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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

64にゃん

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 王都の大門まで来ると、先に来ていたライオット達が何やら揉めている。

 「シルフィード、声を届けてちょーらいにゃっ!」

 "はいはい~!"

 「……だからさっきから言ってるだろぉ~? 僕の護衛のスカーレットが魔王だったから、責任を取って魔族領への旅に同行してやるってさぁ~」

 「…あいつは…」

 ティリオンの嫌そうな声。
 そ、その間延びしたイラつく言葉づかいと股間剣は!

 「だからお前の同行は迷惑だとさっきから言っているだろう、ヒュペルト!」

 その頭のカール、旅に出るとは思えない豪奢な貴族服――ヒュペルト様だ!

 「そんな訳にはいかないんだよね~。僕も魔族領に行かないとギュンター公爵家があぶないんだよ~。お父様は魔王を雇っていたって陛下から詮議を受けてね~。疑いを晴らすために一人息子の僕が魔族領へ行くことになったのさ~」

 ライオットの迷惑そうなお断りにもめげず、ヒュペルト様はイケメンポーズを決めて憂い顔をしている。
 あれからちょっぴり心配していたけれど、元気そうで何よりだ。

 "実はあいつ、自分では気付いてないけどあのタヌキオヤジに贖罪の生贄にされてるのよー。後、オヤジに隙を見てニャンコを殺して鈴を奪うように言い含められてるから、気を付けた方がいいわー"

 ……何ですと?
 自分の実の息子でさえ差し出し利用するギュンター公爵恐るべし!
 旅の間、奴には近づかない方が良いってことか。

 「『ヒュペルトが私を殺そうとする時、必ず邪魔が入る事になる』にゃ」

 とりあえず呪文を働かせておく。転ばぬ先の杖だ。
 鈴は呪いがかかっているから大丈夫だろう。

 "わしらもおりますじゃー"
 "いざとなったら燃やしてやるから安心しろよ!"
 "水場では私にまかせて欲しいですわね"

 鈴から聞こえる精霊達の声に安心する。頼もしい限りである。

 「行くならお前ひとりで行け。俺達はお前と道連れになる気はさらさらない」

 「それがダメなんだよね~。ほら、これ。陛下の命令書~」

 すげなく言うライオットに、ヒュペルト様は胸元から小さな巻物を取り出して突きつけるように広げてみせた。
 ライオットはそれを読むと、悔しそうに顔を顰める。

 「ぐっ…」

 「『ヒュペルト=ギュンターは魔族領の調査団に同行し、彼らを援ける事を命ず』!? ――しかも、これ本物じゃない!」

 驚くスィルにヒュペルト様は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 「そういうことさ~。僕は戦えないからよろしく頼むよ~」

 しかも、いきなり戦力外宣言である!
 ティリオンとスィルが同時に頭痛を堪えるように片手を額に当てた。
 エルフ同士だからなのか、二人は結構似た者同士だと思う。


***


 同行者に移動術を使える者がいるというのは、長距離の移動を必要とする旅には大きなモチベーションであると思う。
 私達はティリオンの地の精霊術で一気に飛び、魔族領より一番近い人間の街に到着していた。

 ここは城壁で覆われた要塞都市と言った風情の場所だった。
 街を行きかう人々を見ても、屈強な人間ばかり。魔族領より一番近いという理由もあるのだろう。
 城壁の上に据え付けられた大きなカタパルトやバリスタが物々しい。

 今まで見てきた街や村とは雰囲気がだいぶ違っていた。
 こんな有様を見ていると、よほど準備周到でなければ命を落としかねない――皆の意見が一致したところで、まずは情報収集をするために酒場に入った。

 酒場にも屈強な男たちばかりが屯している。
 私はとりあえず一見獣人の子供に見えるよう、フードを深く被った。

 「凄いわね。A級、S級…高位冒険者ばかりだわ……」

 「……俺、生きて帰れるだろうか」

 スィルはA級だが、ライオット達はB級だそうだ。
 不安そうなライオットの肩を、サミュエルが握る。

 「純粋な戦う力だけが戦力ではありませんよ。私達の実力で、確実に生きて行って帰ってこれる方法を探さなければならない――そうですね」

 「私も彼の言う通りだと思います、ライオット」

 マリーシャが頷く。
 ライオットは少し表情を和らげた。

 「そうだな。サミュ、マリーシャ」

 「なんてむさくるしく下品な場所なんだ~。僕のいるべき場所じゃないよね~」

 …蛇足だが、ヒュペルト様は冒険者ですらないので無級である。

 ヒュペルト様の股間剣はこちらでも好評なようで、あちこちから嘲笑の声が聞こえてくる。
 しかも貴族服である。
 向こうのテーブルの方で素行の良くなさそうな男たちがこちらを見ながら立ち上がるのが見えた。
 ティリオンがさりげなく私の隣に立つ。

 「おう、ここらでは見ねぇ顔だな」

 と、不意に声を掛けられる。
 そちらを向くと、見上げるような厳つい筋肉隆々の大男がそこに居た。
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