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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

最終回にゃん

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 そして。
 ライオット達や私は、と言えば。


***


 大神殿、世界樹の畑の傍の広場。

 ケット・シー達はじっとしているエンシェントドラゴンに登ったりして遊んでいた。
 大きな尾を滑り台にしたり、上の子が下の子と手を振りあったり、みんな大はしゃぎである。

 "はあああああ、かわいい……"

 幸せそうな大きな溜息。
 アイギューンは地に体を横たわらせ、うっとりとしながらケット・シー達のアスレチックと化していた。

 敵もやっつけた事だし、後は事後処理だけという状況になって。
 ケット・シー達に囲まれてみたいとアイギューンに懇願され、私は怯える彼らをあの手この手で説得した。

 結局、恐怖心を和らげる呪文を唱える事で解消されたが。
 ただ、それも初めだけ必要だったようで、試しに先程呪文の効果を無くしてみたら大丈夫だった。
 流石呑気なケット・シー、慣れるのが早い。

 アイギューンが幸せに浸っている傍ら――私は王様と最高司祭の前に設けられた壇上で、『英雄』の称号を貰っていた。

 「――救国の功績を以て、汝を英雄と認定する!」

 王様が宣言すると、最高司祭が光の神に祈りを捧げる。「イーラよ、新たな英雄ニャンコ=コネコに光のお導きを!」
 それに合わせてその場に居た神殿兵士や職員さん、ケット・シー達が拍手したり剣を打ち鳴らしたりしてわっと喜んだ。


 ――英雄、ニャンコ=コネコ!

 ――ニャンコにゃんがエイユウにゃっ!

 ――英雄ニャンコ!

 ――すごいにゃっ、ところでエイユウって何にゃ?

 ――そんにゃこともちらないのかにゃ? とにかく凄いってことにゃ!

 ――英雄万歳!!


 皆に会釈をしながら壇上から降りる。
 そこにはハチクロ、タレミミ、ミミが会話していた。
 ちょっと気になったのでシルフィードに声を届けてもらう。

 「ニャンコにゃんはボクからどんどん遠くなっていくにゃ…」

 その肩をタレミミがしたり顔で叩く。

 「そんなもんにゃ、ハチクロ。おんにゃは捕まえていないと遠くまでいっちゃうイキモノなのにゃ」

 するとミミが晴れ晴れとした顔でうーんと伸びをした。

 「しゃてと! わたくちもニャンコに負けていりゃれにゃいにゃ!」

 「しょんにゃっ…ミミッ!?」

 タレミミが慌てる。
 お前さんもミミをしっかり捕まえていなさい。

 "ぶっくくくくくっ――面白いったらー!"

 彼らの会話にツボを突かれたらしいシルフィードの笑い声。
 私も吹き出しそうになりながら、ライオット達と交代した。

 私は諸事情から『英雄』になったわけだけれども、それは重要な役職というよりは名誉職だ。
 王国としては重要な職にケット・シーはつけられない、けれども首輪はつけておきたいのだろう。

 しかし彼らは違う。

 ライオットは下級とはいえ貴族なんだし。
 案の定、彼らはエルフの王族スィルを除いてそれぞれ重要な役職や地位を任じられていた。

 こうなってはもう冒険なんて――出来ないよねぇ。

 少し寂しい気持ちになりながら、自分は今後どうしようかと思案する。
 よく考えたら、ケット・シーの寿命も長くないだろう。
 別離はいつかは訪れる――遅かれ早かれ。

 アイギューンに着いて行こうかな?
 スカーレットさんを訪ねる?

