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【2】ちーとにゃんことカミを巡る奇しき不可思議大冒険!
1にゃー
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「ああ、どうしよう。お金がもうこれだけしか無いわ……」
食卓でお金を数えながら頭を抱える美しい母。
蝋燭に照らされるその横顔は苦悩を浮かべ、以前より少しやつれたように思えた。
それをモミジはピコピコと耳を動かしながらじっと物陰から見つめていたが、拳を握ってある決意をするとそっと踵を返した。
倉庫の扉をそっと開けるとそこは深い闇。しかし黒いお友達に頼むと視界が利くようになる。
懐に手をやり、お守りとして首から下げているそれを取り出して眺める。
美しい花の彫刻がされているそれは、名工と謳われた自慢の父が自分の為に作ってくれた逸品だ。
くるりと見上げると、同じように精巧に彫り上げられた芸術品とも呼べるものが数多陳列されている。
再び黒いお友達にお願いして、モミジは父の作ったそれらを次々に『内緒の袋』に納めて行った。
父が突然出て行ったのはかれこれ数か月も前の事。
それっきり、音沙汰も無く戻ってこない。
元々少なかった蓄えはそこを突き始め、大好きな母が困っている。
お金を得るためにはどうすればいいか、モミジにだって分かる。
大きな街で、お父さんの作ったものをピカピカのお金と交換すれば良い。
商品を売るお手伝いだってした事があるのだから。
「お願い、大きな街に行きたいの」
そう乞うと、黒いお友達は深い闇を以て彼女を包み込んでくれる。
一瞬の後には、モミジの姿は闇に溶け込んだように忽然と消え失せていた。
***
所変わって、魔族の王国レトナークのある平和な昼下がり。
その王であるスカーレット=ユクトマ=レトナークは、花咲き乱れる庭園の東屋で寛ぎながら書類に目を通していた。
かの人間の国イシュラエア王国でのドラゴン騒動――魔族が保護しているドラゴンが誘拐され、ケット・シー保護区の地下に捕えられていた事件がつい昨日の事の様である。
スカーレットがドラゴンを取り戻す為に協力してくれた、神と精霊達に愛された稀有なケット・シーであるニャンコ=コネコ。
イシュラエア王国で英雄に認められ、そのままケット・シー保護区で暮らすのかと思いきや。
ニャンコは先日仲間と共にやってきて、この国を拠点にあちこち色んな場所を旅して見て回っているのである。
ふとした折にスカーレットが国の経済状況について悩んでいた時に、そのニャンコが
「これからは人間の国と密かに交流して、ショウケンカクダイと魔族のイメージを変えることをしていった方が後々この国にとって良いんじゃないのかにゃー?」
と進言してきた。
ニャンコの仲間もそれには賛同していたので大臣達にも諮ってみると、魔術の基幹技術的な事を機密にした上で、最初は警戒されない様に獣人の王国経由からひっそりと始めてはということで一致した。
今彼女が読んでいるのは、試算された見込める利益関連の書類である。
数字ばかりで実に頭が痛い。
そろそろ休憩を入れようか、とスカーレットが書類をテーブルの上に伏せた、その時。
"スカーレット! なんか凄ぇ事になってんぞ!"
彼女を愛し子としている火の精霊サラマンダーが笑いを堪えるような表情ですっ飛んできた。
呆気に取られていると、廊下をバタバタと駆けてくる数人の足音。
「何事ですか!?」
控えていたスカーレットの取り巻き――近衛である女騎士達が万が一に備え武器を構えて誰何する。
駆け込んできた足音の主達はその声に東屋を見ると、
「へ、陛下ぁぁぁぁ!!」
何とも情けない声を上げてやってきて、入り口に倒れ込んだ。
「何があったのです、アントム財務大臣。その慌てよう、まさか魔王陛下に仇なす者が反乱でも起こしたのですか?」
まさか大した事ない事でそんな風に不作法に駆け込んで来たんじゃないでしょうね? との副音声付きで女騎士がじと目でへたりこんでいる彼らを見下ろす。
アントム財務大臣の他、マツィロ公爵、シャノー侯爵、ウスタイン政務官他数名……これといって仲が良いとも聞かない面々に首を傾げる。
ただ、共通している事と言えば。
「その帽子は何です? 陛下の御前です。脱ぎなさい」
そう、全員帽子を被っていた。
基本、目上の者と謁見する時は、礼儀として帽子を脱がねばならない。
しかし彼らは一様にそれだけは、と蒼褪めて首を振る。
「怪しい、もしやその帽子の中に凶器でも仕込んでいるのではあるまいな!」
女騎士達は一斉に武器の切っ先を彼らに向けた。
震えあがる大臣達。
槍を持った一人が帽子を引っ掛けて取ろうとするも、「どうかそれだけは……」と泣きそうな顔で手で押さえて必死に阻止している。
「まあ、待ちなさい」
スカーレットは何かがあると直観で思い、近衛達を宥めた。
「どうしたというの、あなた達。数日見なかったかと思うと帽子を被ってきて。それに、何故脱がないのかしら?」
「へ、陛下っ……! 一大事なのですぞ!」
「もう生きてはいられません!」
「こ、こんな非道が許されるのでしょうか!!」
アントム財務大臣の悲痛な声を皮切りに、次々と男達が涙を流して訴え始める。
「はぁ……?」
うざい。むさくるしい。そして、訳が分からない。
スカーレットがひとまず何があったのか詳しく説明させようとした、その時。
"きゃーっはっはっは! くらえー、シルフィード特製かまいたちー!"
