656 / 674
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(179)
しおりを挟む
「まあ、ラドさん! 昨日はお手紙をありがとう。明けましておめでとうございます!」
姿を見せたイエイツとラドを、「突然の事で驚かれたでしょう?」と迎え入れるマリー。僕も、「ぎりぎりでしたが、間に合って本当に良かった」と歓迎の意を表明する。
「聖女様、新年だというのに彼は一人つましい食事をしておりましたぞ!」
イエイツの呆れたような声に、ラドは恐縮しているようだった。大学の寮で、買い置きのパンとチーズをもそもそと食べていたらしい。
「申し訳ありません。お手紙を差し上げた通り、私は本来ならとても聖女様のお招きに与れるような身でもなく、しかもこのような形で……本当に宜しいのでしょうか?」
彼の服装を見れば、庶民としては小奇麗な格好だけれど、あくまでも普段着の範疇で晴れ着ではない。イエイツに急かされて上着を引っ掛けてきました、という風情だ。
伯爵家に招かれるには、相応しくないとラド自身も思っているのだろう。
「こちらこそ、お手紙の返事を差し上げる前に急にご招待してしまい申し訳ありませんでしたわ。家人を中心とした気兼ねない昼食会ですから、服装や礼儀等は気にしないで下さいまし」
「マリーの言う通りです。ラドさんの仕事ぶりには私の商会も助けられましたし、僕もジャン達も感謝しているんですよ」
「そんな……猊下。あの時も十分過ぎる程の給金を頂きましたのにお招きまで……」
「ふふふ、また機会があればラドさんの手をお借りする事もあるかも知れません」
僕の言葉に、傍に来ていたジャン・バティストが「そもそもこの昼食会は、平民も異国人も身分関係なく参加しています。私もお招き頂いていますし、若旦那様の仰る通りお気遣いは不要ですよ」とラドを安心させるように微笑んだ。
ラドにしてみれば、マリーの思い付きで急遽予定変更され、強引なイエイツに引っ張って来られた形だ。少し申し訳なさを感じながら、僕は彼が心地よく食事が出来ればいいなと願った。
「ありがとうございます……それではお言葉に甘えさせて頂きます」
深々と頭を下げるラド。僕達から近いテーブルの空いた椅子に座ると、「これは……!」とマリーの趣向であるコタツの温かさに驚いている。
コタツについてマリーが説明したところで、侍女が食事を運んで来た。彼は食前の祈りをした後、空腹だったのかなかなかの早さで食べ始める。それなのにやはり所作に高位貴族を思わせる気品を感じた。
先程コタツについてマリーが説明したことだし、少し探りを入れてみるか。
「そう言えば、ラドさんのご実家は何という商家なのですか? 私のキーマン商会はこれまであまりアルビオン王国とは取引が無かったのですが、このコタツの今後の需要を考えると、羊毛布を少しでも多く取引したいと考えているのですよ」
「猊下、私の実家はトワイニング商会と申します。キーマン商会と比べると、吹けば飛ぶような規模でお恥ずかしいのですが……」
トワイニング商会――視界の端で何故かマリーが口に手をやって呆然としている。
それは後で問い質すとして――僕がジャンをちらりと見ると、微かに頷く。アルビオン王国の商会名を網羅している商会名鑑は、最新のものではないにせよ、近年のものがあった筈だ。
今晩にでもトワイニング商会に関しての何らかの知らせが来るだろう。
「トワイニング商会は何を商っていらっしゃるのですか?」
「ナトゥラ大陸産の宝石類です。後は新大陸渡りの珍しい品を少々……」
つまり貴族と売買で接する機会があるということか。マリーが目を輝かせて商船を持っているのかと訊ねると、首を横に振る。商船を持つ商会と取引し、原石や珍品を仕入れて加工・販売しているらしい。アールと同じような事業内容だ。
いずれ、高級衣装店の事業も始める予定なのだとラドは語った。彼の親は、留学と共に洗練されているトラス王国の服飾を見て目を肥やして来るようにと命じたそうだ。
確かに初めて会った時に受けた説明と矛盾はない。
羊毛の事に関しては「何分取り扱っていない品ですので、満足いくご説明は出来ないかと。申し訳ありません」と謝罪を受けた。
マリーがツンツン、と僕の腕を突く。
「グレイ、難しいお話はこれぐらいで。ラドさん、実は私、貴方を見込んでお願いがあるのですが……」
「聖女様が? ……私に出来る事でしょうか」
戸惑った様子のラド。マリーは「イサーク、いらっしゃい!」と手招きをする。お茶を飲んでいたイサーク様は立ち上がるとマリーの傍にやってくると、胡乱な眼差しをラドへ向けた。
