上 下
36 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

36にゃん

しおりを挟む
 領主の館の晩餐会。

 それは貴族としては簡易なものだったそうだが、私の目には十分豪華であった。
 所謂ダンスパーティーであり、近隣の裕福な商家や貴族も招かれて色とりどりのドレスが翻る。

 マリーシャとスィルは衣装を貸してもらえることになり、今現在はドレスアップ中だ。
 私は子供だし、買ってもらった余所行きの可愛い服を着せてもらっている。

 彼女らが出てくる間、私と男性陣は会場で待つことになった。

 リュネを含む広大な領地を統べる、マニュエル=ド=ヴェンネルヴィク伯爵は素敵なロマンスグレーな礼儀正しい人物だった。
 自分の手の行き届かなかった領民を救ってくれた事にとても感謝しているようだった。
 ライオット達の活躍ぶりをギルド職員から伝え聞いたらしく、しきりに感心している。

 「弱き者を助ける、その高潔な志はなかなか今の冒険者には見られぬものです」

 「いえ、俺達もこの子が言わなかったら何もしなかったでしょう――高潔な心を持っているのはこの子です」

 ライオットが謙遜する。領主様はこちらを見て、おやとした顔になった。

 「猫のお嬢さん、お名前は?」

 わざわざしゃがんで視線を合わせてくれる。
 ここは子供らしく期待に応えねばなるまい。

 「ニャンコ=コネコですにゃ!」

 はいっと手を挙げて元気良く答えると、マニュエル様は相好を崩した。

 「――ニャンコか。愛らしい外見にぴったりのよい名前だ。今日は、美味しいものを沢山用意したから存分に食べていって欲しい――これ、この小さなレディに獣人でも食べられるものを」

 給仕を呼び止めて注文もしてくれる。子供の私にも気を使ってくれる何ていい人なんだ。

 って――それよりも、レディ!
 レディですよ奥さん!
 初めてそう呼ばれてときめくあまり、猫なのにハーレクイン妄想までしてしまいましたよ!

 レディ呼びの感動を噛み締めながら和やかな談笑に耳を傾けていると、スィルとマリーシャがやってきた。

 「綺麗にゃー…」

 私はほう、と溜息を吐く。

 スィルは緑系統の、葉の装飾が付いたドレスを来ていた。
 グラデーションになって薄い布が重ねられて作られた手の込んだものである。
 髪は結い上げてリボンで編みこみにされていた。森ガールならぬ森令嬢という感じだ。

 マリーシャは優しげな雰囲気と清楚なイメージを引き立てる青系統のドレス。
 青に白と金で縫い取りがしてあって、まるでどこかの国の王女様みたいだ。
 スィルがウエストから広がる形なのに対してこちらはマーメイドライン、マリーシャのスタイルの良さが強調されている。

 「これはお美しいですね、ドレスを用意した甲斐がありましたよ!」

 マニュエル様がにこやかにそつなく褒める。
 無言の男性陣にちらっと見上げると、二人とも頬を染めてぼうっと彼女らを見ていた。

 「ねえ、ライオット。似合うかしら?」

 「そう見詰められると恥ずかしいですね…やっぱり私、着替えて…」

 私はライオットの脛を蹴っ飛ばした。
 短い付き合いでも、ライオットはスィルと、サミュエルはマリーシャと両思いなのは分かるんだ。
 もっともライオットとマリーシャは自覚してないっぽいから誰かが後押ししないと!

 「にっ、似合う! 凄い似合ってるよ、スィル!」

 「マリーシャ殿! 貴女が美しいあまり言葉が出ませんでした…!」

 再起動した男性陣が慌てて彼女らを褒めた時、吟遊詩人がスローテンポな曲を奏で始める。
 マニュエル様が気を利かせて、自分がニャンコを見ているので踊ってきてはどうですかと勧めてくれた。

 うん…そこまでは良かったんだ。

 「へえ~。リュネの孤児達を取り戻したという冒険者って君だったのかい~? 折角未来の勇者である僕が解決しようと思っていた矢先に余計な事をしてくれたね~」

 いい所で邪魔をしてくる未来の勇者(笑)。

 何でこいつはここに居るんだろう?
 てか、ぎっくり腰治るの早っ!



***



 「お前…大丈夫か?」

 ライオットは奴の言葉の内容に反応せず、心配の言葉を掛けた。
 あれは同性からすれば相当痛々しかったらしい。
 私は何となく気まずくて、その辺をウロウロしてみる。

 「ああ、そう言えばぎっくり腰になったとお聞きいたしましたが…」

 「僕は女性に人気があるから夜の方も大変だよ~。若くしてぎっくり腰にもなるさ~。まあ、モテないライオット君には無縁の話だったね~」

 ヒュペルトはシモネタをぶちまけながら後ろを振り返る。マニュエル様は苦笑いだ。
 そこにはドレスアップした彼の取り巻きの女性達が、無表情で立っていた。

 彼女らは美人だし有能そうなのに、なんでこんな無能男と一緒にいるんだろう?

 気になって傍に行き、何となしに観察してみる。

 あ、一人と目が合った。
 赤い髪が印象的な、琥珀色の目をした女性。

 首をかしげてみると、心なしか笑むように細められた。
 こちらも何となく和やかな気持ちになる。

 基本無表情だけど、いい人っぽい?

 「彼女らが手厚い看護をしてくれたからこの通りさ~。でも、またぎっくり腰になるのは時間の問題かな~」

 先程までのほんわかしたアイコンタクトをぶち壊すような台詞に我に返る。

 こいつのような思考回路を持っていたらさぞかし人生楽しいだろうな。

 そう思っていると、

 「くたばれ――クズが」

 彼女が一瞬ヒュペルトの方向を睨み、かすかに呟いたのが性能の良すぎる猫耳にはっきり聞こえてしまった。
 他の取り巻き女性も同様に、無表情だがよく見ると目にギリギリと殺意の篭った鋭さが増していた。

 ひ、ひいいいいい―――っ!!!

 冒険者ギルドでは気付かなかったけど、紛れも無く憎悪の眼差しだよ!

 "かーっ、俺達も相当イライラすんだけど! 一気に消し炭に出来たらどんなにせいせいするだろう!"

 あれ…?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...