

 魔力量が豊富で魔術言語日本語もべらべらな私にとってはそんな事朝飯前なんだから!

 「ま、待て……!!!」

 ティリオンが制止をかけようとしたが――時すでに遅し。
 見るが良い、ティリオン!
 私の真の力を!

 「『ここに居るハゲの男達の毛が太く強くふっさふさになる』にゃ!!」

 ぼふん!

 「は?」

 「えっ?」

 「ん?」

 「……ああっ、お前!!?」

 「な、な……」

 呪文が効力を奏した一瞬の後。
 呆然としたのも束の間、お互いを見て驚愕し。

 「「「「ぎゃあああああああ――――――っっ!!!」」」」

 「にゃああああああ――――っ!?」

 私の魔術によって変貌を遂げた男達は最初とはまた逆のベクトルで悲鳴を上げた。
 ついでに彼らの変貌後の姿と思わぬ結果に仰天した私自身も。

 「だから言ったんだ……」

 ティリオンの疲れたような声。
 私はあまりの事態にプルプルと震えていた。
 サミュエルが優しく問いかける。

 「……ニャンコ、先程の魔術言語はどんな意味だったのです?」

 「しょんな、しょんな……毛が、毛が太く強くふっさふさになるようにって言ったのにゃ」

 「ニャンコ……人の肌というものは、一見毛が生えていないように見えますが、よく見ると産毛が生えているのですよ」

 マリーシャさんの言葉にハッとする。

 そうだった。

 化粧する時、顔の産毛とか剃るし、腕や足にもムダ毛が生えていた。
 『ここに居るハゲの男達の毛が太く強くふっさふさになる』、それが何を意味するか。

 そう。

 目の前に居るハゲの男達は、服を着た全身毛むくじゃらのヒバゴ……いや、何かに変貌していた。
 というか、髪の毛と同じような毛で肌という肌が覆い尽くされていた。
 魔族の特徴である角は兎も角、尖った耳まで全て。脇毛も鼻毛もボーボーのふっさふさである。

 ”やばいやばいやばい、ウケるんだけどー!!”

 ”あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! こんな魔族初めて見たぞ、新種か? 新種なのか?”

 ”気の毒ですじゃー、ぷっ……! これはヒドイですじゃ、ぷぷっ……!”

 ”ほほほほほ、面白い見世物ですわ♪”

 いつの間にか四大精霊達が揃って笑い転げている。

 「あなた達……魔族じゃなくてもはや何か別の生き物のようね」

 スカーレットさんが顔を引き攣らせながら残酷な感想を述べた。
 近衛のお姉さん達は必死に笑いを堪えている。

 その後。
 ニャンコ、落ち着いて! との励ましを皆から受けながら私は再び魔法をかける。

 「『髪の毛以外の毛が抜ける』にゃっ!」

 「「「「ぎゃー、髪以外全身ツルツルテンだー!!!」」」」

 再び失敗。

 「男として、毛が必要な場所は髪以外にもあるだろう……眉とか睫毛とか股間とか髭とか……」

 ライオット黙れ。


***


 結局。

 サミュエルが一度元の状態に戻しては、と提案。
 そこから髪の毛だけふさふさにするように魔法をかけて事無きを得た。
 大臣達は泣いてサミュエルに握手をして帰って行った。

 魔法をかけたのは私なのに納得いかない。
 むーっとしていると、スカーレットさんがしゃがんで視線を合わせ、よしよししてくれた。

 「ニャンコ、ありがとうね。落ち込まなくて良いのよ、失敗は成功の元。彼らは他の被害者の人を治すのに尊い犠牲となったの。街の人を治す時は、失敗しないでしょう?」

 「モチロンにゃ!」

 私は頷く。
 彼女の言葉に少し気が晴れた。
 馬鹿共には良い薬だったわ、と一瞬見せた氷のまなざしと黒い呟きにちょっとプルプルしたのはたぶん気のせい。
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