「……誰、その人」
「こちら、ラドさんといって、アルビオン王国のトワイニング商会の息子さんだそうよ。以前、サイア達を迎えに行った時の帰り道で知り合ったの。トラス中央大学に留学して学んでいるんですって」
「へぇ……」
イサーク様は値踏みするようにラドを見た。ラドは気を悪くした様子も無く、「お初にお目にかかります、イサーク様」と慇懃に礼を取っている。
「……初めまして、ラドさん。それで、この人がどうしたの?」
僕と違ってあからさまに警戒を見せるイサーク様。マリーの耳に口を寄せて何事かを囁いている。マリーは苦笑して「ラドさんは大丈夫よ、きっと」とイサーク様の肩を軽く叩いた。
「イサークももうじき大学に入る年頃でしょう? ラドさんは先輩になるから、イサークが色々教えて貰えたらと思ったの」
「そうだったの……」
「ラドさん。今、大学は冬期休暇中でしょう? 先程言ったお願いなのですが、もし宜しければ我が家に滞在してイサークに色々教えてくれないかしら?」
姿を見せたイエイツとラドを、「突然の事で驚かれたでしょう?」と迎え入れるマリー。僕も、「ぎりぎりでしたが、間に合って本当に良かった」と歓迎の意を表明する。
「聖女様、新年だというのに彼は一人つましい食事をしておりましたぞ!」
イエイツの呆れたような声に、ラドは恐縮しているようだった。大学の寮で、買い置きのパンとチーズをもそもそと食べていたらしい。
「申し訳ありません。お手紙を差し上げた通り、私は本来ならとても聖女様のお招きに与れるような身でもなく、しかもこのような形で……本当に宜しいのでしょうか?」
彼の服装を見れば、庶民としては小奇麗な格好だけれど、あくまでも普段着の範疇で晴れ着ではない。イエイツに急かされて上着を引っ掛けてきました、という風情だ。
伯爵家に招かれるには、相応しくないとラド自身も思っているのだろう。
「こちらこそ、お手紙の返事を差し上げる前に急にご招待してしまい申し訳ありませんでしたわ。家人を中心とした気兼ねない昼食会ですから、服装や礼儀等は気にしないで下さいまし」
「マリーの言う通りです。ラドさんの仕事ぶりには私の商会も助けられましたし、僕もジャン達も感謝しているんですよ」
「そんな……猊下。あの時も十分過ぎる程の給金を頂きましたのにお招きまで……」
「ふふふ、また機会があればラドさんの手をお借りする事もあるかも知れません」
僕の言葉に、傍に来ていたジャン・バティストが「そもそもこの昼食会は、平民も異国人も身分関係なく参加しています。私もお招き頂いていますし、若旦那様の仰る通りお気遣いは不要ですよ」とラドを安心させるように微笑んだ。
ラドにしてみれば、マリーの思い付きで急遽予定変更され、強引なイエイツに引っ張って来られた形だ。少し申し訳なさを感じながら、僕は彼が心地よく食事が出来ればいいなと願った。
「ありがとうございます……それではお言葉に甘えさせて頂きます」
深々と頭を下げるラド。僕達から近いテーブルの空いた椅子に座ると、「これは……!」とマリーの趣向であるコタツの温かさに驚いている。
コタツについてマリーが説明したところで、侍女が食事を運んで来た。彼は食前の祈りをした後、空腹だったのかなかなかの早さで食べ始める。それなのにやはり所作に高位貴族を思わせる気品を感じた。
先程コタツについてマリーが説明したことだし、少し探りを入れてみるか。
「そう言えば、ラドさんのご実家は何という商家なのですか? 私のキーマン商会はこれまであまりアルビオン王国とは取引が無かったのですが、このコタツの今後の需要を考えると、羊毛布を少しでも多く取引したいと考えているのですよ」
「猊下、私の実家はトワイニング商会と申します。キーマン商会と比べると、吹けば飛ぶような規模でお恥ずかしいのですが……」
トワイニング商会――視界の端で何故かマリーが口に手をやって呆然としている。
それは後で問い質すとして――僕がジャンをちらりと見ると、微かに頷く。アルビオン王国の商会名を網羅している商会名鑑は、最新のものではないにせよ、近年のものがあった筈だ。
今晩にでもトワイニング商会に関しての何らかの知らせが来るだろう。
「トワイニング商会は何を商っていらっしゃるのですか?」
「ナトゥラ大陸産の宝石類です。後は新大陸渡りの珍しい品を少々……」
つまり貴族と売買で接する機会があるということか。マリーが目を輝かせて商船を持っているのかと訊ねると、首を横に振る。商船を持つ商会と取引し、原石や珍品を仕入れて加工・販売しているらしい。アールと同じような事業内容だ。
