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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!
40にゃん
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「今あなた、何をしていたの? 火の精霊が見えたのだけど」
慌ててやってきたスィルがスカーレットさんに詰問する。
「火の精霊?」
ライオットがきょとんとする。「精霊ってどこにでもいるんじゃないか? ほら、テーブルの上に燭台あるし」
「…蝋燭だけでは済まないほど尋常な数ではなかったわ」
「ああ、それは…お嬢様に火の精霊をお見せしていたのですわ。地と風の加護をお持ちでしたので。私は火の精霊使いなのです。火の精霊王を呼びましたら、彼は大層お嬢様を気に入ったようで、火の精霊石を贈らせて頂きました」
「風…? あああ、本当だわ、いつの間にっ!!? ……コホン、じゃあ、あの男は兎も角…あなたは本当に信用出来るようね。精霊は誠実な心の持ち主でないと力を貸さないから」
"今頃気付いたのー? もー、愛し子は変なところで抜けてるんだからー!"
スィルはライオットの看病をしていたし、出発時は出発時でティリオンに気を取られていたから気付かなかったんだろうなぁ。
「恐れ入ります」
ライオット達は再びダンスに戻っていった。
スカーレットさんはそれを見送ってからこちらを見る。後ろに彼女の仲間の女性が歩いてくるのが見えた。
「ニャンコ、迎えが来たから私は行かなくちゃいけないわ。もし、ニャンコ自身も何か分かったらサラマンダーに教えて頂戴。ドラゴンがまさかあんなところに隠されているとは思えないけど……もし見つかって無事救出出来たら、何か私に出来る事であればお礼をするわ」
***
「…とは言ってもにゃー」
サラマンダーに確認すると、ドラゴンはかなり図体が大きいそうだ。
保護区内、確かに広いのは広いけど、そんな大きな生き物が隠されるスペースなんて無いような気がする。
「何をぼうっとしている?」
「おーい、ニャンコー!早く来いよー!」
気が付くと、廊下の向こうでティリオンとライオットが私を呼んでいるのが聞こえた。
あっ、置いてかないで!
次に案内されたのは、農園が眼下に見える建物の二階だった。
広大な農場には緑の木々が沢山植わっており、中のあちこちにケット・シー達が散らばっている。
遠目だが、よく見るとどうもケット・シー達はめいめい籠を背負って葉っぱをちぎっては入れているようだ。
「何を栽培しているんだ?」
「ライオット、これ、世界樹よ…」
ライオットの疑問にスィルが感動したように木々を見詰める。
「世界樹から株分けされたものではありますが、聖地のものよりも魔素が少ないので効力は落ちます。それでも大変珍重されて、得られた収入はケット・シー達の生きる糧となっているのです。
ここは保護施設ですが、ただ養うだけではなくて、ケット・シーでも出来る仕事を与えなければなりません。また、国の試験栽培的な意味もこめてやっております」
案内してくれたエアルベスさんが得意そうに説明した。
採れた世界樹の葉は薬草茶として加工され、王妃様を始め貴族女性達のお茶会に持てはやされて高値で取引されているらしい。
ライオットが納得したように頷く。
「そう言えば、昔母さんが何かの折に頂いてきた薬草茶の包みには猫の絵が描かれていたな。あれはケット・シーだったのか」
「しかし、世界樹という割には随分小さな木ですね」
「世界樹は魔素の濃厚な土地でしか自生してない筈だが…?」
サミュエルとティリオンが疑問を呈した。
普通の土地では世界樹の成長に必要な魔素が足りない。
無理に育てようとすれば魔素を必要とする精霊が飢餓に陥り死に絶えてしまう。
結果、土地を枯らしてしまうそうだ。
故に、世界樹の成長を以ってしても尚、魔素が余りある聖地でしか世界樹は自生できない。
魔素が凝縮された世界樹の葉は、万能薬の原料にもなるため非常に高価なものである。
その割りにはこの建物内にしろ、魔素は普通にある――首を傾げたサミュエルに、マリーシャがふと思い出したように口を開いた。
「そう言えば外界と遮断する結界が張ってあると聞いた事がありますが……」
エアルベスさんは紫の瞳を瞬かせた。
「はい、世界樹の栽培している範囲は大規模な結界で覆われておりまして。通すのは物質のみで、魔素や精霊は遮断するものなのです」
"それで精霊達が入れないって訳ねー!"
"成る程な。でも魔素も遮断されてたら世界樹育たなくねーか?"
"結界あってよかったですじゃ。世界樹が一番栄養を吸い取るのは地からじゃときまっとるのじゃー"
風と火と地の精霊王達が語り合う。
確かにそうだ。
それではどうやって世界樹を育てているのかとサミュエルが聞くと、それは国家機密に関わる事なので教えられないらしい。
一休みしましょうかとその辺のベンチに案内されると、職員の方が人数分のコップをお盆に載せて持ってきてくれた。
「――これは、その世界樹を加工し、お茶にして淹れたものです。どうぞ」
私は湯気が立つコップを覗き込む。
美しい緑の水色、香りは日本茶に近い気がする。
猫舌なので、ふうふう息を吹きかけて冷まして飲む。
あれれ?
味も日本茶――てか、これは普通に緑茶じゃないか!
