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ケット・シー喫茶奮闘記
ケット・シー喫茶奮闘記0
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イシュラエア王国を揺るがした騒動も一段落し、平和になったある日。
ケット・シー達が増えた時に保護政策が打ち切りになる可能性も考慮して、神殿の保護施設は喫茶店事業を立ち上げた。
ケット・シー達が給仕するという、所謂ケット・シー喫茶である。
そこはお客さんがまったり世界樹のお茶を愉しみ、また定期的に神官のありがたい法話が聞ける憩いの場として――また、ケット・シー達がお客さんとして来る他種族の人々に慣れ社会性を育む場として作られた。
給仕させるにあたって、まずはケット・シー達に教育を施さなければならない。
何分保護区で外界に触れず接客礼儀も知らぬまま育ってきた彼ら――教育に当たるのはエアルベスである。ケット・シー保護区の施設長であり、世界樹の畑を管理する責任者でもある。宮廷のお茶作法も知っていた。
ケット・シーは二百を超える。
なので、幾つかの班に分かれてローテーションで教育することになった。
それぞれ三人一組にしてテーブルに座ってもらう。
テーブルにはティーカップが3つ、ティーポット、世界樹の葉茶、ティースプーン、布巾と茶卓、やかんに沸かされたお湯が置いてあった。
「世界樹の葉の、美味しい淹れ方を知ってる子は居ますか?」
「知ってるにゃ!」「にゃっ!」「はいにゃ!」ケット・シー達の手が次々と上がる。
さまざまな色と柄の肉球が一斉にこちらに向けられた。
「はい、ではタレミミ」
「アツいお湯にゃ! ショクインしゃんはお茶をいれるのにお湯を持ってくるにゃ。だからアツいお湯で入れるに決まってるにゃっ!」
世界樹の葉の畑作業の休憩時間は一日二回。
そこでケット・シー達にもお茶が振る舞われている。
職員は猫舌の彼らに配慮してぬるめにしていた筈なのだが…エアルベスは一抹の不安を覚えた。
「……では、ハチクロ」
「オチャのハをお水に入れてフットウさせるのにゃ」
タレミミをスルーしてハチクロに振ってみたが、不安的中、問題外である。
エアルベスはこめかみを押さえた。
「…………ミミ」
「まじゅ、お湯を少ししゃますのにゃっ! しょのあと、いれましゅのにゃ」
「正解です、ミミ。よく係りの人を見ていましたね」
エアルベスはほっとしてミミに感謝した。
ケット・シー達は皆、ミミを尊敬のまなざしで見つめる。
ミミは耳と尻尾をピン! と張って少し得意そうだ。
「ミミのいう通り、世界樹の葉は熱いお湯で淹れるとにがーくなります。ですから、まずお湯を少し冷まします」
エアルベスの前には3つのティーカップとティーポットが置いてあった。
彼女は左手にティーポットを持つと、カップに次々とお湯を注ぎ入れる。
説明がなされている間、職員達がやかんからケット・シー達のティーポットにお湯を入れて回った。
「茶葉が水を吸いますので八分目くらい入れてくださいね。こうやると、カップを温めると同時にお湯の温度を下げる事が出来ます。また、お湯の量もはかることが出来ますね。
みなさんのおててでカップを触ってみて、少し熱いけれどコップを持てる――それぐらいになるまで冷まします」
ケット・シー達はエアルベスに倣ってティーポットから3つのカップにお湯を注ぎ入れる。
注いですぐ触ったのか、「アツいにゃっ!」という悲鳴があちこちから聞こえてきた。
「冷めるまでは少し時間がかかりますよ。さて、その間に空いたポットにお茶の葉を入れましょう。一人当たり、この小さじ一杯分を使います。三人分ですと、三杯使いますね。ポットに入れます」
ケット・シー達がポットにお茶の葉を入れている間に、エアルベスは職員に目配せする。
部屋のドアが開くと、異世界からやってきたというお客さんが入ってきた。
ケット・シー達は歓声を上げる。
「今日はわざわざ異世界の国、日本からお客さんに来ていただいています。今教えている事を後でおさらいがてら、お茶をお出ししましょうね」
お客さんが用意されたテーブルに座ると、再び授業が再開した。
「もうカップに触れるぐらいになっている筈です。ティーポットに覚ましたお湯を全て入れましょう。そして、60秒程待ちます」
「にゃっ、俺たちは猫舌だからそれでもいいにゃ。けど、他の人たちは熱いのが好きだって言ったらどうするのにゃ?」
「良い質問ですね、タレミミ。確かに寒い時は熱いのを飲みたいものですし、ご年配の方は熱いのが良いという方もいらっしゃいます。
その時は、待つ時間は30秒ほどにします。すると苦くなりすぎないで熱く美味しいお茶になりますよ――さて、60秒経ちましたね。カップにお茶を注ぎ入れます。みなさん、私と同じように注いでくださいね」
エアルベスはティーポットからカップにお茶を注いでいく。
前に並んだカップに番号を付けるならば、1→2→3→3→2→1…というように少しずつ注いでいっている。
「こういう風にすることで、お茶の濃さを同じにすることが出来ます。最後の一滴まで綺麗に注ぎ切ってくださいね。」
注ぎ終わるとエアルベスはポットを置いた。
「さて、みなさんは喫茶店でお客様にお茶をお出ししなけばなりません。その際は、こうします」
カップの底を布巾の上に当てて、軽く水分を取り茶卓に乗せる。
「『美味しいお茶をどうぞ、召し上がってください』」
【おまけ】
