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【0】愚かなる旅人達
1.真奈
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小さい頃から幾度となく同じ夢を見る。
最初はたまに見るぐらいで気にもとめなかった夢。
気が付くと一月に何度かだったのが、時間が経つにつれ一週間に一、二度――果ては一日おきとその夢を見る頻度が増えていった。
見る風景も最初は靄がかかったようにはっきりしなかったのが、今では鮮やかに鮮明になっている。
あたし、風祭真奈はその夢が恐ろしくて堪らなかった。
夢と現実の区別がつかなくなり、夢の世界に飲み込まれてしまいそうになるから。
あたしの見る夢――果てしなく広がる岩と砂だらけの大地。グランドキャニオンのような地形、今いる場所からは深い谷が見下ろせる。
あたりは薄いベールがかかっているようで、黄昏時みたいだった。
静かで、音が一切聞こえない。
たった一人ぼっちの、そこだけ時間が止まったような、何の気配も感じない世界。
立っている感覚も何かあやふやとしていて、あたしはいつも恐怖を覚える。
――そう、いつも。
これはいつもの夢なんだ。朝が来さえすれば自分は目を覚ましていつものように学校へ向かってるに決まってる。
そうして友達にでも話せばすぐ忘れちゃうだろう。
――何も恐れる必要は無いわ。
命の無いこの大地も、この取り残されたような孤独感も――所詮は夢なのだから。
ほら、その証拠に。
こんな高いところに居るのに周りには風が全く吹いていない。
そう、まるでリアルなパノラマスクリーンの映画を見ているような感覚。
――もうそろそろ目が覚めてもいい頃じゃない?
そう思った時、あたしはふと何かの気配を感じて何気なく足元を見た。
そこには白いバラのような花が一輪咲いている。
何故かその花だけが、セピア色の世界とは独立して色と時間を持っているように見えた。
丁度、今のあたしのように。
死の世界での命。
この時あたしは初めて気が付いた。
自分以外にもここには生命があったのだ、という事を。
「綺麗……」
そうしてあたしは、誘われるように手を花へ差し伸べる。
その指先が花に触れるその瞬間、まるで強いフラッシュでも焚かれたように目の前が真白になったかと思うと。
あたしの意識はそれっきり、その光の奔流の中に飲み込まれるように薄れていった。
最初はたまに見るぐらいで気にもとめなかった夢。
気が付くと一月に何度かだったのが、時間が経つにつれ一週間に一、二度――果ては一日おきとその夢を見る頻度が増えていった。
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あたし、風祭真奈はその夢が恐ろしくて堪らなかった。
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――何も恐れる必要は無いわ。
命の無いこの大地も、この取り残されたような孤独感も――所詮は夢なのだから。
ほら、その証拠に。
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自分以外にもここには生命があったのだ、という事を。
「綺麗……」
そうしてあたしは、誘われるように手を花へ差し伸べる。
その指先が花に触れるその瞬間、まるで強いフラッシュでも焚かれたように目の前が真白になったかと思うと。
あたしの意識はそれっきり、その光の奔流の中に飲み込まれるように薄れていった。
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