世界樹って、要はお茶の木だったのだと気付く。
「何だか精神的に落ち着きますね、これは。聖地の世界樹の葉は強すぎますが、こちらは緩やかに効いてきます」
「ええ、何だか穏やかな気持ちになりますね」
「私も買おうかしら」
「うん、美味い。懐かしいな、母さん元気かな…」
「……悪くない」
ふぅ、ふぅ、ずぞぞ…。
冒険者達含め一同、皆気に入ったようでお茶を堪能している。
麗らかでのんびりした陽射しの中、私は一瞬日本家屋の縁側にいるような錯覚をしてしまいそうになった。
慌ててやってきたスィルがスカーレットさんに詰問する。
「火の精霊?」
ライオットがきょとんとする。「精霊ってどこにでもいるんじゃないか? ほら、テーブルの上に燭台あるし」
「…蝋燭だけでは済まないほど尋常な数ではなかったわ」
「ああ、それは…お嬢様に火の精霊をお見せしていたのですわ。地と風の加護をお持ちでしたので。私は火の精霊使いなのです。火の精霊王を呼びましたら、彼は大層お嬢様を気に入ったようで、火の精霊石を贈らせて頂きました」
「風…? あああ、本当だわ、いつの間にっ!!? ……コホン、じゃあ、あの男は兎も角…あなたは本当に信用出来るようね。精霊は誠実な心の持ち主でないと力を貸さないから」
"今頃気付いたのー? もー、愛し子は変なところで抜けてるんだからー!"
スィルはライオットの看病をしていたし、出発時は出発時でティリオンに気を取られていたから気付かなかったんだろうなぁ。
「恐れ入ります」
ライオット達は再びダンスに戻っていった。
スカーレットさんはそれを見送ってからこちらを見る。後ろに彼女の仲間の女性が歩いてくるのが見えた。
「ニャンコ、迎えが来たから私は行かなくちゃいけないわ。もし、ニャンコ自身も何か分かったらサラマンダーに教えて頂戴。ドラゴンがまさかあんなところに隠されているとは思えないけど……もし見つかって無事救出出来たら、何か私に出来る事であればお礼をするわ」
***
「…とは言ってもにゃー」
サラマンダーに確認すると、ドラゴンはかなり図体が大きいそうだ。
保護区内、確かに広いのは広いけど、そんな大きな生き物が隠されるスペースなんて無いような気がする。
「何をぼうっとしている?」
「おーい、ニャンコー!早く来いよー!」
気が付くと、廊下の向こうでティリオンとライオットが私を呼んでいるのが聞こえた。
あっ、置いてかないで!
次に案内されたのは、農園が眼下に見える建物の二階だった。
広大な農場には緑の木々が沢山植わっており、中のあちこちにケット・シー達が散らばっている。
遠目だが、よく見るとどうもケット・シー達はめいめい籠を背負って葉っぱをちぎっては入れているようだ。
「何を栽培しているんだ?」
「ライオット、これ、世界樹よ…」
ライオットの疑問にスィルが感動したように木々を見詰める。
「世界樹から株分けされたものではありますが、聖地のものよりも魔素が少ないので効力は落ちます。それでも大変珍重されて、得られた収入はケット・シー達の生きる糧となっているのです。
ここは保護施設ですが、ただ養うだけではなくて、ケット・シーでも出来る仕事を与えなければなりません。また、国の試験栽培的な意味もこめてやっております」
案内してくれたエアルベスさんが得意そうに説明した。
採れた世界樹の葉は薬草茶として加工され、王妃様を始め貴族女性達のお茶会に持てはやされて高値で取引されているらしい。
ライオットが納得したように頷く。
「そう言えば、昔母さんが何かの折に頂いてきた薬草茶の包みには猫の絵が描かれていたな。あれはケット・シーだったのか」
「しかし、世界樹という割には随分小さな木ですね」
「世界樹は魔素の濃厚な土地でしか自生してない筈だが…?」
サミュエルとティリオンが疑問を呈した。
普通の土地では世界樹の成長に必要な魔素が足りない。
無理に育てようとすれば魔素を必要とする精霊が飢餓に陥り死に絶えてしまう。
結果、土地を枯らしてしまうそうだ。
故に、世界樹の成長を以ってしても尚、魔素が余りある聖地でしか世界樹は自生できない。
魔素が凝縮された世界樹の葉は、万能薬の原料にもなるため非常に高価なものである。
その割りにはこの建物内にしろ、魔素は普通にある――首を傾げたサミュエルに、マリーシャがふと思い出したように口を開いた。
「そう言えば外界と遮断する結界が張ってあると聞いた事がありますが……」
エアルベスさんは紫の瞳を瞬かせた。
「はい、世界樹の栽培している範囲は大規模な結界で覆われておりまして。通すのは物質のみで、魔素や精霊は遮断するものなのです」
"それで精霊達が入れないって訳ねー!"
"成る程な。でも魔素も遮断されてたら世界樹育たなくねーか?"
"結界あってよかったですじゃ。世界樹が一番栄養を吸い取るのは地からじゃときまっとるのじゃー"
風と火と地の精霊王達が語り合う。
確かにそうだ。
それではどうやって世界樹を育てているのかとサミュエルが聞くと、それは国家機密に関わる事なので教えられないらしい。
一休みしましょうかとその辺のベンチに案内されると、職員の方が人数分のコップをお盆に載せて持ってきてくれた。
「――これは、その世界樹を加工し、お茶にして淹れたものです。どうぞ」
私は湯気が立つコップを覗き込む。
美しい緑の水色、香りは日本茶に近い気がする。
猫舌なので、ふうふう息を吹きかけて冷まして飲む。
あれれ?
味も日本茶――てか、これは普通に緑茶じゃないか!
世界樹って、要はお茶の木だったのだと気付く。
「何だか精神的に落ち着きますね、これは。聖地の世界樹の葉は強すぎますが、こちらは緩やかに効いてきます」
「ええ、何だか穏やかな気持ちになりますね」
「私も買おうかしら」
「うん、美味い。懐かしいな、母さん元気かな…」
「……悪くない」
ふぅ、ふぅ、ずぞぞ…。
冒険者達含め一同、皆気に入ったようでお茶を堪能している。
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