竜が守護せし黄昏の園の木に咲く花は

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
1 / 51
【0】愚かなる旅人達

1.真奈

しおりを挟む
 小さい頃から幾度となく同じ夢を見る。
 最初はたまに見るぐらいで気にもとめなかった夢。

 気が付くと一月に何度かだったのが、時間が経つにつれ一週間に一、二度――果ては一日おきとその夢を見る頻度が増えていった。
 見る風景も最初は靄がかかったようにはっきりしなかったのが、今では鮮やかに鮮明になっている。

 あたし、風祭真奈かざまつりまなはその夢が恐ろしくて堪らなかった。
 夢と現実の区別がつかなくなり、夢の世界に飲み込まれてしまいそうになるから。


 あたしの見る夢――果てしなく広がる岩と砂だらけの大地。グランドキャニオンのような地形、今いる場所からは深い谷が見下ろせる。
 あたりは薄いベールがかかっているようで、黄昏時みたいだった。

 静かで、音が一切聞こえない。

 たった一人ぼっちの、そこだけ時間が止まったような、何の気配も感じない世界。
 立っている感覚も何かあやふやとしていて、あたしはいつも恐怖を覚える。

 ――そう、いつも。

 これはいつもの夢なんだ。朝が来さえすれば自分は目を覚ましていつものように学校へ向かってるに決まってる。
 そうして友達にでも話せばすぐ忘れちゃうだろう。

 ――何も恐れる必要は無いわ。

 命の無いこの大地も、この取り残されたような孤独感も――所詮は夢なのだから。

 ほら、その証拠に。

 こんな高いところに居るのに周りには風が全く吹いていない。
 そう、まるでリアルなパノラマスクリーンの映画を見ているような感覚。

 ――もうそろそろ目が覚めてもいい頃じゃない?

 そう思った時、あたしはふと何かの気配を感じて何気なく足元を見た。
 そこには白いバラのような花が一輪咲いている。

 何故かその花だけが、セピア色の世界とは独立して色と時間を持っているように見えた。
 丁度、今のあたしのように。

 死の世界での命。
 この時あたしは初めて気が付いた。
 自分以外にもここには生命があったのだ、という事を。

 「綺麗……」

 そうしてあたしは、誘われるように手を花へ差し伸べる。

 その指先が花に触れるその瞬間、まるで強いフラッシュでも焚かれたように目の前が真白になったかと思うと。
 あたしの意識はそれっきり、その光の奔流の中に飲み込まれるように薄れていった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...