上 下
40 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

40にゃん

しおりを挟む
 「今あなた、何をしていたの? 火の精霊が見えたのだけど」

 慌ててやってきたスィルがスカーレットさんに詰問する。

 「火の精霊?」

 ライオットがきょとんとする。「精霊ってどこにでもいるんじゃないか? ほら、テーブルの上に燭台あるし」

 「…蝋燭だけでは済まないほど尋常な数ではなかったわ」

 「ああ、それは…お嬢様に火の精霊をお見せしていたのですわ。地と風の加護をお持ちでしたので。私は火の精霊使いなのです。火の精霊王サラマンダーを呼びましたら、彼は大層お嬢様を気に入ったようで、火の精霊石を贈らせて頂きました」

 「風…? あああ、本当だわ、いつの間にっ!!? ……コホン、じゃあ、あの男は兎も角…あなたは本当に信用出来るようね。精霊は誠実な心の持ち主でないと力を貸さないから」

 "今頃気付いたのー? もー、愛し子は変なところで抜けてるんだからー!"

 スィルはライオットの看病をしていたし、出発時は出発時でティリオンに気を取られていたから気付かなかったんだろうなぁ。

 「恐れ入ります」

 ライオット達は再びダンスに戻っていった。
 スカーレットさんはそれを見送ってからこちらを見る。後ろに彼女の仲間の女性が歩いてくるのが見えた。

 「ニャンコ、迎えが来たから私は行かなくちゃいけないわ。もし、ニャンコ自身も何か分かったらサラマンダーに教えて頂戴。ドラゴンがまさかあんなところに隠されているとは思えないけど……もし見つかって無事救出出来たら、何か私に出来る事であればお礼をするわ」



***



 「…とは言ってもにゃー」


 サラマンダーに確認すると、ドラゴンはかなり図体が大きいそうだ。
 保護区内、確かに広いのは広いけど、そんな大きな生き物が隠されるスペースなんて無いような気がする。

 「何をぼうっとしている?」

 「おーい、ニャンコー!早く来いよー!」

 気が付くと、廊下の向こうでティリオンとライオットが私を呼んでいるのが聞こえた。

 あっ、置いてかないで!



 次に案内されたのは、農園が眼下に見える建物の二階だった。
 広大な農場には緑の木々が沢山植わっており、中のあちこちにケット・シー達が散らばっている。
 遠目だが、よく見るとどうもケット・シー達はめいめい籠を背負って葉っぱをちぎっては入れているようだ。

 「何を栽培しているんだ?」

 「ライオット、これ、世界樹よ…」

 ライオットの疑問にスィルが感動したように木々を見詰める。

 「世界樹から株分けされたものではありますが、聖地のものよりも魔素が少ないので効力は落ちます。それでも大変珍重されて、得られた収入はケット・シー達の生きる糧となっているのです。
 ここは保護施設ですが、ただ養うだけではなくて、ケット・シーでも出来る仕事を与えなければなりません。また、国の試験栽培的な意味もこめてやっております」

 案内してくれたエアルベスさんが得意そうに説明した。
 採れた世界樹の葉は薬草茶として加工され、王妃様を始め貴族女性達のお茶会に持てはやされて高値で取引されているらしい。
 ライオットが納得したように頷く。

 「そう言えば、昔母さんが何かの折に頂いてきた薬草茶の包みには猫の絵が描かれていたな。あれはケット・シーだったのか」

 「しかし、世界樹という割には随分小さな木ですね」

 「世界樹は魔素の濃厚な土地でしか自生してない筈だが…?」

 サミュエルとティリオンが疑問を呈した。
 普通の土地では世界樹の成長に必要な魔素が足りない。
 無理に育てようとすれば魔素を必要とする精霊が飢餓に陥り死に絶えてしまう。
 結果、土地を枯らしてしまうそうだ。
 故に、世界樹の成長を以ってしても尚、魔素が余りある聖地でしか世界樹は自生できない。
 魔素が凝縮された世界樹の葉は、万能薬の原料にもなるため非常に高価なものである。

 その割りにはこの建物内にしろ、魔素は普通にある――首を傾げたサミュエルに、マリーシャがふと思い出したように口を開いた。

 「そう言えば外界と遮断する結界が張ってあると聞いた事がありますが……」

 エアルベスさんは紫の瞳を瞬かせた。

 「はい、世界樹の栽培している範囲は大規模な結界で覆われておりまして。通すのは物質のみで、魔素や精霊は遮断するものなのです」

 "それで精霊達が入れないって訳ねー!"

 "成る程な。でも魔素も遮断されてたら世界樹育たなくねーか?"

 "結界あってよかったですじゃ。世界樹が一番栄養を吸い取るのは地からじゃときまっとるのじゃー"

 風と火と地の精霊王達が語り合う。
 確かにそうだ。
 それではどうやって世界樹を育てているのかとサミュエルが聞くと、それは国家機密に関わる事なので教えられないらしい。
 一休みしましょうかとその辺のベンチに案内されると、職員の方が人数分のコップをお盆に載せて持ってきてくれた。

 「――これは、その世界樹を加工し、お茶にして淹れたものです。どうぞ」

 私は湯気が立つコップを覗き込む。
 美しい緑の水色すいしょく、香りは日本茶に近い気がする。

 猫舌なので、ふうふう息を吹きかけて冷まして飲む。

 あれれ?

 味も日本茶――てか、これは普通に緑茶じゃないか!
 世界樹って、要はお茶の木だったのだと気付く。

 「何だか精神的に落ち着きますね、これは。聖地の世界樹の葉は強すぎますが、こちらは緩やかに効いてきます」

 「ええ、何だか穏やかな気持ちになりますね」

 「私も買おうかしら」

 「うん、美味い。懐かしいな、母さん元気かな…」

 「……悪くない」

 ふぅ、ふぅ、ずぞぞ…。

 冒険者達含め一同、皆気に入ったようでお茶を堪能している。
 麗らかでのんびりした陽射しの中、私は一瞬日本家屋の縁側にいるような錯覚をしてしまいそうになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

処理中です...