ちーとにゃんこの異世界日記

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
70 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

70にゃん

しおりを挟む
 次の日の朝早く、私達はクスァーツ族の集落を旅立った――未だぐっすり眠っているヒュペルトを残して。
 新婚さんを邪魔してはいけない。
 魔族の国へ行くのに、途中までクマルが送ってくれることになった。

 「"魔族の国に行く前に、難所がある。大雪山ア・クァギと大河トーネだ。それを越えさえすれば魔族の国は近い"」

 クマルは棒で地面に地図らしきものを描きながら説明してくれる。

 「"ここが大雪山ア・クァギ、そしてしばらく行くと大河トーネ。トーネを渡ったところが魔族の国だ。雪山と大河がグンマ―ルと魔王の国を隔てている。私はア・クァギから流れているワー・タラセー川まで送ろう。ここまでくればア・クァギはどこからでも見れる事になるから迷わない"」

 「雪山か…相当高く険しいんだろうな。それに大河…どうやって渡るか」

 通訳すると、ライオットの言葉に皆考え込む。
 どうすればいいのか、いい案がないのかクマルにも訊いてみた。

 「"ア・クァギは直接越えるのではなく迂回するように行けば少し時間はかかるが問題ないはずだ。問題は、トーネだろう。
泳いで渡れぬ程大きな河だ。私も一度見た事はあるが、遠くに対岸がかすんで見えるんだ。雨季になると度々洪水を起こすから、河の民は移動して暮らす。今は雨季が終わった直後だから、誰もいないだろう"」

 河の民にも助けを求められない、つまりは八方塞がりである。
 ライオット達に伝えると、ますます悩みだした。
 いざとなったら私が魔法を使える事を明かすしかないかな、と覚悟をしかけていると…鈴からサラマンダーの声。

 "大丈夫だ、ニャンコ。トーネの畔に来たらスカーレットが迎えを寄越してくれるってよ!"

 ア・クァギまでは無理でも、トーネの対岸なら彼女の部下を差し向けてくれるらしい。
 その言葉にほっとしつつもそれをライオットらに言う訳にもいかず。
 結局冒険者達は、最悪上流まで回り込む覚悟をして、ひとまず行くだけ行ってみようという事になった。

 「ココ、ワー・タラセー。アレ、ア・クァギ。クマル、ココマデ」

 ワー・タラセー川まで到着するのに、一週間かかった。そこは、森を抜けたところの草原になっていて、見通しが良い。
 遠くに成程、日本アルプスみたいな山脈が鎮座しているのが見える。
 道中、クマルが森の中を行く色々なノウハウ――食べられる物、毒性の植物や薬草、危険な生き物の知識等――を教えてくれた。
 ライオット達も感動しながら未知の知識を吸収しており、最後にはクマルを尊敬すらし始めていた。
 ワー・タラセー川にあった大木の丸太橋を渡ると、ここでお別れになる。

 「"此処からは一本道だ。ア・クァギの、あの辺りを目指していくと谷になっている。そこなら何とか向こうへ抜けられるだろう。気を付けていけ"」

 しんみりしながらも私はそれを通訳した。
 皆も寂しそうに頷くと、胸に手を当ててクマルに敬礼を取る。

 「"クマル、たくさん、ありがとう!"」

 感謝と尊敬の意を伝えるため、ライオット達は一緒にいる間に覚えたクスァーツ族の言葉でお礼を言った。
 クマルは恥ずかしそうに微笑む。

 「"クマルしゃん、ありがとうにゃ!"」

 私もお礼を言うと、最後に抱きしめさせてくれ、と言われたので承諾した。
 彼女の名誉の為に敢えて多くは語らないが、恍惚として私をフルモッフするクマルは傍から見て相当な危険人物であったようだ。

 ワー・タラセーの水を汲み、沸かして水筒に詰めると出発である。
 クマルと別れ、私達は遠くに見える大雪山ア・クァギを目指して歩き出した。



***



 その魔狼は自由を満喫していた。

 かつて人間の住む地域に叔母を訪ねるべく旅をしていた時、ダークエルフに捕まってしまった。
 人間よりも遥かに強かった筈の自分が、である。
 何故、と考え愕然とした。
 そして、悟った――人間の土地は魔素が少なかったため、自分もまた弱体化していたのだ!
 それに気が付いても後の祭り。それ以来、彼は妙な術で縛られて従わされ続けていた。
 しかしそれも先日終わりを告げた。

 あの時、人間の女子供達を襲うようにけしかけられた瞬間。
 魔狼は生まれて初めての苦しみに襲われのたうち回った。
 嘔吐と体の絶不調に苛まれ、死すらも覚悟したが――しかし気が付くと自身を縛っていた妙な術も解かれ、この生まれ故郷に帰って来ていたのだ!

 ――もう二度と人間の土地などへは行くまい。

 魔狼はそう決意する。

 そんな彼は帰って来て魔素が体に再び満ちると、即行群れのボスに収まった。
 そして妻を作ったのだ。
 故郷にいる魔物では、魔狼は個体ではそう強くはない。
 だが、群れになると強者魔獅子すら倒す。そういう生き物だ。

 魔素の豊富な平和な故郷で群れを作り子を育て、平和に死ぬ――それが何よりの幸せだと魔狼は思う。

 今日も今日とて妻に捧げる獲物を探していると、群れのナンバーツーがやってきた。

 "ボス、ニンゲン、タクサン、キタ。ダークエルフ、イル"

 伝えられた事に魔狼のボスは目を光らせる。

 ――ダークエルフ。

 自分を捕まえた奴ではないかも知れないが、許せるものではない。
この故郷では負けない――殺し、喰らい、恨みを晴らさせてもらう。

 魔狼のボスは舌なめずりをしながら、ナンバーツーの先導に従って駆け出した。



【おまけ】

 一方、グンマ―ルでは――

 目が覚めては妻とさせられたレアズの顔をドアップにされて気絶を繰り返していたヒュペルト様。
 流石に慣れて来て、気絶しなくなったのは良かったが、腹も減ってきて限界になった。
 仕方なくプライドを捨てて芋を食べる事に。

 「うう~、まずいよ~」

 べそをかきながら食べる。
 腹がとりあえず膨れたら、冒険者達を探した。
 酋長に聞いて初めて置いてけぼりにされていたことを悟って真っ青になる。

 「あああ~、お、追いかけないと~!」

 慌ててクスァ―ツ集落を出ようとした矢先にレアズに捕獲される。

 「ムコ、ドコイク?」

 「離せ~! 僕は行かなきゃいけないんだ~!」

 「ソトイク、ムコ、ヨワイ、シヌ」

 レアズの言葉に我に返って暴れるのを止めるヒュペルト様。

 「……じゃあ連れてってよ~」

 気を取り直してレアズを護衛にしようと画策。
 しかしそんなヒュペルト様の期待はあっさりと裏切られた!

 「ムリ。ドコイク、シラナイ」

 「な、なんだって~!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...