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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!
53にゃん
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「何故あなたがここにいるのかしら、スカーレットさん」
声を抑えていたとは言え、話し合いの内容が内容である。
スィルが警戒の眼差しを向けた。
「あんた…ギュンター公爵の命でヒュペルトの目付役をしてたんだよな。スィルの言う通り、何故ここにいるんだ?」
「火の精霊では移動術は使えませんよね――どうやって、ここへ」
ライオットとサミュエルも問いただす。
スカーレットがギュンター公爵の忠実な部下なら――彼らは手に汗を握る。
場の緊張が一気に高まった。
スカーレットはその空気を吹き飛ばすようにふっと息を吐く。
「私はギュンター公爵に雇われてはいますが、それだけの関係ですわ。あなた方の話していた事を報告する気はありません。それよりも、お話があって声をかけさせて頂きました」
「――話?」
サミュエルの問いにスカーレットははい、と頷く。
「実は独自のルートで知り得たのですが、ギュンター公爵は水の精霊使いに命じて生きたドラゴンをケット・シー保護区の地下に閉じ込めているそうです」
「!! ――それ、本当なのか?」
「あのケット・シー保護区で世界樹の栽培がされているのは御存知でしょうか」
「ええ、つい昨日見学してきたわ」
スカーレットは世界樹栽培のからくりを語る。
ケット・シー保護区の責任者エアルベスは水の精霊使いであること。
世界樹の葉栽培は彼女に支えられている産業であり、魔素を多く含んだ水を魔族領から転移させて来てやっと可能になっていること。
施設の筆頭パトロンであるギュンター公爵が、ドラゴンを畑の地下に広がる洞窟に捕えてその魔素を利用するように王の名の下にエアルベスに命じたこと。
「それを俺達に話してどうしようというんだ?」
「ドラゴンは力が全て――ドラゴン以上に強い種族なら兎も角、弱い人間には服従しない生き物です。それが万が一にもこの王都で解き放たれればドラゴンは怒り狂うまま街を破壊しつくすでしょう。
そうなる前に、エアルベスさんを説得してドラゴンを送り返してもらわねばなりません。それに――あの子が住むケット・シー保護区にそんな危険な生き物がいるというのは問題だとは思いませんか?」
冒険者達は目を瞠った。
「気づいていたのか……」
ニャンコがケット・シーだという事を。
「ええ、ケット・シーは特徴的な言葉遣いをしますから。一見、小さな猫獣人のお嬢さんがケット・シーの真似事をしているように思われるでしょうが、知る人が見ればそれは不自然である事ぐらいすぐ気が付きますわ」
スカーレットは微笑んだ。
「闇の過激派の神官はグルタニア帝国を追放され、居場所を必要としています。ギュンター公爵はそんな彼らを保護しているとなれば、公爵はドラゴンを利用し、更なる権力拡大を狙っているのでしょう。
ドラゴンを解き放ち街を破壊させ、闇の禁術で操った屍ドラゴンをもって退治する。『王国の危機』を救った手柄はギュンター公爵のものとなり、闇の過激派もまたその功績により表舞台へ堂々と出て来られます。彼らは禁術の見返りに庇護を約束され、そうなれば王でさえ彼を恐れるようになりますわ。
屍ドラゴンを操るのは術者の負担が大き過ぎるので限られた時間内限定と考えられますから、クーデターはあわよくば、と考えている程度でしょうか」
「ドラゴンを捕える事に王命が下されていたのだとすれば……」
サミュエルは思考を巡らした――王もこの事はきっと御存知の筈。
ならば王はグルタニア帝国との戦争を――王国の版図拡大を望んでいる可能性が高い。
禁術で屍ドラゴンという強大な兵器を操れるならば尚更野望は燃え上がるだろう。
王はギュンター公爵の野心にも勿論気付いていて、騙されたふりをして上手く利用しながら妙なことを仕出かさないように動向を常に探っていると考えるのが自然だ。
禁術を使用する汚れ仕事を公爵や闇の過激派が進んでやってくれる――たとえバレてイーラ教から非難されても公爵が勝手にやったと切り捨てれば済むこと。
また、グルタニア帝国との戦争の矢面に彼らを立たせれば、いざ戦況が不利になっても騙された善人として申し開きは可能だ。
(――もしかしたら、彼女は王の影かも知れません)
ライオットの耳に口を寄せて囁く。
王の影とは王の手足となり、貴族等の不穏な動きを探っては報告する隠密部隊である。
スカーレットがそれである可能性は非常に高い。
生きたドラゴンは制御出来ず、魔素ぐらいしか利用価値はない。
それどころか何時解き放たれてしまうか分からない代物である。
王は、ギュンター公爵に『王国の危機』を自作自演をされぬように先手を打とうとするだろう。
スカーレットはドラゴンを返すように動いている。
という事は、屍ドラゴンの準備が整ったという事か。
