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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

54にゃん

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 「ドラゴンが解き放たれてしまってからでは遅いのです。ドラゴンを返すために、私に協力していただけないでしょうか」

 スカーレットはライオット達の表情をうかがうように切り出した。

 「協力? ――具体的にどういったことです。」

 「私にはケット・シー保護区を訪ねる正当な理由がありません。しかしニャンコを保護されたあなた方と一緒なら、面会という理由で入れてもらえるでしょう。そうすれば水の精霊使いエアルベスと話が出来ます。
 ギュンター公爵には警戒されておりますし、正直あなた方に頼れなければ夜中にでも忍び込むしか手段はありません。出来れば穏便に済ませたいのですが――」

 彼女の説明にスィルとサミュエルは剣士を見る。
 ライオットは分かった、と頷いた。

 「良いだろう。俺達としてもドラゴンは元の場所に返した方がいいと思う。それに、マリーシャの情報も早く知りたいところだ。今から保護区へ行くぞ!」


***


 あわ、あわわ――早く隠れないと!
 いや、姿を隠せばいいか!

 「『わたちの姿が人からは見えなくなる』にゃ…」

 呪文にほんごを唱えても不安だったので、私は更に物陰に隠れた。
 足音はどんどん大きくなる。
 じっとしていると、三つの人影が現れた。

 中央にいる一人はヒュペルトのようなカールの髪型であり、恰幅の良い中年男だった。
 装飾の施された貴族然とした服を着ている。
 もう一人は漆黒の神官服で全身を覆っており、長い杖を持っていた。あの闇の神官ロドリゲスと同じ格好だ。
 最後の一人は筋肉隆々としたいかつい男で、剣を腰に帯び皮と金属で作られた軽装鎧を着ていた。恐らく護衛だろう。

 「旦那様、この場所は滑り崩れやすくなっております。足元にご注意を。」

 護衛が慇懃に言う。
 貴族の中年男は頷いて歩を進め、ドラゴンが見える壁の割れ目に向かった。

 「分かっておる。ところで、あれがエアルベスが捕えてきたドラゴンか。獰猛な顔付きをしておるが、随分と大人しくしておるのう」

 エアルベスさん?

 "こいつがドラゴンを捕えてくるように命じたギュンター公爵ですわ"

 ウンディーネの言葉にやっぱり、と思う。
 ヒュペルト様を太らせて年を取らせたらそっくりなんだもん――ぷぷぷ、彼も将来こうなるのかー。
 私は必死に笑いを堪える。

 「魔素が吸い上げられ、足りぬのでございましょう。ドラゴンは火属性、この水の牢獄では力も出ますまい」

 闇の神官と思われる男が言う。ギュンター公爵は不満そうだ。

 「しかしそれではいざという時役に立たぬのではないか? 解き放った時暴れる力がなければ意味がなかろう。新しいのに入れ替えるよう言うべきか」

 「いえ、新しいのがしかばねに制御しきれぬと困りますゆえ、こやつを使うのが宜しいかと。それにしても力が出ず、我らが餌を与えなければ死する定めであるのに屈しないのは流石ドラゴンというべきか。あれは未だ人を近づけませぬ」

 「慣らせぬものは仕方がない。屍の方が確実性がある故そちらの方が安心だ。準備も整った――後はこやつを解放するだけよ」

 「はい。ここに餌となる魔物を大量に入れ、深夜を待って世界樹畑の結界を解き放ちましょう。魔素を多く含む生餌があり、また結界外の膨大な魔素が流れ込めばこやつとて動き出すでしょうから」

 「――楽しみだのう。全てが順調にこの手の内で踊っておるわ」

 「本当に。我らには追い風が吹いております。教皇がのこのこやって来たのは絶好の好機――逃してはなりませぬ」

 「しかし何故急に単身やってきたのか?」

 「我らの賛同者がおりますゆえ、理由はじきに知れましょう」

 三人は笑いながらもと来た道を遠ざかって行った。
 こいつら、今晩とんでもない事を仕出かそうとしている。
 止めなきゃ――王都にはエアルベスさんやケット・シー達、ライオット達…大切な人たちがいる。

 ――ドラゴンに街で暴れさせてはいけない!

 私は足音がすっかり聞こえなくなるまで、待った。
 そして、

 「『先程ここに居たギュンター公爵と闇の神官は明日の朝まで力ある限り強制社交ダンスする』にゃ!」

 唱える。
 護衛の人は二人を回収する要員として放っておいた。
 食中毒を選ばなかったのは水に吐かれたりすると拡散して嫌だからだ。
 これで今日の深夜はヘトヘト、筋肉痛になって行動を起こせなくなる筈だ!

 "きゃはははっ、面白そー♪ 見てくるわー!"

 シルフィードがくるくると舞いながら飛んで行った。
 踊らせているつもりが踊らされている。
 公爵達も楽しく踊れてダイエットになるからいいだろう。
 私ってばなんて優しいんだ!

 しばし奴らの消えた方向を見ていたが、気を取り直してドラゴンの方向を振り向く。

 "――ケット・シーか"

 不意に。
 重低音の、幾層にも響くような声が私の体にビリビリとした刺激をもたらす。
 キョロキョロとしていると、ノームがツンツンして指さした。
 地底湖のドラゴンが、ゆっくりと首をもたげる。

 「――にゃっ!! もしかして、ドラゴンしゃんかにゃ?」

 ドキッと驚いて、声が少し裏返ってしまった。
 ドラゴンがその瞼を上げると、綺麗な黄色い宝石のような瞳が現れた。

 "いかにも。精霊の言葉を解する選ばれし魔族でも我が言葉を解する程の魔力持ちはなかなか居らぬ――それをお前のようなケット・シーが――珍しきこともあるものだ。何故このような所にいる"

 「えっと、魔族のスカーレットしゃんに頼まれて、ドラゴンしゃんを探しに来たのにゃ!」

 "スカーレット…ああ、彼女か。我を早くこの水の牢獄から出してもらえるとありがたい。正直、心が折れかけている――火が、恋しいのだ"

 ドラゴンのトパーズの双眸が濁り、意気消沈したように瞼に再び覆われた。

 "ニャンコ、あいつの傍に行けないか?"

 何とか元気付けられないかな、と思っていると、サラマンダーがとんでもない事を言い出した。
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