上 下
49 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

49にゃん

しおりを挟む
 その日の朝、マリーシャは再び大神殿を訪れていた。
 悩んだ末、ニャンコの鈴の件を最高司祭ヴォードに伝えようとしたのである。

 面会の申し込みをしたものの、最高司祭は多忙の身。
 一週間待たされることもザラであった。

 しかし幸運な事に、マリーシャが呼ばれたのはその日の夕方だった。

 「マリーシャ、昨日の今日ですが、どうしましたか?」

 「ご多忙のところ、お時間を頂き感謝いたします。最高司祭様にどうしてもお伝えしておかなければならない事が――」

 マリーシャが語り始めようとした時。

 「ヴォード様! たっ、大変でございます――グルタニア帝国の教皇が!!」

 最高司祭付きの神官が息せき切って駆け込んできた。


***


 「――グルタニアの教皇?」

 最高司祭ヴォードは神官に問いただす。
 謁見室の外が騒がしい。

 誰かが言い争うような声や懇願の声。
 耳を澄ますと辛うじて「どうかお待ちください」という言葉が聞こえた。
 マリーシャはまさか、と思う。

 やがて、重厚な扉が軋みを伴って開け放たれる。
 神殿騎士が駆け込んできてヴォードを守るように控えるも、その人物は意に介した様子もなく堂々とゆっくり入って来た。

 「――突然の訪問失礼致します、イシュラエア王国光の神の最高司祭ヴォード=ダルベルトル殿。私はグルタニア帝国闇の神の教皇、クリステル=スヤライラと申します。お見知りおきを」

 それは漆黒の立派な法衣に身を包んだ人物だった。
 その後ろに控えている見覚えのある人物にマリーシャは納得する。
 ダークエルフのティリオン。彼は地の精霊の移動術で教皇を連れて来たのだろう。

 最高司祭ヴォードは純白の法衣に身を包み、髪もまた老齢のためほぼ白髪である。
 それとは対照的に教皇はまだ若い。
 20歳そこそこだろうか。髪は烏の羽の如く艶やかな漆黒、中性的な顔立ちをしていた。

 「ここは光の神の大神殿。そこへ闇の神の教皇であるクリステル殿が何の用でいらっしゃったのか……」

 ヴォードは突然の出来事に乱れた精神を落ち着かせるように息を大きく吐く。
 少し落ち着きを取り戻し準備を命じてから、言葉一つ一つを吟味するようにゆっくりと問うた。

 「我が神の祝福――寵愛を受けし方がこちらにいると聞き及び、その確認に参りました。真実であると確認が取れればその方は神の子、我らが仕え守るべき存在であり――闇の大神殿へお連れしなければなりません」

 教皇クリステルはそこで初めて後ろのダークエルフを振り返った。
 ティリオンは心得たように前へ出る。

 「そちらのマリーシャ神官も御存知でいらっしゃる筈です。昨日こちらに保護されたケット・シーのニャンコ=コネコ様は、確かに闇の神アンシェラ様の祝福を受けておられます」

 光の神の最高司祭はマリーシャを見た。

 「それは真実ですか、マリーシャ」

 「……真実です。今まさに私が話そうとしたのもその事です。しかし、ニャンコは闇の神だけではなく、光の神の祝福も受けております」

 「そ、それは本当ですか、マリーシャ!」

 「はい、私は真実目の当りにしたのです――最高司祭様」

 マリーシャは肯定する。

 「本当だったのですね、ティリオン。ニャンコ様が光と闇、正反対の祝福を同時に受けたというのは」

 「はい」

 マリーシャの言葉を聞くまでは半信半疑だったのだろう。
 教皇は愕然としているようだった。
 ヴォードも十分驚いたものの、実際に確かめてみなければ到底信じられない気持ちである。
 現在、光の神の祝福は誰も受けていない――最高司祭の自分でさえ。

 もし、あのケット・シーが祝福を授かっていたら。

 ヴォードはクリステルを見た。
 闇の神の教皇は、神の寵愛を受ける者としてニャンコに仕え守らなければいけないと言ったが、それはこちらも同じ事が言える。
 光の神の寵愛を持つ者を闇の大神殿へ連れていかれる訳にはいかない。

 「――ニャンコ=コネコをここへ」



***



 白熱した勝負の熱気冷めやらぬまま、お昼ご飯になった。
 今日のメニューはハンバーグ定食である。
 多少薄味に作られていると思われるが、私にとっては丁度良い美味しさだ。

 勝負に圧倒的大差で負けたタレミミは、最初こそ落ち込んだものの――私に対して尊敬の念を持ったようで、さんしゃん付けで呼ぶようになっていた。
 今は大人しく少し離れた場所でミミと食事をしている。
 ミミも泣き止んで落ち着いたようで良かったと思う。

 隣ではハチクロが食べているが、何だか元気がない。
 彼はフォークを置くと、ポツリと呟いた。

 「ニャンコしゃん。ぼくはぜんぜんかっこよくもにゃいし、にゃかにゃかヒアンセができにゃいのにゃ。タレミミほど世界樹の葉摘みも上手じゃにゃいにゃ。ニャンコしゃんみたいに凄いチカラがぼくにもあったらいいにょににゃ……」

 ハチクロは自信喪失してしまったようだった。
 ぼくにはにゃにも出来る事はにゃいにゃ…と俯いている。

 「――ハチクロ、今更何を言ってるのにゃ? ケット・シーという種族そのものが、ノウリョクが低いのにゃ。たしかに何でも出来るノウリョクがある種族は強いしスゴいと思うにゃ。でも――だからと言って、ハチクロも何でも出来るようになるヒツヨウって、あるのかにゃ?」

 前世、常日頃思っていた事である。

 「ハチクロが出来なくても出来る人はかならずいるから、出来ないことはその人にぜんぶまかせればいいのにゃ。自分が無理して出来るようにならなくてもいいんじゃないのかにゃ? 出来ないことをすべてカタッパシから出来るようにならなくちゃって思うとキリがないししんどくなるにゃ」

 ハチクロが、顔を上げた。口をぽかんと開けている。
 その発想はなかったといった風情だ。

 「そう言われてみれば、そうだにゃ…ぼく、頑張りすぎていたかもにゃ」

 「そーにゃそーにゃ! 力を抜いてむりせず楽しく生きるのが一番なのにゃ!」

 「じゃあニャンコしゃんぼくのヒアンセににゃってくれるかにゃ?」

 「いやにゃ」

 「……」

 それって単に怠惰であることを推奨しているのでは――近くにいて会話を聞いていたエアルベスは疑問に思ったものの、ニャンコの言葉でハチクロが立ち直れるのならと思い直して口を噤んでいた。

 沈黙は金なり。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売しています!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...