ちーとにゃんこの異世界日記

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
6 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

6にゃん

しおりを挟む
 どうしよう、どうしよう…と思っていると、私のお腹が盛大に鳴った。

 「なんだ、腹減ってるのか」

 「下で何か食べさせてもらったら?」

 「私が幻覚魔法をかけましょう。ニャンコ、魔法をかけます、良いですか?」

 「あっ、お願いしますにゃー」

 「では、行きますよ――『我ニャンコを獣人に見えさせしむ事を願うワタシニャンコノスガタケモノヒトニミエマスノコトホシイデス』」

 「にゃっ……!?」

 私は混乱した。耳に実際に聞こえたのは異世界語じゃない。片言だったけど、確かに日本語……。

 えっ? もしかして、呪文が、日本語だったりするの?

 つーかめちゃくちゃ日本語学習中の外人みたいになってるけど!?

 ちょっと笑いそうになって私は俯き加減で我慢した。一応確認の為に訊いてみる。

 「…サミュエルしゃんがさっき唱えてたのはもしかして、魔法の呪文なのかにゃ?」

 「ええ、そうですよ。術の行使は力ある言葉の呪文によって行われるのですから」

 「サミュエルは優秀な魔術師なんだ。力ある言葉は難解で文法も難しいそうだが、彼は言葉の一つ一つの意味と使い方を研究している第一人者なんだぞ」

 「そ、そうなのかにゃ…ちなみにさっきの呪文は何て意味なのにゃ?」

 「『我ニャンコを獣人に見えさせしむ事を願う』、でしょうか」

 「あにゃー…」

 意味は合ってる。合ってるけど…どこか釈然としない気持ち。

 まあこの世界の魔法事情が分かった。
 魔法などの発動には力ある言葉である日本語が必要、と。
 辞書も何も無い中からここまで独自に日本語の組み立てを行えるサミュエルは確かに優秀なのだろう。

 しかし何故日本語なのか。
 神は日本語がペラペラの私に狙われフラグを立てたがってるとしか思えない。

 通訳魔法がどこまでやってくれるのかは分からないが、異世界の言葉が聞こえるのに口元は日本語を話していると不自然だろう。
 ケット・シーの姿だったら猫の口だから、何も意識しなくても口の動きで実際話している音と聞こえている音が一致しないとかそういうのは分かりにくいと思う。
 気をつけていさえすれば自分が日本語話者だとはバレないだろう。

 人間の姿に見えるようにされたのなら、話すときは周囲が口元が異世界の言葉を話しているように錯覚するように意識して重々気をつけなければいけない。それか口元をあまり動かさないか。

 ところで、幻覚魔法は本当にかかっているのだろうか?
 手を見ると、おお、ちゃんと人間の手だ――子供の手だけど。

 「はい、ニャンコ。鏡なんて高級品はないけどその代わりだ、見てみろよ」

 ライオットが剣を抜いて刀身を見せるように翳してくれる。ぴかぴかに磨かれたそこには――天使エンゼルがいた。

 くりくりの金髪天然パーマ、青い瞳の素っ裸の幼女がこちらを見返していたのだ。某チョコ菓子の黄色いくちばしに描かれているようなあれが実物だったらきっとこんな感じなのだろう。

 異世界の言葉を話している時は口元も異世界の言葉に合わせて動いていると周囲に錯覚される――そう念じながら私は刀身を覗き込んだ。

 あっ、猫耳と尻尾は元のまんまだ。

 「これが、わたちなのかにゃ? なんだか不思議な感じがするにゃ」

 顔をむにむにしたり、お尻を向けてプリプリしてみせたり色々試してみる。よく出来てるな。
 サミュエルに感謝しよう、と見ると、彼は口に手を当てて何かを堪えているようだった。

 おお、私の可愛さを思い知るがいい!

 「ぐふっ…こ、こちらの獣人の子供の姿も愛らしすぎて危険ですが、ケット・シーに見えるままでいるよりはマシでしょう」

 「本当に可愛らしい…食事が終わった後でニャンコに似合う服をどこかで見繕わなければなりませんね。出来ればサミュエルさんと同じようにフードを深く被った方が良いでしょう。余計な災いを招かぬように」

 マリーシャが提案すると、確かにそうですねとイケメンすぎて女に苦労しているらしい魔術師が、大人用の半そでシャツとフードを取り出して着せてくれた。
 大人用のシャツは子供にはだぼっとしたワンピースになる。半そでなのに私にとっては七分八分袖だ。

 「サミュエルしゃん、ありがとうにゃ」

 フードもありがたい。顔がだいぶ隠れるから。
 お礼を言うと、サミュエルはどう致しまして、と照れた様子で頭を撫でてくれた。
 耳が真っ赤になっているのはご愛嬌。

 マリーシャ以外はギルドに行って何かしらの手続きをしてくるようだ。帰りに私の服を買ってくる、と頭を撫でて出て行った。
 私はといえば、マリーシャの付き添いでごはんを貰う事に。
 彼女は一緒に階下に下りて、恰幅のいい宿のおかみさんに私のごはんを頼んでくれた。

 「時間外で申し訳ないのですが、この子に簡単な食事でいいのでお願いします。あ、チャイブやオニオンは入れないでください。体質で食べられないんです」

 おかみさんがこちらを見る。
 私もおかみさんを見返すと、母性本能を刺激されたのかあらかわいらしい、とにっこりされた。

 「おねがいしますにゃ」

 「あいよ。獣人食ね。ちょっとまっててね、すぐ出来るから」

 ほかならぬ私のメシだ。
 頭をちょこんと下げるとおかみさんは人好きのする笑みをますます深めて頭を撫でて請け負ってくれた。

 それにしてもチャイブ=葱とオニオン=玉ねぎか。やっぱり外見が猫だからダメなんだろうな。

 前世での、犬猫に与えてはいけない食材を思い出しながら思う。獣人食ってあんま美味しくなさそうなイメージだけど特定食材は毒になるのなら仕方が無い。

 冒険者達の人となりが悪い人じゃなくて良かった。
 ちゃんと、恩返ししなきゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...