貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(192)

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 「ああもう! こうなったらちゃっちゃと終わらせて自由時間を確保するしかないわね!」

 ――私、その為に少し部屋に籠るからグレイは先に寝てて!

 夕食後。マリーはそう言って部屋に引き籠った。
 次の日の朝、起きた時に隣に居なかったので、侍女ナーテに訊ねると、サリーナが夜食を差し入れた際に机に突っ伏していたそうだ。仕方なくそのまま彼女の部屋のベッドに寝かせたと。

 着替えを済ませ、彼女の部屋に向かうとまだ寝ていると言うサリーナ。これは食堂に行けそうにないな。
 そうだ、マリーに朝食を運んで一緒に食べることにしよう。


***


 「えぇっ!? そんなに大所帯でしたの?」

 朝食を終えた後でサイモン様達や聖女専属記録書記・侍祭エヴァンとヴェスカルと合流し、サリューン枢機卿と外務大臣の訪れを出迎えた僕達。マリーは、やってきた客人達の数に目を丸くしている。僕や他の面々も同様だ。
 それもその筈、先日新年の宴で見た聖女の庇護を求めてきた国々の使者達が勢揃いしていたからだ。
 ティヴィーナ様が侍女を招いて何事かを囁くと、侍女は屋敷へと足早に戻って行った。我に返った僕もある事に気付いて慌ててナーテに手招き、リュサイ様達にこの事を知らせるようにと託ける。
 これでカレドニア王国の事をうっかり忘れていて仲間外れという事態は避ける事が出来ただろう。

 「本日は宜しくお願いいたします」と挨拶をする枢機卿に、サイモン様が恐る恐る声を掛けている。

 「サリューン猊下、これは……」

 「当初は外交について意見を求めたいと、代々外交官を務めているディブロマ伯爵ご一家には同道を願っていたのですが……各々方おのおのがたの国の命運を左右することだと、皆様に同席を願われまして……」

 枢機卿の背後にいる各国の使者達を見ると、一様に頷いている。
 申し訳ありません――そう歯切れ悪く言って苦笑いを浮かべ謝罪するサリューン枢機卿。
 別に機密の話をする訳でもないので、断る理由も無かったそうだ。

 ぽかんとする僕達の前に、衣擦れの音と共に現れる黄色のドレス。

 「こんにちは、マリーちゃんにグレイちゃん!」

 同色のコートを羽織っているその派手な装いの老婦人――エピテュミア夫人は、にこやかに微笑んだ。
 そう言えば、夫人もディブロマ伯爵家だったっけ。今日はその関係で来たのだろう。

 「まあ、先日ぶりですわねエピテュミア夫人! 皆様も、ようこそ我が家へ」

 「私も歓迎いたします。本日は菜の花の如く素敵なお召し物ですね、よくお似合いですよ」

 ちなみに菜の花は今の時期から咲き始める黄色い花だ。花言葉は『快活』『元気』『明るい』等。
 夫人は黄色が好きなようで、黄色いドレスをよく着ている。
 僕のこの言葉でエピテュミア夫人は上機嫌になったようだった。

 「おほほ、グレイちゃんはいつもお上手ね! 同じ黄色でも、菜の花をモチーフにしたドレスだって分かってくれるのはグレイちゃんぐらいよ――全く家の朴念仁共ときたら!」

 はあ、と盛大な溜息を吐いて背後に並んでいる三人に視線をやるエピテュミア夫人。彼らには見覚えがあった。夫人の夫・息子・孫――ディブロマ伯爵家三代の方々だ。

 「おい、止めないか――キャンディ卿、本日はよしなに。聖女様、猊下、いつも妻がお世話になっております。微力ながらお力になれればと思い参りました」

 夫人をたしなめつつ礼を取ったのは、ヤニック・ディブロマ先代伯爵。続いてその隣のヴァンサン・ディブロマ現伯爵が申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しながら進み出た。

 「父と同じく――母がいつもご迷惑をお掛けしております。こちらは私の息子でまだ勉学中の身ですが、本日は後学の為に見学をさせようと連れて参りました」

 そう言って息子の背に手を回して促すディブロマ伯爵。令息の年は十三、四位だろうか。彼は緊張しているのか、頬に血を上らせて直立不動で口を開いた。

 「おっ、お初にお目にかかりますっ! 私はヴァランタン・ディブロマと申しますっ! 本日は宜しくお願いしますっ!」

 上ずった声で挨拶をした後、ぼうっとした様子でマリーを見ているディブロマ伯爵令息。マリーはディブロマ伯爵家の面々ににっこりと微笑んだ。

 「まあ、お世話だとかご迷惑とかとんでもない! こちらこそ、先だってはお祝いをありがとう存じますわ。祖母共々エピテュミア夫人には大変良くして頂いておりますの。そしてヴァランタン様、こちらこそ宜しくお願いします。
 夫人、今日は来て下さってとっても心強いですわ」

 マリーの言葉を聞いたエピテュミア夫人は、得意気に胸を張った。

 「ほら、貴方達御覧なさい。散々邪魔だ来るなと言っていたけれど、私が来て良かったでしょう?」

 「それでも重要な話し合いなのですから大人しくしていて下さいよ、母上」

 令息以外、苦虫を噛み潰したような顔をしているディブロマ伯爵家の男性二人。僕は色々と察したのだった。
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