 それも悪くないかも知れない。


***


 「獣人、ドワーフ達、そして人間共よ。ニャンコ=コネコをはじめ、ケット・シーに仇為す者はこのアイギューン、及びドラゴンの一族全てを敵に回すものと思え」

 ケット・シー達と存分に戯れて大満足したアイギューンは、そう言い残してジュゲムを伴い魔族領の方へ飛び去って行った。
 それをケット・シー達が「アイギューンしゃん、また遊びに来てちょーらいにゃっ」と言いながら一斉に手を振って見送っている。

 ――多分、また来るだろうな。

 エアルベスさんもそんな予感がしているのだろう、顔が引きつっていた。
 スカーレットさんが祖竜かのじょに仰天しないことを祈るばかりである。

 それから私は数日ケット・シー保護区で過ごした。
 英雄という肩書は大層なもののようで、碌でもなさそうな貴族達がひっきりなし面会に訪れたり、神殿騎士や兵士に嫌味を言われたりと色々やりにくい立場になってしまった。

 ――やはり、ここを出よう。

 そう思った次の日の早朝。

 呼び出したジュゲムに近づく私。
 しかし後ろから声を掛ける人がいた。

 「…ニャンコ、行ってしまうのですか?」

 「エアルベスしゃん…」

 「ケット・シー達の功績も認められましたし、彼らが増えて保護を必要としなくなった時の為にと皆で喫茶店事業を起こす事になりました。そこで、ニャンコも一緒に働きませんか?」

 それは楽しいだろう。でも…ここに居たら迷惑になってしまう。
 私はゆっくりと首を横に振った

 「……ありがとうにゃ。でも、決めたのにゃ」

 断ると、エアルベスさんは寂しそうに顔を伏せ――たかと思うと、再び上げて悪戯っぽく笑った。

 「そうですか…では、彼らも連れて行ってくれませんか?」

 えっ…?

 「待たせたな、ニャンコ! 堅苦しいのは性に合わないから、さっさと辞してきた。ニャンコに先を越されたけど、俺はそもそも将軍じゃなくて英雄になりたいんだよな!」

 家紋の入ったマントに精霊騎士様に貰った剣を引っさげたライオットが良い笑顔でサムズアップ。

 「水臭いわね、ニャンコったら! 私達は仲間って言ったでしょう?」

 エルフの装束で腰に手を当てて頬を膨らませるスィル。

 「私はニャンコに興味があります。宮廷魔術師の地位よりも、ニャンコと共にいる方が楽しそうですし」

 世界樹由来の装備を身に着けたサミュエルが優しく微笑む。

 「次期最高司祭なんて柄にあいませんから――私もお断りしてきちゃいました」

 シャラン、と錫杖を鳴らして、珍しくちろりと舌を出しておどけてみせるマリーシャ。

 「俺も忘れてもらっては困る――教皇の命令以上に俺はお前達と共に居たいと思う。だから仲間に入れろ」

 言い慣れていないセリフなのか、少し顔を赤らめているティリオン。

 旅装に身を包んだ彼らがそこに居た。

 「にゃっ…みんにゃ……」

 温かい涙が溢れる。
 また彼らと旅が出来るんだと思うと嬉しくてならない。

 "やっぱさ、ニャンコ一人の旅ってなんか違和感あるのよねー!"

 "同感ですじゃー、仲間って良いものなのですじゃー"

 "人も、ケット・シーも、心までは強くはなれませんわ。でも、共に居る者があれば支えあえますのよ"

 "俺達、奔走したんだぜー、色々とー…むぐぐっ"

 "そういうところがあん畜生だと言っているのですわ、このすかたん!"

 もしかして。
 彼らも見えない所で色々動いてくれていたのだろうか。
 内緒らしいので、訊かなかった事にしよう。
 でも――

 「ありがとうにゃっ!」

 涙を拭って明るく言うと、精霊王達が苦笑いを浮かべる。
 ライオットの掌が、頭の上にポンと乗った。

 「さ、ニャンコの元気も出た様だし? 騒がれない内にちゃっちゃと行こうぜ!」

 こうして、私達はジュゲムに乗って、再び旅に出た。
 下でケット・シー達や職員さん達も全員出て来ていて、「いってらっしゃいにゃー!」と手を振ってくれている。
 いつでも帰れる場所になってくれているのだ。
 再び溢れた涙を風に飛ばしながら私は手を振り返す。

 「ニャンコ、最初はどこへ行こうと思ってたんだ?」

 「魔族の国にゃっ――スカーレットしゃんのところっ!」

 "よしきた――このアラグノールの最高速力を見よおおおおっ!"

 ジュゲムは咆哮する。
 そして、大神殿の上を一周ぐるりと旋回すると、魔族の国の方角へと首を向けた。
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