上 下
64 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

64にゃん

しおりを挟む
 王都の大門まで来ると、先に来ていたライオット達が何やら揉めている。

 「シルフィード、声を届けてちょーらいにゃっ!」

 "はいはい~!"

 「……だからさっきから言ってるだろぉ~? 僕の護衛のスカーレットが魔王だったから、責任を取って魔族領への旅に同行してやるってさぁ~」

 「…あいつは…」

 ティリオンの嫌そうな声。
 そ、その間延びしたイラつく言葉づかいと股間剣は!

 「だからお前の同行は迷惑だとさっきから言っているだろう、ヒュペルト!」

 その頭のカール、旅に出るとは思えない豪奢な貴族服――ヒュペルト様だ!

 「そんな訳にはいかないんだよね~。僕も魔族領に行かないとギュンター公爵家があぶないんだよ~。お父様は魔王を雇っていたって陛下から詮議を受けてね~。疑いを晴らすために一人息子の僕が魔族領へ行くことになったのさ~」

 ライオットの迷惑そうなお断りにもめげず、ヒュペルト様はイケメンポーズを決めて憂い顔をしている。
 あれからちょっぴり心配していたけれど、元気そうで何よりだ。

 "実はあいつ、自分では気付いてないけどあのタヌキオヤジに贖罪の生贄にされてるのよー。後、オヤジに隙を見てニャンコを殺して鈴を奪うように言い含められてるから、気を付けた方がいいわー"

 ……何ですと?
 自分の実の息子でさえ差し出し利用するギュンター公爵恐るべし!
 旅の間、奴には近づかない方が良いってことか。

 「『ヒュペルトが私を殺そうとする時、必ず邪魔が入る事になる』にゃ」

 とりあえず呪文を働かせておく。転ばぬ先の杖だ。
 鈴は呪いがかかっているから大丈夫だろう。

 "わしらもおりますじゃー"
 "いざとなったら燃やしてやるから安心しろよ!"
 "水場では私にまかせて欲しいですわね"

 鈴から聞こえる精霊達の声に安心する。頼もしい限りである。

 「行くならお前ひとりで行け。俺達はお前と道連れになる気はさらさらない」

 「それがダメなんだよね~。ほら、これ。陛下の命令書~」

 すげなく言うライオットに、ヒュペルト様は胸元から小さな巻物を取り出して突きつけるように広げてみせた。
 ライオットはそれを読むと、悔しそうに顔を顰める。

 「ぐっ…」

 「『ヒュペルト=ギュンターは魔族領の調査団に同行し、彼らを援ける事を命ず』!? ――しかも、これ本物じゃない!」

 驚くスィルにヒュペルト様は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 「そういうことさ~。僕は戦えないからよろしく頼むよ~」

 しかも、いきなり戦力外宣言である!
 ティリオンとスィルが同時に頭痛を堪えるように片手を額に当てた。
 エルフ同士だからなのか、二人は結構似た者同士だと思う。


***


 同行者に移動術を使える者がいるというのは、長距離の移動を必要とする旅には大きなモチベーションであると思う。
 私達はティリオンの地の精霊術で一気に飛び、魔族領より一番近い人間の街に到着していた。

 ここは城壁で覆われた要塞都市と言った風情の場所だった。
 街を行きかう人々を見ても、屈強な人間ばかり。魔族領より一番近いという理由もあるのだろう。
 城壁の上に据え付けられた大きなカタパルトやバリスタが物々しい。

 今まで見てきた街や村とは雰囲気がだいぶ違っていた。
 こんな有様を見ていると、よほど準備周到でなければ命を落としかねない――皆の意見が一致したところで、まずは情報収集をするために酒場に入った。

 酒場にも屈強な男たちばかりが屯している。
 私はとりあえず一見獣人の子供に見えるよう、フードを深く被った。

 「凄いわね。A級、S級…高位冒険者ばかりだわ……」

 「……俺、生きて帰れるだろうか」

 スィルはA級だが、ライオット達はB級だそうだ。
 不安そうなライオットの肩を、サミュエルが握る。

 「純粋な戦う力だけが戦力ではありませんよ。私達の実力で、確実に生きて行って帰ってこれる方法を探さなければならない――そうですね」

 「私も彼の言う通りだと思います、ライオット」

 マリーシャが頷く。
 ライオットは少し表情を和らげた。

 「そうだな。サミュ、マリーシャ」

 「なんてむさくるしく下品な場所なんだ~。僕のいるべき場所じゃないよね~」

 …蛇足だが、ヒュペルト様は冒険者ですらないので無級である。

 ヒュペルト様の股間剣はこちらでも好評なようで、あちこちから嘲笑の声が聞こえてくる。
 しかも貴族服である。
 向こうのテーブルの方で素行の良くなさそうな男たちがこちらを見ながら立ち上がるのが見えた。
 ティリオンがさりげなく私の隣に立つ。

 「おう、ここらでは見ねぇ顔だな」

 と、不意に声を掛けられる。
 そちらを向くと、見上げるような厳つい筋肉隆々の大男がそこに居た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。

黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

処理中です...