上 下
76 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

76にゃん

しおりを挟む
 「ニャンコ…それはニャンコがドラゴンの僕になったという事ですか?」

 マリーシャが、今幻聴が聞こえたのかな、というような事を思ったのだろう、そういう表情で訊ねてくる。
 私は勢いよく頭をプルプルと横に振った。

 「違うにゃっ、そのギャクで、ドラゴンしゃんがわたちのシモベになったのにゃ!」

 「えええええええっっ!!?」

 冒険者達は余りの事への驚愕に声を上げた。

 「ニャ…ニャンコがドラゴンの主……」

 「信じられない……」

 「それは本当なのですか?」

 サミュエルは魔王の方を見た。
 スカーレットさんは間違いない、と頷く。

 「ニャンコは誰も言えなかったドラゴンの名前を言う事が出来ましたわ。私も、まさかニャンコが主になる程魔力が多いとは意外でしたが」

 沈黙。
 その場にいる全員、魔族も人間もエルフも問わず、皆の視線が私に集中した。

 「それだけじゃないにゃ…わたちは力持ちなのにゃっ!」

 言って、部屋にあった人一人よりも大きな壺を軽々と持ち上げる。

 「にゃっ、こんなの軽々なのにゃー!」

 調子に乗って、ほいっほいっと軽く投げて見せる。
 それがいけなかったのか、ある瞬間。
 つるり、と手が滑った。
 床に落ちた大きな壺が粉々に砕ける。

 「「「「「「あ」」」」」」

 冒険者達は茫然としていたが、魔族の人たちは一様に顔をムンクにする。
 スカーレットさんは、割れた壺の残骸をブルブルと震えながら指さしていた。

 「ニャ…ニャニャニャニャンコ……! それ、国家予算並みの価値があるのよ!?」

 えっ、国家予算並み!?
 それってかなり凄い大金じゃないか!
 私はさーっと青ざめた。ど、どうしよう…そうだ、チート能力で直せば!

 「にゃっ――『割れたこの壺は元通りになる』にゃっ!!!」

 呪文が働き、時間を巻き直すようにみるみる内に元の形に戻った壺。

 「ニャンコ……もしかして………」

 「……そうにゃ。わたちのマホウはジユウジザイなのにゃ――いにゃ、しょれよりも! 早く王国に行かなきゃいけないにゃっ!」

 私の指摘にはっと我に返った冒険者達。
 そこへスカーレットさんが声を掛けた。

 「皆さん、急ぐことでしょう。この魔王スカーレット=エクトマ=レトナークは人間の王国イシュラエアとの友諠を結ぶ事を望みます。王国の危機に向かうあなた方に、ニャンコと契約したドラゴンを一匹お貸ししましょう。
 本当はドラゴン部隊をお貸ししたかったのですが、それは反対にあなた方への疑惑を招き、また魔族と人間との戦争になりかねませんから」

 凛としてスカーレットさんが宣言する。

 「スカーレットさん――いや、魔王陛下。それで十分です。ご厚意、ありがとうございます」

 人間側を代表して、ライオット達は席を立つと膝をついて頭を垂れ、謝意を示した。
 ドラゴンに乗れば、いち早く転移可能ポイントまでたどり着き、王国に帰還出来る――それにドラゴンが一匹居れば戦力差も簡単に覆るだろう。

 しかしドラゴンが居ても戦に向かうのだ。
 戦は戦である――いつ死ぬか、分からない。
 最後の晩餐かも知れない食事。
 皆、味わって食べているようだった。

 朝食の後、慌ただしく出発の用意をする。
 昼前には私達は空の上を飛んでいた。

 大気を翼が切り裂く――ドラゴンは速い。
 魔素が薄めの空の高い場所を、シルフィードに風を和らげて貰いながらの飛行。
 速度を上げるために魔法を掛けたのもあって、私達は来た道を一日で越えた。
 グンマ―ルの広大な森を越えると、大地がボコボコとぬかるんでいるのが見える。
 ノームが転移の渦を作ってくれているのだ。

 "大神殿の結界の外、中庭に出るようにしてますじゃー!"

 "応! ニャンコ、我らは直接神殿の地に出る――行くぞ!"

 ノームが叫び、ジュゲムが吼える。
 私達はドラゴンごと転移の泥へと飛び込んで行った。


***


 イシュラエア王国王都サーディア。

 イシュラエア王はギュンター公爵のクーデターによって王宮を追われ、大神殿に逃げ込んでいた。
 大神殿は公爵の私兵ですっかり包囲されている。
 また、王都の門はすべて閉ざされていた。
 異変を察して諸侯が動いてくれればいいのだが、何時まで保つか。

 「私が諸侯に知らせましょう。ここから一番近く軍を動かせるのはマニュエル=ド=ヴェンネルヴィク伯爵様ですね」

 不安に苛まれる王族達にエアルベスが申し出る。
 イシュラエア王は彼女に対して自分の行いを恥じた。しかし今更恥じても今の自分には罪滅ぼしすら出来ないかも知れない。
 書簡をしたため、瓶に詰めて栓をする。エアルベスが水の精霊にそれを委ねた。

 「しかし私の今の力では、頑張っても百数十人の兵士を運ぶのが限度かも知れません…」

 力なく言うエアルベス。
 味方を増やしたとて、一日にそれだけしか増やせない。
 しかも包囲されている現状。味方になってくれる貴族から水を介して補給物資を貰うにも、準備というものがあるだろう。
 数百人分の物資。それに兵士も運ばなければならない。

 「――せめて、今一人転移術を使える精霊使いが居れば」

 脳裏に地の精霊使いティリオンを思い浮かべながら思う。
 彼女にとって心懸かりはまだある。
 愛するケット・シー達だ。いよいよとなったら命を削ってでも力を振り絞ってここから逃がさなくては。
 しかし逃がすにしても、身分上先ずは王を優先させなければならない。

 「エアルベスしゃん…」

 一人のケット・シーが心配そうに彼女の裾を引いた。
 それに笑顔を作って見せながら、エアルベスは心の中で血を吐くような想いで光の神に祈る。

 一刻も早く、援軍が来てくれますように――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...