張り切ったケット・シー達に次から次へとお茶を持ってこられ、断り切れなかった優しいお客さんはすっかり『茶腹』になってしまいました。
ケット・シー達が増えた時に保護政策が打ち切りになる可能性も考慮して、神殿の保護施設は喫茶店事業を立ち上げた。
ケット・シー達が給仕するという、所謂ケット・シー喫茶である。
そこはお客さんがまったり世界樹のお茶を愉しみ、また定期的に神官のありがたい法話が聞ける憩いの場として――また、ケット・シー達がお客さんとして来る他種族の人々に慣れ社会性を育む場として作られた。
給仕させるにあたって、まずはケット・シー達に教育を施さなければならない。
何分保護区で外界に触れず接客礼儀も知らぬまま育ってきた彼ら――教育に当たるのはエアルベスである。ケット・シー保護区の施設長であり、世界樹の畑を管理する責任者でもある。宮廷のお茶作法も知っていた。
ケット・シーは二百を超える。
なので、幾つかの班に分かれてローテーションで教育することになった。
それぞれ三人一組にしてテーブルに座ってもらう。
テーブルにはティーカップが3つ、ティーポット、世界樹の葉茶、ティースプーン、布巾と茶卓、やかんに沸かされたお湯が置いてあった。
「世界樹の葉の、美味しい淹れ方を知ってる子は居ますか?」
「知ってるにゃ!」「にゃっ!」「はいにゃ!」ケット・シー達の手が次々と上がる。
さまざまな色と柄の肉球が一斉にこちらに向けられた。
「はい、ではタレミミ」
「アツいお湯にゃ! ショクインしゃんはお茶をいれるのにお湯を持ってくるにゃ。だからアツいお湯で入れるに決まってるにゃっ!」
世界樹の葉の畑作業の休憩時間は一日二回。
そこでケット・シー達にもお茶が振る舞われている。
職員は猫舌の彼らに配慮してぬるめにしていた筈なのだが…エアルベスは一抹の不安を覚えた。
「……では、ハチクロ」
「オチャのハをお水に入れてフットウさせるのにゃ」
タレミミをスルーしてハチクロに振ってみたが、不安的中、問題外である。
エアルベスはこめかみを押さえた。
「…………ミミ」
「まじゅ、お湯を少ししゃますのにゃっ! しょのあと、いれましゅのにゃ」
「正解です、ミミ。よく係りの人を見ていましたね」
エアルベスはほっとしてミミに感謝した。
ケット・シー達は皆、ミミを尊敬のまなざしで見つめる。
ミミは耳と尻尾をピン! と張って少し得意そうだ。
「ミミのいう通り、世界樹の葉は熱いお湯で淹れるとにがーくなります。ですから、まずお湯を少し冷まします」
エアルベスの前には3つのティーカップとティーポットが置いてあった。
彼女は左手にティーポットを持つと、カップに次々とお湯を注ぎ入れる。
説明がなされている間、職員達がやかんからケット・シー達のティーポットにお湯を入れて回った。
「茶葉が水を吸いますので八分目くらい入れてくださいね。こうやると、カップを温めると同時にお湯の温度を下げる事が出来ます。また、お湯の量もはかることが出来ますね。
みなさんのおててでカップを触ってみて、少し熱いけれどコップを持てる――それぐらいになるまで冷まします」
ケット・シー達はエアルベスに倣ってティーポットから3つのカップにお湯を注ぎ入れる。
注いですぐ触ったのか、「アツいにゃっ!」という悲鳴があちこちから聞こえてきた。
「冷めるまでは少し時間がかかりますよ。さて、その間に空いたポットにお茶の葉を入れましょう。一人当たり、この小さじ一杯分を使います。三人分ですと、三杯使いますね。ポットに入れます」
ケット・シー達がポットにお茶の葉を入れている間に、エアルベスは職員に目配せする。
部屋のドアが開くと、異世界からやってきたというお客さんが入ってきた。
ケット・シー達は歓声を上げる。
「今日はわざわざ異世界の国、日本からお客さんに来ていただいています。今教えている事を後でおさらいがてら、お茶をお出ししましょうね」
お客さんが用意されたテーブルに座ると、再び授業が再開した。
「もうカップに触れるぐらいになっている筈です。ティーポットに覚ましたお湯を全て入れましょう。そして、60秒程待ちます」
「にゃっ、俺たちは猫舌だからそれでもいいにゃ。けど、他の人たちは熱いのが好きだって言ったらどうするのにゃ?」
「良い質問ですね、タレミミ。確かに寒い時は熱いのを飲みたいものですし、ご年配の方は熱いのが良いという方もいらっしゃいます。
その時は、待つ時間は30秒ほどにします。すると苦くなりすぎないで熱く美味しいお茶になりますよ――さて、60秒経ちましたね。カップにお茶を注ぎ入れます。みなさん、私と同じように注いでくださいね」
エアルベスはティーポットからカップにお茶を注いでいく。
前に並んだカップに番号を付けるならば、1→2→3→3→2→1…というように少しずつ注いでいっている。
「こういう風にすることで、お茶の濃さを同じにすることが出来ます。最後の一滴まで綺麗に注ぎ切ってくださいね。」
注ぎ終わるとエアルベスはポットを置いた。
「さて、みなさんは喫茶店でお客様にお茶をお出ししなけばなりません。その際は、こうします」
カップの底を布巾の上に当てて、軽く水分を取り茶卓に乗せる。
「『美味しいお茶をどうぞ、召し上がってください』」
【おまけ】
張り切ったケット・シー達に次から次へとお茶を持ってこられ、断り切れなかった優しいお客さんはすっかり『茶腹』になってしまいました。
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