生きたドラゴンを返してしまえば、後は闇の過激派を唆して屍ドラゴンを帝国との国境に送るよう仕向けるだけだ。
サミュエルは王国の深い闇に肌が粟立つような思いを抱いた。
声を抑えていたとは言え、話し合いの内容が内容である。
スィルが警戒の眼差しを向けた。
「あんた…ギュンター公爵の命でヒュペルトの目付役をしてたんだよな。スィルの言う通り、何故ここにいるんだ?」
「火の精霊では移動術は使えませんよね――どうやって、ここへ」
ライオットとサミュエルも問いただす。
スカーレットがギュンター公爵の忠実な部下なら――彼らは手に汗を握る。
場の緊張が一気に高まった。
スカーレットはその空気を吹き飛ばすようにふっと息を吐く。
「私はギュンター公爵に雇われてはいますが、それだけの関係ですわ。あなた方の話していた事を報告する気はありません。それよりも、お話があって声をかけさせて頂きました」
「――話?」
サミュエルの問いにスカーレットははい、と頷く。
「実は独自のルートで知り得たのですが、ギュンター公爵は水の精霊使いに命じて生きたドラゴンをケット・シー保護区の地下に閉じ込めているそうです」
「!! ――それ、本当なのか?」
「あのケット・シー保護区で世界樹の栽培がされているのは御存知でしょうか」
「ええ、つい昨日見学してきたわ」
スカーレットは世界樹栽培のからくりを語る。
ケット・シー保護区の責任者エアルベスは水の精霊使いであること。
世界樹の葉栽培は彼女に支えられている産業であり、魔素を多く含んだ水を魔族領から転移させて来てやっと可能になっていること。
施設の筆頭パトロンであるギュンター公爵が、ドラゴンを畑の地下に広がる洞窟に捕えてその魔素を利用するように王の名の下にエアルベスに命じたこと。
「それを俺達に話してどうしようというんだ?」
「ドラゴンは力が全て――ドラゴン以上に強い種族なら兎も角、弱い人間には服従しない生き物です。それが万が一にもこの王都で解き放たれればドラゴンは怒り狂うまま街を破壊しつくすでしょう。
そうなる前に、エアルベスさんを説得してドラゴンを送り返してもらわねばなりません。それに――あの子が住むケット・シー保護区にそんな危険な生き物がいるというのは問題だとは思いませんか?」
冒険者達は目を瞠った。
「気づいていたのか……」
ニャンコがケット・シーだという事を。
「ええ、ケット・シーは特徴的な言葉遣いをしますから。一見、小さな猫獣人のお嬢さんがケット・シーの真似事をしているように思われるでしょうが、知る人が見ればそれは不自然である事ぐらいすぐ気が付きますわ」
スカーレットは微笑んだ。
「闇の過激派の神官はグルタニア帝国を追放され、居場所を必要としています。ギュンター公爵はそんな彼らを保護しているとなれば、公爵はドラゴンを利用し、更なる権力拡大を狙っているのでしょう。
ドラゴンを解き放ち街を破壊させ、闇の禁術で操った屍ドラゴンをもって退治する。『王国の危機』を救った手柄はギュンター公爵のものとなり、闇の過激派もまたその功績により表舞台へ堂々と出て来られます。彼らは禁術の見返りに庇護を約束され、そうなれば王でさえ彼を恐れるようになりますわ。
屍ドラゴンを操るのは術者の負担が大き過ぎるので限られた時間内限定と考えられますから、クーデターはあわよくば、と考えている程度でしょうか」
「ドラゴンを捕える事に王命が下されていたのだとすれば……」
サミュエルは思考を巡らした――王もこの事はきっと御存知の筈。
ならば王はグルタニア帝国との戦争を――王国の版図拡大を望んでいる可能性が高い。
禁術で屍ドラゴンという強大な兵器を操れるならば尚更野望は燃え上がるだろう。
王はギュンター公爵の野心にも勿論気付いていて、騙されたふりをして上手く利用しながら妙なことを仕出かさないように動向を常に探っていると考えるのが自然だ。
禁術を使用する汚れ仕事を公爵や闇の過激派が進んでやってくれる――たとえバレてイーラ教から非難されても公爵が勝手にやったと切り捨てれば済むこと。
また、グルタニア帝国との戦争の矢面に彼らを立たせれば、いざ戦況が不利になっても騙された善人として申し開きは可能だ。
(――もしかしたら、彼女は王の影かも知れません)
ライオットの耳に口を寄せて囁く。
王の影とは王の手足となり、貴族等の不穏な動きを探っては報告する隠密部隊である。
スカーレットがそれである可能性は非常に高い。
生きたドラゴンは制御出来ず、魔素ぐらいしか利用価値はない。
それどころか何時解き放たれてしまうか分からない代物である。
王は、ギュンター公爵に『王国の危機』を自作自演をされぬように先手を打とうとするだろう。
スカーレットはドラゴンを返すように動いている。
という事は、屍ドラゴンの準備が整ったという事か。
生きたドラゴンを返してしまえば、後は闇の過激派を唆して屍ドラゴンを帝国との国境に送るよう仕向けるだけだ。
サミュエルは王国の深い闇に肌が粟立つような思いを抱いた。
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