貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(203)

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 「毒竜を?」

 カレル様の問いに僕は頷いた。
 アルビオン王が毒竜という札付きの人間にリュサイ様やマリーを攫わせるには、まず標的に近付ける相応の環境が無ければならない筈だ。
 それには――

 「アルビオン王は、毒竜を男爵や子爵等の適当な貴族として随行させていることでしょう」

 僕ならそうする。
 そう言うと、マリーが手を打ち鳴らした。

 「……流石ねグレイ、ビンゴよ! 毒竜はテール・リザード男爵を名乗っているわ」

 「やはりね。そこで先んじて私達が毒竜が海賊だと衆目のある公の場で暴けば、アルビオン王は窮地に立たされますよね?」

 「そうか! 『ならず者をトラス王宮に招き入れた』――それをアルビオン王を追い返す口実にするのか!」

 「流石はグレイ様。妙策かと」

 カレル様が拳を掌に落とすと、騎士ドナルドが感心したようにニヤリと笑う。

 「仮にアルビオン王が毒竜と無関係だと主張したとしても、非があるのはアルビオン側なのは明白。更に毒竜を捕らえて牢に入れ、アルビオン王一行は軍の護衛を付きでお帰り願えば手も足も出ないでしょう。これであれば比較的穏便に事は済むかと思います」

 他国の王宮に招かれざる者を入れたという事実は、アルビオン王を国ごと出入り禁止にするだろう。
 「念の為トラス国王陛下に頼んで毒竜を緊急指名手配して貰えば完璧よね!」とマリーが言って、僕はそうだねと頷く。
 すると、それまで黙っていたコンラッド殿下が心配そうな顔で口を開いた。

 「あの……良い策だとは思いますが。強欲で執念深い父が素直に帰国するでしょうか。いっそ、毒竜共々一旦捕らえた上でアルビオンと外交交渉を行うというのは? 王を引き渡す代わりに、カレドニアについての権限放棄他諸々の譲歩を引き出すのは如何でしょう?」

 「うーん……それにはアルビオン王が毒竜以上の、取返しの付かない失態を犯したという事実が必要になるな」

 カレル様の言う通りだ。恐らくアルビオン王は、毒竜に自分も騙された等と言って切り捨てるだろう。悪意が明確ではない以上、拘束する理由としては弱い。

 「奴は酒好きだ……酒なりと飲ませて判断力を鈍らせれば」

 コンラッド殿下の零した言葉に、カールが手を挙げた。

 「あ、それ僕がお膳立て出来るかも知れませんー。お酒と合わせると酔いが早く回る良いキノコ知ってるんですよー」

 「「マリー様、捕らえる際は我ら聖騎士にお任せを」」

 「このドナルドや他の高地の騎士達もお使いください!」

 カールに負けじと馬の脚ヨハン・シュテファン兄弟と騎士ドナルドが名乗りを上げる。僕達やリュサイ様の家臣として宮殿に上がって動ける彼らはその役目にうってつけだろう。
 カールがコンラッド殿下にアルビオン王の好物を訊ね、それに回答した殿下はこちらを見た。

 「私にも、何か出来る事はありますか?」

 「お気持ちだけ。コンラッド殿下はアルビオン王滞在中は隠れていた方が宜しいかと思います。殿下がこの国に滞在されていることがアルビオン王にバレると、王命で無理難題を強いられる可能性が高い。それに、事態もややこしくなりますから」

 僕が考えを述べると、コンラッド殿下は「……そうですか」と肩を落とした。
 そこへマリーが待ったをかけた。

 「コンラッド殿下、思い付いたことがありますの。アルビオン王を捕らえた直後、『カレドニア女王と聖女の事は私が引き継ぎます、聖女の信頼も得ていますから』等とどうとでも解釈出来そうな適当な事を言って大使等に任じて貰うというのは如何かしら?
 そうすればコンラッド殿下は国の代表という身分と予算を得る事が出来ますわよね。外交交渉も殿下の有利に進める事が可能ですわ。強制送還されるアルビオン王にしても繋がりは残しておきたいでしょうし」

 ……それは恐らく成功するだろう。ただ、アルビオン王が帰国後は王の意を受けた者達が送り込まれてくるんだろうけど。きっと、コンラッド殿下を害そうとする者もまた。
 懸念を口にする僕に、マリーは「でしょうね」と頷く。

 「コンラッド殿下にはご苦労をおかけするでしょうけれど、少なくとも殿下がアルビオン代表となっている間は王の再訪は防げます。
 殿下の命を狙う者達にしても、この国で手を下し戦争にでもなればアルビオンの滅亡を招く――余程の馬鹿でない限り下手な手出しは出来ませんわね。勿論、その時にコンラッド殿下の元に送られてくる者達の選別には協力を惜しまないつもりですわ」

 「聖女様……ありがとうございます、やってみます」

 そう言ってコンラッド殿下はマリーに頭を下げた。

 その後、僕達はトラス国王陛下やアルバート殿下達と連絡を密に取り、アルビオン王と毒竜の一行を迎え撃つ準備を万端に整えた。
 仮に多少の想定外があったとしても、概ね上手く事が運ぶと僕は思っていた――この時は、まだ。
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