上 下
18 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

18にゃん

しおりを挟む
 咳き込む事数秒。

 「ああ、きったねぇ…つーか、あれ、ニャンコのおまじないだよ…な。凄いな」

 「『児童誘拐犯』て、まんまじゃないですか…しかし、恐ろしい程繊細に織り込まれた魔術ですね」

 サミュエルは戦慄さえ覚えた。
 犯人が誰かも、人数さえも分からぬ状況の中、それを定め、更に印をつけるなど。
 魔術の常識では考えられない事だ。

 ニャンコの流れるような長い詠唱を思い出す。
 夢で光の神に教えてもらったと言っていたが――正に神の領域の呪文。
 そうしている間にも、『児童誘拐犯』は堂々と広場を通り過ぎていく。

 「感心してる場合じゃない。サミュ」

「ええ――『我に彼の行く場所を知らしめよワタシシルノコトホシイデスカレノイクトコロノコト』」

 男の行く先、いる方向の情報が魔術によってサミュエルの脳に伝達されてくる。
 どうも街から出ようとしているようだった。

 「追うぞ」

 二人は男から充分距離を保ちながら追いかけ始めた。


***


 教会に居た女神官はやつれていたが、優しそうな人だった。
 突然の来訪に戸惑いながらも迎え入れてくれた。マリーシャが名乗ると恐縮していたが。
 マリーシャ、結構教会組織ではそこそこ偉い人みたいである。

 話を聞けば、孤児達は雀の涙の収入を得るために街の外へ出て薬草(ハーブ)を集めていたそうだ。
 そして教会はそれを使って薬を煎じ、売って生計としていた。

 涙ながらに語る彼女を慰めるマリーシャ。
 私も、「『攫われた子供達が無事で帰ってくる事が実現する』…にゃ。『この教会内の人間が食事に困らない事が実現する』…にゃ」と日本語で小さく呟く。

 恐らく攫われたのは街の外だろう。きっと、一網打尽に全員連れ去られた。
 孤児の誰かの弟妹だろう、スラムに残っていた子供は幼児ばかり。
 彼女は全員を教会へ連れて帰り、保護していた。
 だが、その世話に追われなかなか孤児達を探しに行けない状態だそうだ。

 話を聞きつけた街の人達からの寄付は若干増えたものの、食費はそれを上回り、僅かな蓄えも尽きかけ、行き先の不安に苛まれていた。

 マリーシャは一筆書いて女神官に手渡す。ギルド経由で手紙を飛ばせば大神殿がよきに取り計らってくれるとの事で、女神官はほっとしていた。

 教会を出て、そこから一番近い門へ向かう。
 ひとまず現場を見てみようという事になったからだ。

 「あら、ライオット達だわ」

 スィルが指差した先、バラバラと歩く通行人のはるか彼方、街の門の傍に米粒程の二人の人影があった。
 私は驚く。あれで判別出来るとは。エルフの視力は某アフリカの部族並である。
 彼らはそのまま向こうに消えた。

 「人目を避けるように歩いてたわ。もしかして――誰かを、追ってる?」

 「折角ですし、私達も追いかけて合流しましょうか」

 「ちょっと待って…風の精霊よ…ライオット達を追いかけて頂戴……」

 スィルが宙を見つめて囁くように呼びかけると、小さな羽根の生えた半透明の妖精がどこからとも無く周囲に沢山現れ、門の方へ飛んでいった。
 エルフと言えば風の精霊。鉄板だな。
 しかし飛んでいく直前、こちらをチラチラ見ていたのは気のせいだろうか。


 「何だか嫌な予感がするの、マリーシャ。私達は一旦宿に戻って馬と装備を整えてから行きましょ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

処理中です...