貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(178)

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 昼食会の会場となっている大広間への道すがら、「カレル兄の事は一旦置いといて、」とマリーの話は続く。

 「リシィ様とリュシー様がバチバチだったっていうのは……私も気になるけれど。ジェレミー殿下がリシィ様の為に頑張ってくれれば、リュシー様は多少落ち着くんじゃないかしら?」

 ジェレミー殿下が来た時点で状況は変わっていくだろうし、まだ静観した方が良いというのがマリーの意見だった。

 それから色んな事を話しながら歩を進めると、やがて大広間の扉が見えてくる。
 マリーがふふっと笑ったので、その理由を訊ねると、

 「昼食会はちょっとした趣向を凝らしているの」

 と言う。「へぇ、それは楽しみだな」と相槌を打ちながら、扉を開けるべく控えている従僕達に軽く会釈をする。
 重々しい音を立てて大広間の扉が開かれると、そこには一風変わった光景が広がっていた。

 「聖女様、猊下! 新年の寿ぎを!」

 「新たな年の喜びを!」

 「明けましておめでとうございます!」

 遠くにはジャルダン様とラトゥ様含むキャンディ伯爵一家の他、僕の実家ルフナー子爵家の皆、イドゥリースにスレイマン、ティヴィーナ様のご両親、リュサイ様達、エリーザベト皇女殿下にジェレミー殿下の姿が見える。
 近くには使用人の皆、アルトガル達、修道院長メンデル・ディンブラ大司教を始めとするラベンダー修道院の面々、サイア達、ヴァッガー家のディッ……もといキンター、語学教師ロマン・アンシェル及びその妻ンャライ、ヨシヒコ一家――親しい人々やキャンディ伯爵家に滞在している面々は、僕達の移動と共に口々に新年の挨拶の寿ぎを述べる。僕達はそれに会釈を返しながら歩を進める。

 大広間には身分ごとに分かれているのだろう、幾つものテーブルが設えられてあった。
 昼食会は気軽なものだと聞かされていたけれど、こうして集まると壮観なものだ。

 ――不思議なのはテーブルに床に届く程の羊毛布が掛けられているってことなんだけど。これが『趣向』なんだろうか?

 羊毛布の上はテーブルと同じ大きさの板が置かれていて、その上から更にテーブルクロスが掛かっていた。そこに食事の用意が整えられている。
 椅子はと言えばこちらも四つの脚を囲むように羊毛布で覆われていて、それに座っている人々はテーブルの羊毛布をひざ掛けにするように座っていた。

 羊毛布は恐らくカレドニアからのもので、暖を取る為にこのようにしているんだろうけど――それだけではこの季節、少々心許ない気がする。
 そう思ったところで、僕達の席へと到着。そこで僕はテーブルの端から何やら不思議な円筒形のものがはみ出ているのに気が付いた。

 「これは一体……?」

 「まあ、論より証拠。皆と同じように座りましょう」

 悪戯っぽく微笑むマリー。
 さあ座って、と促され。他の皆と同じように座ってみると。

 「わっ、暖かい!?」

 テーブルの下は予想以上に暖かい事が分かった。
 羊毛布をちらりと捲って中を覗き込むと、木枠に囲まれた中に赤い――火が見える。

 「……炭火?」

 「うふふ、正解。これは炬燵っていうの。見ての通り、安全に配慮して木枠で囲った炉で炭火を燃やしているわ。
 ただ、炭火というものは密閉されているとその内毒を生み出すようになるから、通風用の管と窓の定期的な開け閉めが必要だけれどね」

 「ああ、それで」

 納得していると、カレル様と目が合った。

 「これは『当たり』だな。俺の部屋にも欲しい」

 うん、僕の部屋とかルフナー家にも欲しい。大いに同意する。
 というか、これは売れるに違いない。


***


 「……皆への日頃の感謝を込めて。今日は無礼講だ。少々のことは羽目を外しても良いだろう。皆、大いに飲み、食べるが良い。乾杯!」

 全員が揃ったところで、サイモン様が昼食会の挨拶をして皆を労う。大広間のあちこちから歓声が上がり、昼食会が始まった。

 久しぶりにお会いするジャルダン様、ラトゥ様やティヴィーナ様のご実家のペルティエ侯爵家の方々にご挨拶したり、ジェレミー殿下を中心としたラクダの話で盛り上がったりしていたけれど、その内席を立って移動し始めた人が出て来た。

 僕個人に対しては、ジャン・バティストがヤンとシャルマンを連れて挨拶しに来たり、ナーテやサリーナに給仕がてら使用人達を代表して「グレイ様、素晴らしい福袋をありがとうございました!」とお礼を言われたり。
 福袋を手配したジャンはホッとしていて、僕も喜んで貰えたのは良かったと思うけれど、彼女達は昼食会には参加しないのかと少し心配になった。

 「お気遣いありがとうございます。交代制ですので大丈夫ですわ」

 侍女だけではなく隠密騎士達もそうだという。それなら良いんだけど、と僕は後ろに控えるヨハン達をちらりと振り返る。

 メンデル修道院長他、ラベンダー修道院の皆も挨拶に来てくれた。メイソンが騒ぎ、ベリーチェ修道女に叱られる、いつもの光景だった。ただ、イエイツだけは一人新年を過ごすラドを気にかけているらしく、早めにお暇してご馳走を包んで持って行っても良いかと言うので、僕もマリーも勿論だと許可を出した。
 「何なら、ラドさんを連れてきたら良いわ」とマリーが言うと、それならばとイエイツは嬉しそうに踵を返す。
 語学教師ロマン・アンシェル率いる生徒達がちょっとした余興としてトラス王国語で簡単な聖歌を歌った一幕があった後は、僕はひたすら聖女であるマリーに巻き込まれる形で挨拶の応対に終始追われていた。

 そんな昼食会も滞りなく進み、離席者が出始め。そろそろお開きになろうかという雰囲気で――僕達がイエイツを心配し始めた時だった。
 ラドを伴ったイエイツが、慌てた様子で大広間に戻って来たのは。
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