幼女達が大勢笑う声が聞こえ、一陣の風が吹き抜けて行き。
そして、大臣達の帽子が一斉に細かな糸くずと化して地面にハラハラと崩れ落ちて行った。
食卓でお金を数えながら頭を抱える美しい母。
蝋燭に照らされるその横顔は苦悩を浮かべ、以前より少しやつれたように思えた。
それをモミジはピコピコと耳を動かしながらじっと物陰から見つめていたが、拳を握ってある決意をするとそっと踵を返した。
倉庫の扉をそっと開けるとそこは深い闇。しかし黒いお友達に頼むと視界が利くようになる。
懐に手をやり、お守りとして首から下げているそれを取り出して眺める。
美しい花の彫刻がされているそれは、名工と謳われた自慢の父が自分の為に作ってくれた逸品だ。
くるりと見上げると、同じように精巧に彫り上げられた芸術品とも呼べるものが数多陳列されている。
再び黒いお友達にお願いして、モミジは父の作ったそれらを次々に『内緒の袋』に納めて行った。
父が突然出て行ったのはかれこれ数か月も前の事。
それっきり、音沙汰も無く戻ってこない。
元々少なかった蓄えはそこを突き始め、大好きな母が困っている。
お金を得るためにはどうすればいいか、モミジにだって分かる。
大きな街で、お父さんの作ったものをピカピカのお金と交換すれば良い。
商品を売るお手伝いだってした事があるのだから。
「お願い、大きな街に行きたいの」
そう乞うと、黒いお友達は深い闇を以て彼女を包み込んでくれる。
一瞬の後には、モミジの姿は闇に溶け込んだように忽然と消え失せていた。
***
所変わって、魔族の王国レトナークのある平和な昼下がり。
その王であるスカーレット=ユクトマ=レトナークは、花咲き乱れる庭園の東屋で寛ぎながら書類に目を通していた。
かの人間の国イシュラエア王国でのドラゴン騒動――魔族が保護しているドラゴンが誘拐され、ケット・シー保護区の地下に捕えられていた事件がつい昨日の事の様である。
スカーレットがドラゴンを取り戻す為に協力してくれた、神と精霊達に愛された稀有なケット・シーであるニャンコ=コネコ。
イシュラエア王国で英雄に認められ、そのままケット・シー保護区で暮らすのかと思いきや。
ニャンコは先日仲間と共にやってきて、この国を拠点にあちこち色んな場所を旅して見て回っているのである。
ふとした折にスカーレットが国の経済状況について悩んでいた時に、そのニャンコが
「これからは人間の国と密かに交流して、ショウケンカクダイと魔族のイメージを変えることをしていった方が後々この国にとって良いんじゃないのかにゃー?」
と進言してきた。
ニャンコの仲間もそれには賛同していたので大臣達にも諮ってみると、魔術の基幹技術的な事を機密にした上で、最初は警戒されない様に獣人の王国経由からひっそりと始めてはということで一致した。
今彼女が読んでいるのは、試算された見込める利益関連の書類である。
数字ばかりで実に頭が痛い。
そろそろ休憩を入れようか、とスカーレットが書類をテーブルの上に伏せた、その時。
"スカーレット! なんか凄ぇ事になってんぞ!"
彼女を愛し子としている火の精霊サラマンダーが笑いを堪えるような表情ですっ飛んできた。
呆気に取られていると、廊下をバタバタと駆けてくる数人の足音。
「何事ですか!?」
控えていたスカーレットの取り巻き――近衛である女騎士達が万が一に備え武器を構えて誰何する。
駆け込んできた足音の主達はその声に東屋を見ると、
「へ、陛下ぁぁぁぁ!!」
何とも情けない声を上げてやってきて、入り口に倒れ込んだ。
「何があったのです、アントム財務大臣。その慌てよう、まさか魔王陛下に仇なす者が反乱でも起こしたのですか?」
まさか大した事ない事でそんな風に不作法に駆け込んで来たんじゃないでしょうね? との副音声付きで女騎士がじと目でへたりこんでいる彼らを見下ろす。
アントム財務大臣の他、マツィロ公爵、シャノー侯爵、ウスタイン政務官他数名……これといって仲が良いとも聞かない面々に首を傾げる。
ただ、共通している事と言えば。
「その帽子は何です? 陛下の御前です。脱ぎなさい」
そう、全員帽子を被っていた。
基本、目上の者と謁見する時は、礼儀として帽子を脱がねばならない。
しかし彼らは一様にそれだけは、と蒼褪めて首を振る。
「怪しい、もしやその帽子の中に凶器でも仕込んでいるのではあるまいな!」
女騎士達は一斉に武器の切っ先を彼らに向けた。
震えあがる大臣達。
槍を持った一人が帽子を引っ掛けて取ろうとするも、「どうかそれだけは……」と泣きそうな顔で手で押さえて必死に阻止している。
「まあ、待ちなさい」
スカーレットは何かがあると直観で思い、近衛達を宥めた。
「どうしたというの、あなた達。数日見なかったかと思うと帽子を被ってきて。それに、何故脱がないのかしら?」
「へ、陛下っ……! 一大事なのですぞ!」
「もう生きてはいられません!」
「こ、こんな非道が許されるのでしょうか!!」
アントム財務大臣の悲痛な声を皮切りに、次々と男達が涙を流して訴え始める。
「はぁ……?」
うざい。むさくるしい。そして、訳が分からない。
スカーレットがひとまず何があったのか詳しく説明させようとした、その時。
"きゃーっはっはっは! くらえー、シルフィード特製かまいたちー!"
幼女達が大勢笑う声が聞こえ、一陣の風が吹き抜けて行き。
そして、大臣達の帽子が一斉に細かな糸くずと化して地面にハラハラと崩れ落ちて行った。
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