上 下
88 / 105
ケット・シー喫茶奮闘記

ケット・シー喫茶奮闘記0

しおりを挟む
 イシュラエア王国を揺るがした騒動も一段落し、平和になったある日。
 ケット・シー達が増えた時に保護政策が打ち切りになる可能性も考慮して、神殿の保護施設は喫茶店事業を立ち上げた。
 ケット・シー達が給仕するという、所謂ケット・シー喫茶である。

 そこはお客さんがまったり世界樹のお茶を愉しみ、また定期的に神官のありがたい法話が聞ける憩いの場として――また、ケット・シー達がお客さんとして来る他種族の人々に慣れ社会性を育む場として作られた。

 給仕させるにあたって、まずはケット・シー達に教育を施さなければならない。
 何分保護区で外界に触れず接客礼儀も知らぬまま育ってきた彼ら――教育に当たるのはエアルベスである。ケット・シー保護区の施設長であり、世界樹の畑を管理する責任者でもある。宮廷のお茶作法も知っていた。

 ケット・シーは二百を超える。
 なので、幾つかの班に分かれてローテーションで教育することになった。

 それぞれ三人一組にしてテーブルに座ってもらう。
 テーブルにはティーカップが3つ、ティーポット、世界樹の葉茶、ティースプーン、布巾と茶卓、やかんに沸かされたお湯が置いてあった。

 「世界樹の葉の、美味しい淹れ方を知ってる子は居ますか?」

 「知ってるにゃ!」「にゃっ!」「はいにゃ!」ケット・シー達の手が次々と上がる。
 さまざまな色と柄の肉球が一斉にこちらに向けられた。

 「はい、ではタレミミ」

 「アツいお湯にゃ! ショクインしゃんはお茶をいれるのにお湯を持ってくるにゃ。だからアツいお湯で入れるに決まってるにゃっ!」

 世界樹の葉の畑作業の休憩時間は一日二回。
 そこでケット・シー達にもお茶が振る舞われている。
 職員は猫舌の彼らに配慮してぬるめにしていた筈なのだが…エアルベスは一抹の不安を覚えた。

 「……では、ハチクロ」

 「オチャのハをお水に入れてフットウさせるのにゃ」

 タレミミをスルーしてハチクロに振ってみたが、不安的中、問題外である。
 エアルベスはこめかみを押さえた。

 「…………ミミ」

 「まじゅ、お湯を少ししゃますのにゃっ! しょのあと、いれましゅのにゃ」

 「正解です、ミミ。よく係りの人を見ていましたね」

 エアルベスはほっとしてミミに感謝した。
 ケット・シー達は皆、ミミを尊敬のまなざしで見つめる。
 ミミは耳と尻尾をピン! と張って少し得意そうだ。

 「ミミのいう通り、世界樹の葉は熱いお湯で淹れるとにがーくなります。ですから、まずお湯を少し冷まします」

 エアルベスの前には3つのティーカップとティーポットが置いてあった。
 彼女は左手にティーポットを持つと、カップに次々とお湯を注ぎ入れる。
 説明がなされている間、職員達がやかんからケット・シー達のティーポットにお湯を入れて回った。

 「茶葉が水を吸いますので八分目くらい入れてくださいね。こうやると、カップを温めると同時にお湯の温度を下げる事が出来ます。また、お湯の量もはかることが出来ますね。
 みなさんのおててでカップを触ってみて、少し熱いけれどコップを持てる――それぐらいになるまで冷まします」

 ケット・シー達はエアルベスに倣ってティーポットから3つのカップにお湯を注ぎ入れる。
 注いですぐ触ったのか、「アツいにゃっ!」という悲鳴があちこちから聞こえてきた。

 「冷めるまでは少し時間がかかりますよ。さて、その間に空いたポットにお茶の葉を入れましょう。一人当たり、この小さじ一杯分を使います。三人分ですと、三杯使いますね。ポットに入れます」

 ケット・シー達がポットにお茶の葉を入れている間に、エアルベスは職員に目配せする。
 部屋のドアが開くと、異世界からやってきたというお客さんが入ってきた。
 ケット・シー達は歓声を上げる。

 「今日はわざわざ異世界の国、日本からお客さんに来ていただいています。今教えている事を後でおさらいがてら、お茶をお出ししましょうね」

 お客さんが用意されたテーブルに座ると、再び授業が再開した。

 「もうカップに触れるぐらいになっている筈です。ティーポットに覚ましたお湯を全て入れましょう。そして、60秒程待ちます」

 「にゃっ、俺たちは猫舌だからそれでもいいにゃ。けど、他の人たちは熱いのが好きだって言ったらどうするのにゃ?」

 「良い質問ですね、タレミミ。確かに寒い時は熱いのを飲みたいものですし、ご年配の方は熱いのが良いという方もいらっしゃいます。
 その時は、待つ時間は30秒ほどにします。すると苦くなりすぎないで熱く美味しいお茶になりますよ――さて、60秒経ちましたね。カップにお茶を注ぎ入れます。みなさん、私と同じように注いでくださいね」

 エアルベスはティーポットからカップにお茶を注いでいく。
 前に並んだカップに番号を付けるならば、1→2→3→3→2→1…というように少しずつ注いでいっている。

 「こういう風にすることで、お茶の濃さを同じにすることが出来ます。最後の一滴まで綺麗に注ぎ切ってくださいね。」

 注ぎ終わるとエアルベスはポットを置いた。

 「さて、みなさんは喫茶店でお客様にお茶をお出ししなけばなりません。その際は、こうします」

 カップの底を布巾の上に当てて、軽く水分を取り茶卓に乗せる。

 「『美味しいお茶をどうぞ、召し上がってください』」


【おまけ】
 張り切ったケット・シー達に次から次へとお茶を持ってこられ、断り切れなかった優しいお客さんはすっかり『茶腹』になってしまいました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...