いずれ、高級衣装店の事業も始める予定なのだとラドは語った。彼の親は、留学と共に洗練されているトラス王国の服飾を見て目を肥やして来るようにと命じたそうだ。
確かに初めて会った時に受けた説明と矛盾はない。
羊毛の事に関しては「何分取り扱っていない品ですので、満足いくご説明は出来ないかと。申し訳ありません」と謝罪を受けた。
マリーがツンツン、と僕の腕を突く。
「グレイ、難しいお話はこれぐらいで。ラドさん、実は私、貴方を見込んでお願いがあるのですが……」
「聖女様が? ……私に出来る事でしょうか」
戸惑った様子のラド。マリーは「イサーク、いらっしゃい!」と手招きをする。お茶を飲んでいたイサーク様は立ち上がるとマリーの傍にやってくると、胡乱な眼差しをラドへ向けた。
「……誰、その人」
「こちら、ラドさんといって、アルビオン王国のトワイニング商会の息子さんだそうよ。以前、サイア達を迎えに行った時の帰り道で知り合ったの。トラス中央大学に留学して学んでいるんですって」
「へぇ……」
イサーク様は値踏みするようにラドを見た。ラドは気を悪くした様子も無く、「お初にお目にかかります、イサーク様」と慇懃に礼を取っている。
「……初めまして、ラドさん。それで、この人がどうしたの?」
僕と違ってあからさまに警戒を見せるイサーク様。マリーの耳に口を寄せて何事かを囁いている。マリーは苦笑して「ラドさんは大丈夫よ、きっと」とイサーク様の肩を軽く叩いた。
「イサークももうじき大学に入る年頃でしょう? ラドさんは先輩になるから、イサークが色々教えて貰えたらと思ったの」
「そうだったの……」
「ラドさん。今、大学は冬期休暇中でしょう? 先程言ったお願いなのですが、もし宜しければ我が家に滞在してイサークに色々教えてくれないかしら?」
193
お気に入りに追加
4,790
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~
五月ふう
恋愛
ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。
「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」
ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。
「……子供をどこに隠した?!」
質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。
「教えてあげない。」
その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。
(もう……限界ね)
セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。
「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」
「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」
「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」
「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」
セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。
「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」
広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。
(ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)
セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。
「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」
魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。
(ああ……ついに終わるのね……。)
ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」
彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。